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第5話「憧れは紫煙に消ゆ」 Part2 #hk_amgs

碧空戦士アマガサ
第5話「憧れは紫煙に消ゆ」

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▶︎目次

(前回までのあらすじ)
 凛がポルターガイストに遭い、気を失ったのと同じ頃。町の一角にある美術館の屋根が吹き飛んだ。
 犯人・雨狐ジロキチの前に、雨狐の幹部・イナリと紫陽花が姿を表した。紫陽花はジロキチに、「仕事」を頼みたいと申し出る。

- 2 -

 晴香の馴染みの焼肉屋<Nakaz-Tobaz>は、今日も今日とて鳴かず飛ばず。金曜の夜だというのに客は晴香とその連れと、あとは家族連れが1組だけだ。

「連続、盗難事件?」

「うんー」

 そんな晴香の言葉に、向かいでジョッキを手にした女性が頷いた。

 晴香とは真逆の、ふんわりした雰囲気の女性だ。下がった目尻に困り眉。ふわりとパーマの掛かった髪は、明るい茶色に染められている

 彼女は、名を神崎涼子という。晴香の同期で、もう7,8年の付き合いになるか。

「最近言い寄ってきたカチョーさんの話によると、ここ2週間くらい空き巣が連続発生してるんだってー」

「しれっとえらいこと言ったな今」

 補足だが、涼子は警察署の事務員である。彼女はいつものように晴香のツッコミをスルーして、説明を続ける。

「どれも手口は同じで、家屋に侵入して、物を盗んで、あとは天井を爆破して逃げるの」

「爆破?」

「うん」

 頷くと、涼子は左手に持ったジョッキを煽る。ほぼ満タンに入っていた金色の液体はみるみるうちに飲み込まれ、一瞬で1/3ほどまで減ってしまった。

「ぷはぁ。なんかー、平屋の屋根に大穴開けたとかは当たり前みたいで。3階建ての建物の全部のフロアにー、穴を開けて逃げたとかもあったらしいよ」

「上から逃げないと死ぬ病気かなんかかよ」

 眉をひそめる晴香。その前で、涼子は左手にジョッキを持ったまま、鉄板にピーマンやタマネギやトウモロコシを並べていく。野菜嫌いの晴香にとっては信じられないことだが、涼子は焼肉屋で肉の倍の野菜を食う女だ。

 負けじと牛肉を並べながら、晴香は涼子に問いかけた。

「つーかその場合、連続爆破事件なんじゃねーの? 盗難じゃなくて」

「あ、そうそう。カチョーさんたちも最初はそう思ってたらしいんだよね。ただ……って晴香、私のお肉も取っといてよ?」

「わかってる。1/3な」

「さーんちゅ♡」

 テーブルの上のサンチュを手にとってパチリとウィンクする涼子。晴香は半目でそれを睨むが、彼女は構わずに話を続けた。

「でー、泥棒の話だけど。一昨日宝石店が被害に遭って、その時にでっかい宝石がなくなってることがわかったらしくて──」

「……なるほど。まさかと思って他の事件を洗ったら、色々と盗まれてた、と」

 肉を回収しながら晴香が口を挟む(晴香にとっての最適焼き時間は10秒だ)。涼子は「そゆこと」と相槌を打ちつつ、野菜の類を裏返した。

「ねー? 面白いでしょー?」

「そうだな。で、その話を私に持ってきたのはなんかあんのか?」

 そもそも今日の会は涼子の方から「話がある」と言ってセッティングされたのだ。もっとも、会の前半は新しい彼氏の惚気話ばかりだったが。

「んふふー。それはねー」

 涼子は最高のイタズラを思いついたクソガキのような笑顔で、テーブルの上に置かれたサンチュを再度手に取ると、晴香に向かってウィンクした。

「ひみちゅ♡」

「トングで殴るぞ」

「いやーん晴香、素手じゃないだけ優しーい!」

 ケラケラと笑いながら「すみませーん! 生ー! おかわりー! ふたーつ!」などと叫ぶ涼子。彼女は満面の笑みのまま、生焼けの野菜を自分の皿に取った。その目は若干焦点があっていない。できあがっている。

「おいそれ焼けてねーぞ……つーかお前いつの間にそんなできあがってんだ」

 晴香が指摘する間に、店長がジョッキをふたつ、涼子のもとに運んできた。涼子は「あざぁーす!」と元気よく返事をしつつそれらを同時に受け取って、まずは右手のジョッキに口をつけた。

「っておい!? そんな一気に飲むな!」

 右のジョッキは5秒で空になった。

「っぷはぁ! だーいじょーうぶ! 今日はあたしの奢りだからー!」

「いやそういう問題じゃなくてな」

「だってー! 晴香と飲むの久しぶりなんだもーん!」

 ため息をつく晴香を尻目に、涼子はもう片方のジョッキを一気に煽る。CMの依頼がきそうなほど旨そうに喉を鳴らし、彼女は空のジョッキをドンっとテーブルに置いて。

「……………………きゅう」

 ブレーカーが落ちたかのように、動かなくなった。

「言わんこっちゃねぇ……おい、寝るな。おい」

 その様を見て、晴香は盛大なため息と共に涼子の頭を小突いた。「んー」と返事をした彼女であったが、そのままテーブルに頭を載せて完全に眠ってしまった。

「……しゃーねぇ。とりあえずこっからだと、ウチよか本部のが近いか……」

 そんな涼子を見下ろして、晴香はひとりごちる。そして、涼子の皿に山盛りになった野菜たち(生焼け)を見て再度ため息をついた。

「つーか、オチるならせめて野菜食ってからにしろよな……」

 晴香はその野菜たちを再加熱すべく、鉄板に戻す。そして、苦手な物を食べた後の口直しの品を注文すべく、厨房に向かって声をあげた。

「おっちゃーん! カルビ二人前追加ー!」

(つづく)

作者より:
 涼子さんは過去に書いた短編『午前3時の交差点』に出演した、バンドマンの彼氏に浮気されて晴香に愚痴りまくってたあの子です。
 彼女の見た目や性格のデザインに際しては、Times:Midnight等の最高の百合小説シリーズを展開する遠野さんを有識者に招きました。いやマジで助かりましたほんとありがとう。

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遠野氏と検討した神崎涼子氏のモンタージュ写真
(Picrew - ガオmakerを使用)


次回更新:10/7
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