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あなたは良い思い出を取り出してくる度泣きそうになる人

 拝啓

 良かったことを思い出す度に泣かないように笑い顔をつくって話す癖があなたにはあります。(その癖はわたしにはとても綺麗に見えます)
 良かったことを思い出す度になんで泣きそうになるのかを知ろうとして、肥満細胞症か何かで痒くなった足を信号待ちで休ませながら考えていましたが、わたしは泣くのを堪えられないから忘れただけです。

何も出来なくても全てが良くならないかな

 と言ってる子が高いところから飛び下りて、わたしの人生からいなくなった。
 2回。

 それ以降のわたしは全てを良くしたくて何か出来ないかなとばかり思ってずっと足掻いて
 何もかも無くなれとあの子が気分で言ってしまうのは納得してないのに非力であることを嘆いていたからだと知っていて、誰も自分で感じているほど非力じゃないと証明する方法が見つからないまま、わたしはその道の途中にいます。

 人の目の、あの子たちの目に映っていると知ったわたしが何百倍頑張れたか、あの子たちは知らなかったし、わたしが何かを感じ取っているあの子たちをどんなに頼りにしていたかもきっと知らなかった。

 あまりに悲しくて、あの子たちが思いを話している瞬間に生きていたわたしの、あの日の気持ちを記憶から消しました。
 二度と愛し愛されないよう心から楽しくて笑ったりしないよう
 もう会いにゆく方法がなくなっても悲しくないよう

 でも、友情の思い出、わたしはまだ生きていて、みんな失くすだけの命を過ごしているとは言いたくないから、背中を押してよ、と思ったときに
 あなたが良かったことを思い出すたび泣かないように気をつけている理由がわかって

 あの日の気持ちを忘れないまま、ちゃんと生きているからだ。

 わたしは思い出します。怖がらないで。
 今は冬の風みたいに厳しい日々です。交差点を過ぎて、痒くないフリして我慢しながら疾く歩いて、歩いた先で妹に「あのかゆかゆが始まったんだよ。18の頃からずっと治らない」と言いました。(伝えられるのは、彼女がわたしの足の痒くなるのを前から知っているからで、知っている人に話せるというのは幸せなことです。記憶を共有している)
 あの子たちが、一緒に思い出を話せなくなった季節は、どちらも初夏で、風の暖かいときです。
 今もいつかは誰も話せない思い出の日々に変わるから、笑いましょう。お目に掛かれたときは、きっと悲しませないと誓います。口に出さずに。
 
 草々不尽

 Y(これを見た方々)様
 令和4年1月28日金曜日付
            J

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