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第5話「憧れは紫煙に消ゆ」 Part1 #hk_amgs

碧空戦士アマガサ
第5話「憧れは紫煙に消ゆ」

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(前回のあらすじ)
 時雨本部に忘れ物を取りにきた凛の身を、ポルターガイストが襲った。捨身の作戦で湊斗に助けを呼んだ彼女だったが、その直後、何者かに襲われて気を失ってしまう。
 一方その頃──

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 満月の浮かぶ穏やかな夜。

 月明かりに照らされて、閑静な住宅街が白く輝いている。

 その一角、特徴的な三角屋根がトレードマークの、小さな美術館がある。その名も、<大広間美術館>。「地域住民にとっての憩いの場となるように」という願いが込められた名だ。

 オーナーでありキュレーターの大野氏こだわりの名品が所蔵されているのみならず、建物自体も国の指定文化財として登録された年代物であり、小さいながらも遠方から訪れる客も多い人気の美術館である。

 その屋根が今、爆発・崩落した。

「……思っていたよりだいぶ派手だな」

「お? 動いたか?」

 美術館の隣家の屋根上に、爆発を眺める影がふたつ。

 ひとつは、血のように赤き鎧の武者。名をイナリ。もうひとつは、夜色の袍に身を包む宮司。こちらは名を紫陽花という。

 両者ともその顔は狐の面と同化しており、垣間見える肌は漆黒の鱗に覆われている、怪人である。

 "雨狐"。彼らは自らをそう呼称する。

「おい紫陽花、状況を教えろ。なんも見えん」

「まぁお待ちください。今に見えますよ」

 イナリの言葉に淡々と応え、紫陽花は空を見上げる。星の煌めく満月の夜。雲ひとつない夜空──程なく、そこからポタリと雨の滴が落ちてきた。

「ほら、降り出しました。まもなく見えるはずです」

 星空から注ぐ天気雨は、みるみるうちにその強さを増してゆく。そのうち、イナリが「お!」と声をあげた。

「見えた見えた……ってダハハ! 確かに、ガッツリ穴ァ空いてんな!」

 そう。イナリが「なんも見えない」のは、夜目が効かぬせいではない。彼は──というか、多くの雨狐たちは、天気雨の下でなくば現世のモノに触れることはおろか知覚すらもできないのだ。例外は紫陽花と、その配下の一部の者と、羽音配下の子狐くらいである。

「このくらいの雨じゃ火は消えねーわな。おーおー警報かこれ? 大騒ぎだな!」

 イナリは、天気雨が降り注ぐ大穴を見ながら楽しげに笑っている。それを一瞥し、紫陽花は口を開いた。

「さて、そろそろ出てくる頃合いかと──」

「おーやおやおやァ? イナリの旦那に、紫陽花サンじゃねーっすか」

 ひょうきんなその声は、イナリと紫陽花の真上から聞こえた。一瞬の後、声の主はふたりの正面に着地する。ぴしゃん、と雨が跳ねた。

 そいつはゆっくりと立ち上がると、満月を背負って大袈裟に一礼してみせる。

「どーも、ご無沙汰しておりやす。ジロキチです」

 狐面をつけた忍者のような格好、と言えばわかりやすいだろうか。

 だぶついた黒い甚兵衛を身にまとい、二の腕やスネのあたりの布は邪魔にならぬよう縛ってある。仮面のほかは着物も頭巾も、背負った小太刀の鞘すらも黒色で、今にも闇に溶けてしまいそうだ。

「いやぁ、わざわざご足労いただくなんて申し訳ねぇ。呼び出してくださりゃよかったのに」

「連絡手段を持ち合わせていない奴がよく言う」

「なはは、そーでした」

 呆れた様子の紫陽花に、ジロキチがカラカラと笑う。そんな彼の持つ布袋に目をやって、イナリが問いかけた。

「ちなみに今日はなにを盗んだんだ?」

「へい、この彫像です」

「ほぉ。値打ちモンか?」

「いやぁどうなんすかね? 直感で盗んでっからわかんねーです」

 ふたりがそうして会話するうち、遠くからサイレンの音が聞こえてきた。爆発を聞きつけて、周辺の住民も集まってきているのを見下ろして、紫陽花は会話に口を挟んだ。

「……長話する時間はなさそうだ」

「ああ、そうでしたね。お仕事っすか?」

「ああ」

 大袈裟な動きで紫陽花に向き直るジロキチ。紫陽花は淡々とした口調を崩さず、言葉を続けた。

「"神の欠片"が見つかった。状況的に、お前が適任だと思っている」

「なるほど。些細教えていただきましょう」

「頼むぜ<降り込む>。おめーの力なら余裕だろ?」

「いやあ……はは、やだなぁ王様」

 口を挟んできたイナリの言葉に、ジロキチの声音が変わった。

「オイラのことはジロキチと呼んでくださいよ。<降り込む>でなく」

「あー、そうだった! わりーわりー」

 反省の色なく笑うイナリを、ジロキチは睨み付けている。紫陽花はため息をひとつついて、言葉を投げた。

「とにかく。場所やら些細を説明する。場所を移すぞ」

「かしこまりですよ。……あー、ただ、そうさな」

 ジロキチは思案するように言葉を切る。首を傾げたイナリと紫陽花に、彼はひょうひょうと言ってのけた。

「一服してからでも、良いっすかねェ?」

(続く)

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