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第7回インタビュー「損保事故センター/管理職」2020/5/27

<まえがき>外出を控えた緊急事態宣言下。毎日、ベランダの格子から下界を覗き見る。そんな生活が続きました。そこから見える道路はいつもより交通量が少なく、その分、救急車やパトカーなど救急車両が目立っていたような気がします。日本では毎年3000人強の方が交通事故で亡くなられていると言いますが、コロナ前後で何か変わりがあったのでしょうか。今回は、交通事故に関係した仕事についている方にお話をお聞きしました。

―どんなお仕事をされていますか。
交通事故サービスセンターの所長を務めています。
大手損害保険会社で働いています。取り扱っているのは、自動車を購入した際に加入する任意の自動車保険です。一口に交通事故と言っても物損事故・人身事故など種類は様々。「車体に傷がついた」という軽微なものから「相手方が亡くなってしまった」という死亡事故にいたるまで被害も様々です。一般には「保険会社=いざという時は保険金を出し渋る」と思われていますが、実態は全然違います。事故状況や過失の割合によって支払われる保険金の額も変わってきますが、少しでも加入者様の有利な条件になるように示談交渉したり、迅速に保険金の支払い手続きをしたり、真摯に取り組んでいます。中には一部、裁判所に調停を求めたり、訴訟を起こしたりする加入者の方もいますが、ほとんどの方が私達の提案する条件で示談に納得して頂いています。

―コロナ以前と比べて、どんな変化がありましたか。
緊急事態宣言後、人の移動が減り、交通事故も3、4割減 になりました。
4月8日の緊急事態宣言以降、政府の方針に従い、センターの活動を在宅のリモートワークへと切り替えました。もともと、センター業務は電話でのやりとりがメインだったため、簡単に切り替えられそうに思えましたが、実際にはかなり困難を伴いました。まず、在宅ワークを想定していないため機材がありません。そのため、新たにパソコンや携帯、Wifiを購入しなければなりませんでした。インフラが整った後はシステム・オペレーションです。情報共有の仕方、仕事の段取りなど、ノウハウがない中で「この画面はこうした方が見やすい」など各人で試行錯誤しながら取り組みました。また保険請求には多くの紙ベースの書類が必要なのですが、さすがに自宅でその受け取りを行うわけにはいきません。そこで、徒歩で出社できる人間が出社して郵便物をPDF化して送付するなど、分業体制も構築しました。最初の1週間はドタバタで正直、どうなることかと心配しましたが、緊急事態宣言下で交通事故が大幅に減ったおかげもあり、今は何とか機能するようになっています。

「本社と拠点」は「国と地方」のような関係性に。
報連相という言葉がありますが、在宅ワークで一番苦労したのは“相談”の部分です。交通事故に遭った方は、多くが感情的になっています。私達センターの人間は、その矢面に立って状況整理・示談交渉をしなければならないため、非常にストレスがかかります。周囲がフォローするのはもちろん、局面によって「こういう時にはどうすればいいのか」アドバイスを仰ぐことが欠かせませんが、リモートではそれが難しい状況です。しかも50名ほど従業員いますが、在宅環境も様々です。家に子供がいる状況下で「交通事故被害者に電話をしたくない」という社員もいれば、「どこでオンオフを切り替えていいか分からない」という一人暮らしの社員もいます。一様に「こうすればいい」というわけにはいきません。本来なら本社の指示を仰ぎたいところですが、今の本社と拠点はコロナ対策における国と地方のような関係で、残念ながらリーダーシップは期待できません。業務の進め方に関しては近隣の拠点と状況やノウハウを共有。マネジメントに関しては、こまめに電話をしたり、自宅を訪問したりしてメンタルケアを心がけるなど、現場主導で取り組んでいます。

―これから業界(世界)は、どう変わっていくと思いますか。
通り一辺倒で、リモートワーク化が進むことには反対です。
機材やシステム、ノウハウがない中で、急なリモート化に対応したため「やればできる」と本社には思われるかもしれませんが、実態は異なります。困っている保険加入者様を何とかして助けてあげたいという思いから「こういう風にしたらどうだろう」と互いに知恵を持ち寄った結果です。むしろ俗人的なやり方だったからこそ、上手くいったのだと思います。コロナをきっかけにして今後、様々な業務がリモート化されていくのはやむを得ないとしても、感染症対策とは別に、単なる効率化の面からその流れが加速することには反対です。

「不要不急」で盛り上がれる世の中がいいですね。
「会社に来るのが楽しみだった」「仕事っていいなと思った」。従業員にはリモートワーク下でも週1回くらい無理のない範囲で出社してもらっていましたが、緊急事態宣言後、初めて出社した従業員がそう口にしたのに驚きました。それくらい、不安で、気づまりな思いをしていたようです。いくらオンラインで「いつでも相談できる」と言っても、所詮、オンラインで話せることは限られています。天気の話をするためにわざわざ連絡をするわけにもいきません。でも、天気の話をするだけで気分が晴れやかになることもあるわけです。“不要不急”とは言うけれど、何気ないその繰り返しによって、人の営みは支えられている。これはコロナがなければ分からなかったことです。これまで部下や後輩を飲みに誘うと、断られるケースが多々ありました。もしかしたら、今後は安全面さえ確保できれば、“不要不急の貴重な場”として、楽しみにしてもらえるのではないかと、今から楽しみにしています(笑)。(Tさん/損保事故センター)

マスクの向こう側では取材対象者を募集しています。
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可能な限り取材いたします(オンライン・1時間程度)。
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【連絡先】
masukunomukougawa-2020@yahoo.co.jp
コロナ前後で大きく世界は変わります。数年先、必ず、ターニングポイントとして振り返った時、「あの時、何があったのか」をボトムアップで記録しておきたいと考え、企画をスタートさせました。継続するためにも多くのかあにフォローしてもらえるとすごく嬉しいです。twitterもやっています。

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