フードロスよりも深刻な「衣服ロス」
世の中に出回る衣服のうち約半数が誰の袖にも通されることなく廃棄されてしまっていると聞いて、みなさんは何を思うでしょうか。
「捨てられるくらいなら安く売ってくれたらいいのに。」「貧しい国の人たちに分けてあげるべきでは?」おそらく多くの人がこういった感想を持つでしょう。もちろんこのような選択があることは、アパレル企業の経営者たちも知っています。それでもそうできないのには一体どういった理由があるのでしょうか。
今回はこういったアパレル業界が抱える衣服ロスの問題とそれによる地球環境や地域社会への影響について述べていきますので、最後まで目を通していただけると幸いです。
衣服ロスの実態
近年その実態がしばしば取り上げられるフードロスの問題。日本人一人当たりの食品ロスの量は年間約45kg(農林水産省調べ)にも上り、問題解決のためにさまざまな意見が交わされています。しかしその一方であまり触れられていない問題が、「衣服ロス」(洋服ロス)の問題です。
昔と比べ、流行りのファッションが手に入りやすくなった近年ですが、実際1990年には年間20億着程度であった衣服の供給量がここ30年でおよそ倍増し、2019年には39.8億着となっています(日本繊維輸入組合調べ)。その裏には近年のファストファッションの台頭があり、現在もその供給量は上昇し続けています。そしてここで問題となるのが、その供給量に対する衣服の廃棄量、つまり「衣服ロス」の量です。
日本政府のシンクタンクでもある日本総合研究所の統計によると、日本国内の衣類の新規供給量は計81.9万トン(2020年)であるのに対し、約9割に上る計78.7万トンもの衣服が家庭及び事業所から手放されており、その中でも64.8%に当たる51万トンの衣服が一年間の間に廃棄されています。ゴミとして出された衣服はほとんどが焼却・埋め立て処分(95%)されており、繊維として再資源化される量はたった5%しかありません。焼却・埋め立てされる衣服の量は1日約1,300トン(年間48万トン)、大型トラックの積荷に換算して約130台分の服が毎日焼却・埋立されていることになります。その中には、購入された後に一度も着用されることなく廃棄されるもの、あるいはそもそも誰の手にも渡ることなく、アパレル企業自らによって廃棄処分されてしまう服も多数存在しています。
バーバリーの大量廃棄報道
2018年に、ファッション業界の根幹を揺るがす報道が世に出回り、大きな問題となりました。その報道の内容は、イギリスの高級ファッションブランドのバーバリーが日本円で42億円相当もの売れ残り商品を焼却・破壊処分をしていたというものです。
バーバリーが2018年6月に同ブランドの年次リポートを発表し、その報告書に記載されていた売れ残った洋服やアクセサリー等、3700万ドル(約42億円)相当を新品のまま焼却・破壊処分していたという事実が報道され、大きな物議を醸すこととなりました。
同社の広報は、「バーバリーは余剰在庫を最小限に抑えるための綿密なプロセスを持っている。製品を処分する必要がある場合は責任を持って処置し、廃棄物の軽減と再利用の方法を模索し続ける」と話したものの、セレブや環境保護団体といった環境意識の高い人々による批判は避けられず、ネット上では「#boycottBurberry」というハッシュタグが出回り、バーバリーに対する不買運動が起こる結果となりました。
この報道によって経営に大きな影響を受けることとなったバーバリーは、同年9月にプレスリリースを公開し、「バーバリーは直ちに、売れ残った製品を破壊する行為を止めることにした」と発表しました。
最も、この問題はバーバリーに限ったことではなく、他にも多くの企業が大量廃棄をおこなってきていたものの、その事実が明るみになることはありませんでした。バーバリーの報道後は大量廃棄の事実が明るみになるアパレルブランドが後を立たず、高級ブランドのカルティエやピアジェなどを傘下にもつスイスのラグジュアリー製品大手のリシュモンやスウェーデンのファストファッションブランド大手H&Mも大量の在庫を焼却していると指摘され、ファッション業界の大量廃棄の問題が浮き彫りとなり、国際社会全体の問題として取り上げられるようになりました。
なぜ新品の服を「捨てる」のか
そこで冒頭でも述べた「捨てられるくらいなら安く売ってくれたらいいのに。」「貧しい国の人たちに分けてあげるべきでは?」という問いに立ち返りますが、アパレルブランドがこれを実現できないのには明確な理由があります。
理由は主に二つあって、一つ目には、企業が在庫管理コストを抑えるために常に衣服を廃棄し続けているということが挙げられます。在庫を保管するのにもさまざまなコストがかかります。設備費用や倉庫の保険料、人件費など、在庫の規模が大きければ大きいほど、それに伴うコストは高額になります。さらに衣服を在庫として保管するのではなく、廃棄することで、廃棄コストを経費として計上できるため、企業は節税を図ることができるのです。
二つ目の理由はブランド価値の保護です。アパレルブランドにとって最も大事な基準の一つがブランド価値です。実際私たちが日々着用している服は、近年の技術革新によって、高級ブランドであってもファストファッションブランドであっても商品自体の品質にはさほど大きな差がなくなってきているというのが事実です。それでも人々が高級ブランドの服を求めるのはそのブランドにブランドとしての価値があるからであり、個人もそれらを身につけることで自らのステータスを高く保っているのです。そういったブランドとしての価値を無視して、売れ残った商品を格安で売ってしまっては、消費者の中に、このブランドのアイテムはある程度時期が経つと安く手に入るという意識が芽生えてしまい、次第にブランドとしての価値が低迷してきてしまうのです。それを防ぐために大手アパレルブランドの多くは在庫の多くを廃棄処分してしまっているというのが、企業が売れ残った衣服を格安で販売したり寄付に回したりしないことの大きな理由です。
私たち個人ができること
今までの記事でも度々述べていることではありますが、こういったファッション業界の問題はアパレル企業だけに責任があるわけではありません。アパレルブランドのビジネスは私たち消費者の消費行動によって保たれ、成長します。企業は消費者が商品を求め続ける限り新しい製品を作り続け、消費者がノーを突きつけない限りは企業の製造や販売の仕組みを変えることはありません。私たち消費者は、こういった不条理な事実から目を逸らさずに、問題解決に対して一人一人が責任感を持って消費行動をおこなっていく必要があります。
また、衣服の廃棄を行なっているのはアパレルブランドだけではありません。むしろ廃棄される衣服のほとんどは一般家庭から出されるものであり、その量は日本国内だけでも年間75.1万トンにも及び、その多くが焼却処分されてしまっています。読者のみなさんの中にも、新しい服を買ったはいいものの、サイズが合わなくなったり、好みでなかったりして、まだ着れるにも関わらず処分してしまった経験がある方も多いのではないでしょうか。実際環境省の調べによると国民一人当たり25着もの服が1年間1度も着られないままクローゼット眠ってしまっていると言われています。つまりこの問題の最大の解決策もやはり、消費者個人が消費行動を改めることであり、購入する前に本当に必要かどうか考えることや、購入した服を長く着続ける心構えが私たち消費者に求められているのです。
それでも不要になってしまい処分したい服がある場合にも、古着として買取業者やフリマサイトを通じて販売することや、慈善団体や寄付業者に寄付するなど、ただゴミとして処分する以外にも方法がいくつかあります。しかしこういった方法にも、消費者が事前にしっかり理解しなければいけない点があります。それについてはまた次の記事で詳しく説明していきますので、次回以降の記事にも目を通していただけると幸いです。
他にも問題視される「ファッション業界の闇」
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著:Tasuku
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