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<まえがき>緊急事態宣言が発出されて以来、街中で配送トラックを目にする機会が多くなったように感じています。我が家でも買い物での「密」を避けるために、ネット通販を利用することも増え、宅配業者の方には本当にお世話になっています。そんなこともあり、なんとなく「物流業界は元気なんだ」と思っていました。その物流業界の「今」を、地方都市で運送業を経営する方から伺いました。

―どんなお仕事をされていますか。
地方都市で貨物を輸送する運送会社を経営しています。

大手メーカーを中心に約20社の企業とお取引をいただいてます。運送、といっても色々な種類がありますが、私たちが手掛けるのはいわゆる「港湾輸送」に携わる分野。主に自動車のエンジンや工業製品部品の素材となるインゴット(鋼鉄などの塊)を、港にある倉庫から各メーカーさんへお届けしています。かっこよく言えば、日本が世界に誇るものづくりを根幹で支えるサポートを行っている…というところでしょうか。

―コロナ以前と比べて、どんな変化がありましたか。
業績は以前の4割減にまで落ち込んでいます。
当社では20名のドライバーが活躍してくれています。これまでは、それぞれの運行距離が1日平均200~300km。20台の大型トラックで中距離輸送を中心に、月22日フル稼働で運送を行っていました。それが3月半ばくらいからじわじわと減り始め、緊急事態宣言後の売上でいえば、ほぼ50%近い減収になっています。原因はメーカーさんの製造が止まったこと。メディアでも「自動車メーカー各社で工場稼働停止」と報道されていましたが、止まったのは乗用車だけでなく、重機などいわゆる働く車も含むすべてがストップ。取引先であるメーカーの製造自体がストップすれば、当然私たちの運ぶインゴットの需要もなくなってしまいますから。

ー通販利用者や在宅勤務者が増え、物流の需要は高まっている印象がありましたが?

物流業界でも元気な企業は限られているのかな。

いわゆるスーパーやドラッグストアなどの小売店へ商品を配送している企業や、宅配業者さんなどは、かなり忙しいと思います。でもそれは、業界のごく一部。同じ物流でも取引先によって現状は様々です。たとえば私たちの住む地域では、魚の養殖業が盛んです。真鯛などの高級食材を首都圏の市場や飲食店に卸すため、以前は車体に「鮮魚」「活魚」など書かれた輸送車を頻繁に見かけていましたが、最近はほとんど見なくなりました。全国の寿司屋や料亭など多くの飲食店が休業しているため、魚たちの行き先がないんですよね。つまり、まったく売れない。とくに豊洲などの市場はガタガタだそうです。稚魚から成魚に育てても、出荷できないわけですから、生簀で飼育だけを続けている状態。今までであれば必要なかった成魚用のエサ代もかかってきますよね。売上は大幅に下がり、コストだけが増える…かなり大変な事態だと業者さんに聞いています。

―これから業界(世界)は、どう変わっていくと思いますか。

これから1年は辛抱する時間だと考えています。
と、いうか待つしかない(笑)。たとえば国内での製造が復活し始めたとしても、業界景気が全面的に回復するわけではありません。私たちは重機の部品資材も多く運んでいますが、各メーカーの売上は国内よりアジアをはじめ海外諸国への輸出の方が割合が大きい。つまり、世界の流通が元に戻らなければ、「今まで通り」になることはありえないんです。単純に新型コロナウィルスが鎮静すればいいというわけではないことも問題点の一つです。最近、表に出始めた「アメリカvs中国」の問題も、製造・輸出関連企業には大きな影響を与えます。現段階では完全に膠着状態なだけに、すべてが良い方向に解決し、業界全体がまた動き出せる日を祈って待つことしかできないんです。

新規事業開拓に向かう気持ち?今はありません。
繰り返しになるけれど、今は「待ち」の時間。目先の増収にあせって、新しい仕事に手を出したとしても、いいことなんてないと思ってます。値段を下げて仕事を受注して、トラックを走らせたとしても、業界に活気が戻った時、増やした仕事が足かせになってしまうのでは本末転倒ですから。もちろん経営者としての歯がゆさもあるし、1年を目処に待って状況が変わらなかったら…など不安になることもありますよ。でもジタバタしたって仕方ないというか。原因はウィルスですから。どこかに営業をかければ解決するような問題じゃありません。だから、今ある仕事を今までと同じように丁寧に続けることが、一番大切なこと。お客様との信頼関係を今まで以上に強固にし、一緒にこの難局を乗り越えていきたいと思っています。そうすることで、コロナ後の新しい時代の物流サービスの展開につなげていくことができるなら、逆にそれはすごいことだと思いませんか?
(Oさん/運送企業代表取締役社長)

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