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創立50周年を迎えたシナリオ・センター【第40回マスクの向こう側~コロナ前後で世界はどう変わったか~】

<まえがき>節目の40回目のインタビューは、私の出身校である、表参道のシナリオ・センターにお願いしました(今回はご厚意で、匿名ではなく、実名での登場となります)。これまでに、内館牧子さん、岡田恵和さん、柏田道夫さん、黒岩勉さん・・・枚挙の暇がないほど、多くの有名脚本家を輩出してきました。ドラマ・映画界でも高い認知度を誇ります。今回は代表の小林さんに、コロナ騒動が起こってからの約半年間を振り返ってもらいました。

―自己紹介をお願いします。
表参道で「シナリオ・センター」というシナリオを学ぶためのスクールを運営しています。シナリオは一部の人が才能や感性だけで書くものと思われがちですが、そんなことはありません。技術さえ学べば、誰にでも書けるようになるものです。多くの方にシナリオを身近に感じてもらうために、1970年の創立から半世紀、みんなで取り組んできました。これまで6万人近い方に受講いただき、現在でも600人以上が第一線でプロとして活躍してくれています。テレビドラマでも、出身ライターを見かけない日はないほどです。

―新型コロナウイルスの影響を教えてください。
影響を感じ始めたのは3月です。報道される感染者数が少しずつ増えるのに伴い、通学する生徒も減っていきました。シナリオ・センターではそれまで生徒が書いてきたシナリオを読み上げ、それに対して、他の生徒が感想を言い合うやり方を取っていました。黙って座って講義を聞くのではなく、生徒が肩を寄せ合って“わいわいやる”というスタイルです。楽しく学ぶという点ではいいですが、どうしても感染リスクは高くなってしまいます。そこで緊急事態宣言が出るのを待たずに、4月からは完全に通学をSTOP。同時に出社するスタッフも3名に限定し、他のスタッフ・講師はリモートワークへと切り替え、生徒のシナリオは“添削して戻す”というやり方にしました。5月も同様です。

緊急事態宣言が解除された6月からはZOOMを利用したオンラインの講座に切り替え。状況が落ち着いた7月からは通学を解禁。「座る時は前向き」「人数を制限する」「会話はしない」など感染対策を整えた上で受け入れを図りました。それでも、戻ってきた生徒は6割というところでしょうか。その後、全国的に感染者が増え始めたことから、8月から再度、オンラインに切り替えている状態です。少し神経質すぎるかもしれませんが、感染拡大を防ぐために大切なのは“私が感染しないのと同じように、私が感染させないこと”。これからも万全の対策で望んでいきたいです。

―リモートワークやオンライン化には、スムーズに対応できましたか。
一筋縄ではいきませんでした。表参道のビル自体がとても古かったため、まずは、そのインフラ環境を整えるところからのスタートです。その後も「授業は一度に何人まで受け入れるのか」「内容は見直した方がいいのか」「ホワイトボードの字は見えるのか」「2時間枠のままでいいのか」etc.考えなければいけないことは山ほどありました。参加する生徒に関しても同様です。シナリオ・センターには中学生から80代の方まで、様々な年代の方が在籍しています。パソコンに不慣れな方もいれば、インターネット環境もそれぞれ違います。「テレビ電話なんてやったことない…」「Zoomなんて使えない…」そういう生徒には、操作を個別に分かりやすく教えてあげなければなりません。毎日が試行錯誤の連続です。

初めは予期せぬトラブルもたくさんありました。たとえば、自宅に個室がないため、家族の前で受講しなければならない方の場合、自分のシナリオを読んだり、他の人のシナリオに対して感想を言ったりするのは「恥ずかしくてできない」ということでした。そこで少しでも安心して授業が受けられるように、事務局が代読してシナリオを発表したり、感想もチャットで打ち込めるようにしたり、工夫をこらしました。他にも色々問題がありましたが、回数をこなすことで少しずつ慣れてきました。今は、ある程度、スムーズにできるようになったと思います。

―4月・5月の自粛期間中、印象に残っていることを教えてください。
2020年はシナリオ・センター創立50周年に当たる、めでたい年です。事務局としても、それを盛大に祝うため様々なイベントを企画していました。10月には東京会館を借りて、講師・生徒・OBら800人を招いて創立記念パーティーを開催するつもりでした。その他、公募のシナリオコンテストを大掛かりで行ったり、出身ライターを招いて各種イベントを開催したり…でも、新型コロナウイルスのせいで、すべて白紙になってしまいました。

4月・5月は通学を完全にSTOPしたこともあり、経営的にも苦しいものがありました。でも、一番苦しかったのは、生徒達が“どういう風に考えているのか”それが分からなかったことです。シナリオ・センターの事務局は1階にあり、通学してきた生徒と毎日、顔を会わせることができる位置にいます。顔を見て、話をすれば、相手がどんな状態なのか、どういう風に思っているのか、何となく分かるものです。しかし、リモートではそれも叶いません。自粛期間中、「keep writing」“こんな時こそ、書き続けてほしい”と口を酸っぱく発信していましたが、どれだけの人が本当に書いてくれているのか。そもそも、シナリオ・センターは必要とされているのか…それが分からず、不安でした。経営は苦しいし、先も全く見えないし、生徒達の反応も分からない。正直、「センターも50年で終わるのか…」と思ったこともあります。

そんな中、5月22日、シナリオ・センターが主催する「新井一賞」という20枚シナリオの公募コンテストに多くの応募が寄せられました。例年なら600、700のところに、1000弱の作品が送られてきました。自由に使える時間が多かったとはいえ、正直、創作活動なんて“不要不急”以外の何物でもありません。多くの生徒さんが、先が見えない中でも、シナリオを書くことを選んでくれた。シナリオ・センターを必要としてくれている、そのことが本当に嬉しく感じられましたし、勇気づけられました。「よし、これからも頑張ろう」と思えましたね。

―今の時代、シナリオを学ぶことに、どんな価値があるとお考えですか。
創作するためには想像力が必要です。シナリオを書くのに求められる「想像力」と言うのは、相手を思いやる心のことです。ドラマには色んな人が登場します。それぞれに立場があり、それぞれに考えがあります。大切なのは「どうしてそういうことを言うのか」相手の内面を理解した上で、葛藤や対立を描くことです。一方的な考えだけを描いていては、面白いドラマになりませんし、読み手にも何も届かないんです。
この考え方は、実はシナリオに限らず、リアルな人間関係を作る上でも当てはまります。周囲の人のキャラクターを理解した上で、“どうしたら自分の思いが伝わるか”“自分の希望が通るか”“この人を動かすにはどうしたらいいか”最適な接し方を考えるわけです。今の世の中はコロナを機に、言いたいことが言えない、そういう閉塞感が更にその傾向が強まっているような気がします。こういう時だからこそ、“人に思いを伝えるには、どういう風に伝えていけばいいか”シナリオから学ぶべきことは多いと思います。

―シナリオ・センターの良さをアピールしてください。
単にシナリオを書くための技術、テクニカルなことであれば、独学でも身につけられます。それでも、私達シナリオ・センターを利用していただいているのは、“人”によるところが大きいからだと思います。シナリオは“人間”を描くものであり、どれだけテクニカルなものを身につけても、肝心の“人”を知らなければ、書くことはできません。その点、シナリオ・センターには中学生から80歳のお年寄りまで、たくさんの人がいます。「シナリオを書きたい」という共通の志をもって机を並べているわけです。色々な人がいて、色々な出会いがある。それがシナリオを書く上で、大きな利点になっていると思います。

なお、受講している生徒は、必ずしもプロ志望の方に限りません。「楽しい時間を過ごしたい」「仲間を作りたい」「言いたいことを言えるようになりたい」目的は人それぞれです。シナリオ・センターはプロのシナリオライターを養成する場ですが、それにとどまらず、シナリオの裾野を広げていくための場でもあります。実際、その一環として、これまで様々な企業で研修を行ったり、小学校の課外授業に出かけたり、センター外の活動にも幅広く取り組んできました。目指すは「1億総シナリオ・ライター化」。日本中の人にシナリオを書いてもらいたいと思っています。ご興味のある方はぜひお問合せください。

―今回の新型コロナウイルスをどうとらえていますか。
経営者としては深刻な問題ですが、創作に携わる人間としては“得難い経験”になるのではないかと考えています。今のような状況は、誰もが初めて経験することです。しかも、局地的なものではなく、世界中同時にみんなが同じことを経験しているわけです。被害をこうむった方には大変心苦しいし、不謹慎な言い方になってしまいますが、学ぶべきことはとても大きいのではないでしょうか。危機的状況になると、普段垣間見えない面が露わになってくることもあります。“この人、これまでいい面しか見えなかったけど、実はこういう悪い面もあった”。それは嫌な経験かもしれませんが、作家としての視点が養われるという意味では決してマイナスではないと思います。

―新型コロナウイルスを経て、今後の展開・希望があったら教えてください。
これまでのように「通学にこだわる」「たくさんの人を集める」というやり方はできません。たとえ、通学できるようになったとしても、今まで通りにオンライン授業や添削などを並行して進めていくつもりです。人には会えなくなったし、会いづらくもなった。確かに、物足りなさはあります。でも、必ずしも悪いことばかりではないと思います。6月のオンライン授業には、米国にお住まいの方や、北海道、愛媛など、これまでは遠隔地にいるのを理由に受けられなかった人にも参加してもらえるようになりました。“シナリオ・センターの今後の可能性も広がった”とポジティブに受け止めています。
問題なのは、その触れ合いをリモート下でどのようにして担保していくかです。会えないからダメではなく、やり方次第では育むこともできるはず。この夏、スタッフ・講師一同気持ちを新たに取り組むため、生徒一人ひとりに“感謝の思いを伝えよう”ということになりました。では、どう伝えるのが一番いいか。議論を重ねた結果、たどり着いたのが、生徒一人ひとりに手書きで葉書を書くことでした。オンライン化を進めているのに、考えついた結果が最もアナログな手法だったというのが少しおかしかったです(笑)。でも、必ずしも、デジタルな新しい手法が正しいわけではない、というのには勇気づけられました。どんなことにも工夫の余地はあるものです。この先、新型コロナウイルスを乗り越えられたとしても、まだまだ色んなことが起こるでしょう。余り先を見てもしょうがないので、とにかく“未来は明るい”と信じて、みんなで頑張っていきたいですね。(シナリオ・センター代表/小林幸恵)

<編集後記>マスクの向こう側ではこれまで“コロナ前後で世界はどう変わったのか”というテーマのもと、様々な業界の方々のインタビュー記事を連載してきました。新型コロナウイルスの感染拡大は全く止む気配がありませんが、それに伴い、インタビューの実施も難しくなっています。私自身の仕事上の問題もあって、40回を迎える今回を一つの区切りとすることにしました。これまでお付き合い頂き、本当にありがとうございます。後日、改めて振り返りを行わせて頂きます。このインタビューを通じて、感じたこと、学んだことをまとめて、発表できればと考えています。(舘澤史岳)

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