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新疆ウイグル自治区における深刻な人権侵害

前回はバングラデシュの縫製工場の実態を紹介しましたが、今回は衣類の主な原料である「綿」が生産される過程で生じている問題について触れていこうと思います。

前回の記事↓

前回の問題と比べ、今回取り上げる新疆ウイグル自治区での問題にはみなさんも比較的聞き馴染みがあるかもしれません。最近ではニュースでも度々取り上げられる、中国におけるこの地域での人権侵害問題ですが、この問題がいかにして引き起こされ、どれほど深刻なものであるかを、順を追って説明していきます。

新疆ウイグル自治区とは?

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中国北西部、上の画像で赤く塗りつぶされている部分に位置する新疆ウイグル自治区は、中国最大の国家行政区画であり、約2500万人もの人々が暮らす地域です。長い歴史を通じて多くの国によって侵略されてきましたが、1949年以降は中国共産党によって統治されてきました。日本では一般的に「ウイグル」と呼ばれることが多いこの地域ですが、「ウイグル」というのはこの地域に多く暮らす民族の名前であり、実際の地名は「新疆」の方です。中国語ではXinjiang(シンジャン)と発音され、英語でもこの発音が採用されています。この地域に住む人々の46.42%、実に1000万人がテュルク系のウイグル人であり、この地域における最大民族となっています。

この地域における主要産業

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さて、今回問題として取り上げるのが、この地域における主要産業である「綿花」の栽培です。綿は現状世界で最も多く使用されている天然繊維であり、綿の産出国の第一位は2020~21年時点で、中国がインドに次ぐ第二位で、591万トン(インドは631万トン)、全世界の生産量の実に24%を占めています。また、中国国内における綿の生産のうち、9割以上は新疆ウイグル自治区で生産されています。一般的に「新疆綿」(Xinjiang cotton)と呼ばれるこの地域の綿ですが、繊維業界では特に品質が良いことで知られています。繊維長が長い「超長繊維綿」で、滑らかさや光沢感があるだけでなく、色が白く、染色しても発色が良いため、アパレル業界で広く採用されています。

世界で広く使用されている新疆綿ですが、多くの人がご存知の通り、この地域ではウイグル人の強制労働や強制収用が疑われており、国際社会で大きな問題となっています。中国政府は一貫してこの事実を否定しているものの、多くの当事者が強制労働の事実について証言していることから、その程度は計りかねないにしても、一定程度の強制労働が行われていることは疑う余地がありません。

ウイグル人に対する人権侵害

ウイグルは全体の約9割が中国・新疆に居住するテュルク系民族で、大半が独自の言語、ウイグル語を話すスンニ派のムスリム(イスラム教徒)です。中国でははかねてより、宗教弾圧が行われており、多くがイスラム教を信仰するウイグル人も、その弾圧の対象となりました。

中国政府の統計情報を基にした西日本新聞の報道によると、2014~2018年の5年間の間にこの地域における不妊手術件数が18.8倍に増えており、出生率は2017年の15.88%から2019年には8.14%となり、2年間でほぼ半減するという結果となっています。中国政府はウイグル人が自発的に手術を望んだと述べるものの、この数字はそれを信じるにはあまりにも大き過ぎます。

ウイグル問題に対する国際社会の反応

国際社会は中国の新疆ウイグル自治区における政策に対しさまざまな反応を示していますが、2021年6月10日、アムネスティー・インテーナショナルはウイグル人などイスラム教徒の少数民族が多く暮らす中国北西部の新疆地区で、中国政府が人道に対する罪を犯しているとする報告書を公表しました。また、アメリカ合衆国も2021年1月19日に新疆での人権侵害をジェノサイドであると、世界で初めて宣言し、同年12月23日には新疆ウイグル地区で生産された綿とトマトの輸入を禁止するとした「ウイグル強制労働防止法」(Uyghur Forced Labor Prevention Act)が採択されました。

私たち消費者がとるべき行動とは?

私たち消費者が取れる行動として考えられるのが、新疆綿を使うブランドの服を買わないことです。近年の新疆ウイグル自治区における人権侵害の報道等により、新疆綿を使用しているブランドが度々名指しされ、非難されてきました。2020年3月にはオーストラリアのシンクタンク、「オーストラリア戦略政策研究所(ASPI)」が、14の日本企業を含む新疆綿を使う企業、82社を発表しました。その中には多くの日本人が利用するアパレルブランド、ユニクロやナイキも含まれていた他、アップルやアマゾンなど、普段私たちが利用する多くの企業が新疆での強制労働に関わっていたことが明らかになりました。それ以降新疆綿の不使用を発表する企業が増え、アメリカの「ウイグル強制労働防止法」施行によってその流れは更に加速し、日本企業では最近、ワールドやミズノが新疆綿の使用中止を発表しました。

しかし、新疆で栽培された綿花は一旦中国国内にある倉庫や紡績工場、仲買業者の手に渡り、原綿あるいは綿糸紡績の状態で海外へ出荷されます。つまり、アパレル企業が仕入れ先の業者から生産地までを全て追跡しない限り、それが新疆産の綿であるか否かはわからないということです。それを実現するには労力もコストもかかるため、多くの企業は生産地を特定するまでに至っておらず、自社の使う材質を全てにおいて把握しきれていないのが現状なのです。

香港に、エスクエルグループ(Esquel Group)という世界最大の衣類メーカーがあります。年間約一億枚のシャツを生産するこの企業は、ヒューゴボスやトミーヒルフィガー、ラルフローレンといった多くの有名アパレルブランドに布地を提供するサプライヤーとなっています。そんな中2022年1月13日に、アメリカで新疆綿の輸入禁止が始まって以降、アメリカ向けに衣類を輸出し続けていた中国広東省にあるエスクエルグループの子会社が新疆にある綿紡績工場と取引をしていたことがBuzzFeed Newsの調べによって明らかになりました。

同メディアの取材に対しドイツのアパレルブランド、ヒューゴボスは、

エスクエルグループに問い合わせたところ、「弊社は人権保護や健全な労働環境を含む明細事項及び明細基準は今までも現在も遵守されている。」との返答があった
ヒューゴボス, ドイツ

としています。さらに同企業は続けて、

弊社のエスクエルグループの生産施設における監査によって、エスクエルグループが新疆ウイグル自治区での強制労働に関与している事実は認められなかった
ヒューゴボス, ドイツ

としています。エスクエルクループは一貫して新疆の紡績工場では強制労働は行われていないと主張しているものの、原綿の仕入れ先までは言及していません

この事実に対し、シェフィールドハーラム大学にて人権、現代奴隷について研究しているローラ・マーフィー教授は、

一度(原綿、あるいは綿糸が)輸送されると、その出どころは徐々に曖昧になってしまう。それらを追跡する方法はたくさんあるが、多くの企業が原綿の生産地を知ることに投資できていないというのが現状だ。
ローラ・マーフィー

と話します。

いずれにしても、今回のケースはこれらのブランドが新疆綿を使っているかどうかだけでなく、アメリカの輸入禁止政策が本当に新疆における人件保護に有効であるかという疑問を呈するきっかけとなりました

まとめると、私たちが新疆綿を使った商品を買わないことは大事ではありますが、現状のアパレル業界の流通の不透明性を考えると、私たちが新疆綿が使われた衣類を手に取る可能性を全てクリアにするのは難しく、大抵の人はこの事実に対し正しい行動を取るのが難しいというのが現実です。この問題が解決されるにはミクロよりもマクロの面から解決していく必要があり、私たち消費者は政府や企業、人々に対し、こういった問題を解決に向かわせるために声を上げ続けなければならない、ということです。

もう一つの解決策として、古着の活用が挙げられます。詳しくは古着について取り扱う回でも述べますが、一度人の手に渡ったり、売れ残ってしまった服などを販売する古着店は、こう言ったファッション業界に蔓延る問題の解決策になりうるとして近年注目を浴び始めています。とはいえ未だにセカンドハンドの服に抵抗を持つ人や、そもそも古着のスタイルに魅力を持たない人もたくさんいるのは事実です。こういった古着の問題点をどう改善していけば良いのか、是非今後アップする記事にも目を通していただけたら幸いです。


古着の可能性を世の中へ、

著:Tasuku

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