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その「管理職になりたい理由」、間違っています。

今回は、管理職になりたい理由に正解はあるのか? ということを書きたいと思います。

最近は、「管理職になんてなりたくないよ!」、「管理職になんて興味がないよ!」という方も多いようです。
既に管理職になった方でも、「管理職なんて、なりたいと思ってなったんじゃないんだけどな」という方もいらっしゃるかも知れません。

もし、「管理職になりたいな」と思っている方や、既に管理職になっているけど「なぜ管理職になりたいと思ったのだっけ?」、「なぜ管理職を続けているのだっけ?」と思っている方がいらっしゃれば、読んでみてください。

「なぜ管理職になりたいのですか?」

この問いに対する答えは、人によって様々だと思います。

  1. お給料をたくさんもらいたいから

  2. 組織のお金の使い道を決める裁量を得られるから

  3. メンバに指示や命令を出せるから

  4. 社内外の人から尊敬されるから

  5. 組織の方針や方向性を決める裁量を得られるから

  6. 組織を代表して見解を表明できるから

  7. より大きな仕事に携わり、より大きな成果を出せるから

結論から書いてしまうと、「なぜ管理職になりたいのですか?」の正解は、僕は「7. より大きな仕事に携わり、より大きな成果を出せるから」だと思っています。

いやいや、多様性を認め合うべきこのご時勢に、「管理職になりたい理由」なんて何だっていいじゃないですか。
「1. お給料をたくさんもらいたいから」でも結構なことじゃないですか。
という意見もありそうですが、僕はそれではダメだと思っています。

そもそも管理職はなぜ存在しているの?

管理職が登場した背景をおさらいしておきたいと思います。

現代のビジネスは、第一次産業(農業・林業・水産業など)から第二次産業(製造業・建設業など)、第三次産業(サービス業など)まで多様です。

ここでは、管理職が登場した背景を説明しやすい「工業」を例に挙げます。「工業」とは、第二次産業の多くを含む概念です。

工業は以下のような歴史を経て発展してきました。

  1. 家内制手工業

    • 生産者が自身の家内に生産に必要な設備や原材料を保有して、製品を製造します。すべての工程を1人の生産者がこなします。

  2. 問屋制家内工業

    • 問屋が、生産に必要な設備や原材料を生産者に貸し付けます。生産者が自身の家内で製品を製造し、問屋がそれを買い取ります。工程ごとに生産者が異なることもあります。分業制の始まりです。

  3. 工場制手工業

    • 工場主が工場内に生産に必要な設備や原材料を保有して、労働者を雇って製品を製造させます。工程ごとに労働者が異なるのが基本です。分業制により生産性が飛躍的に向上しました。

  4. 工場制機械工業

    • 工場制手工業では労働者が手作業で行っていた作業を、機械による作業で置き換えます。機械化により更に生産性が向上しました。「産業革命」と呼ばれているのは、この工業が確立したことを指します。

ここで大切なのは、「分業制」と「生産性が飛躍的に向上」したということの2つです。

先ず、「分業制」で作業を行うということは、労働者のAさんとBさんは異なる作業を行うということです。そうすると、次のような悩みが生じます。

  • AさんとBさんにどのような作業をお願いしよう?

  • AさんよりBさんの方が作業が早くて、Bさんが暇みたい。どうしよう?

  • BさんがAさんとお給料が同じなのは納得できないと言っていた。どうしよう?

  • AさんとBさんが喧嘩を始めてしまった。どうにかしないと!

これらの悩みに対処するのは誰でしょうか?
はい。管理職です。
管理職は「分業制」とともに生じた役割であると言えます。

次に、「生産性が飛躍的に向上」したということは、例えば、1日あたり1人では10個しか作れなかった製品が、10人で分業したら200個を作れるようになった、ということです。そうすると、次のようなことが生じます。

  • 1日あたり、1人では1,000円しか稼げなかったけど、10人では20,000円、1人あたりにすると2,000円を稼げるようになったよ!

  • 差額の1,000円はみんなで山分けしよう!

※ 1個100円の商品だと仮定しています。

これを黙って聞いていられない人がいます。誰でしょうか?
はい。管理職です。
管理職は、このように言うと思います。

  • ちょっと待って。管理職がいなかったら分業制は成り立たなかったし、分業制がなかったら差額の1,000円は稼げなかったのだから、その差額は管理職が受け取るべきだよ。

  • 労働者諸君も頑張ったから、君たちには1,600円を支払うよ。管理職は4,000円をいただくことにするよ。

※ 製品の生産に必要な設備や原材料などのコストは無視しています。

まとめると、管理職とは、複数の労働者による分業を通じて、1人の労働者では達成できなかった生産性の向上を実現する役割である。それを実現しているからこそ、一般の労働者よりも高い報酬を受け取ることが正当化されている。ということです。

これは、説明の例に挙げた「工業」に限った話ではなく、現代のビジネスを営む組織であれば同様の考え方ができます。

そう考えると、皆さんがイメージしていた「管理職」の見方が少し変わるのではないでしょうか。
どちらかというと、厳しい見方になるかも知れません。

  • 僕の上司の管理職は、本当に生産性の向上に貢献しているのだろうか?

  • 僕は管理職として、本当に生産性の向上に貢献しているのだろうか?

その「管理職になりたい理由」、間違っています。

それでは、冒頭に挙げた「なぜ管理職になりたいのですか?」という問いに対する様々な理由が、なぜ正解ではないのかを説明します。

結論から言ってしまうと、正解としたもの以外は、いずれも「管理職になりたい理由」としては本末転倒だからです。

管理職とは「複数の労働者による分業を通じて、1人の労働者では達成できなかった生産性の向上を実現する役割」であるからこそ、報酬や権限、裁量が付帯しています。
その「生産性の向上」に対する責任を負うことなく、「付帯」するものを得ることだけを期待して管理職を目指すのは本末転倒ですよ、ということです。

順番に見てゆきましょう。

  1. お給料をたくさんもらいたいから

    • これは先ほど説明したとおりです。管理職の報酬が一般の労働者よりも高いのは、生産性の向上によって得られた稼ぎの増加分を優先的に管理職に配分しているためです。
      お給料をたくさんもらいたいのであれば、「生産性の向上」に対する責任を負って、結果を出さなければなりません。

  2. 組織のお金の使い道を決める裁量を得られるから

  3. メンバに指示や命令を出せるから

    • 管理職に組織のお金の使い道を決める裁量や、メンバに指示や命令を出す権限が与えられているのは、それによって生産性の向上を実現させることが求められているためです。
      組織のお金の使い道を決めたり、メンバに指示や命令を出したりするのであれば、それらは「生産性の向上」に繋がるものでなければなりません。

  4. 社内外の人から尊敬されるから

    • ただ管理職であるということだけで社内外の人から尊敬されることはありません。管理職が尊敬されるとしたら、より大きな生産性の向上を実現する能力に対してであったり、メンバ同士のトラブルを解決に導く能力に対してです。
      社内外の人から尊敬されたいのであれば、「生産性の向上」で実績を上げたり、そのためにメンバの人間関係やモチベーションをよい状態に維持し続けなければなりません。

  5. 組織の方針や方向性を決める裁量を得られるから

    • 管理職に組織の方針や方向性を決める裁量が与えられているのは、より大きな生産性の向上を見込める仕事の仕方を見出して、メンバをそこに導いていくことが求められているからです。
      組織の方針や方向性を決めるのであれば、それは「生産性を向上させる」ことに繋がるものでなければなりません。

  6. 組織を代表して見解を表明できるから

    • 管理職に組織を代表して見解を表明する役割が与えられているのは、複数の労働者が分業で作り上げた成果の全体に対して、説明責任を負っているためです。
      組織を代表して見解を表明するのであれば、分業の全体を把握し、それが最適化された状態にあることを説明する責任を負わなければなりません。誰かのせいしてはいけません。

憎まれ管理職、世にはばかる。

管理職でない方や、今は管理職になっている方でも管理職になる前は、上司である管理職のことを疎ましく思ったり、批判したくなったりしたことがあるかも知れません。

世間一般にも、疎ましく思われたり、批判される管理職のイメージがあるように思います。

僕は、管理職を疎ましく思ったり、批判する際には、その人の何に注目しているのかを意識する必要があると思っています。

先ず、その管理職の担当する組織が「分業制」で「生産性が飛躍的に向上」しているのであれば、一義的には、その管理職は一定の評価を受けるべきだと思います。

例えば、その管理職の言動について、お金の使い道がどんぶり勘定である。メンバへの指示や命令が粗雑で乱暴である。組織の方針や方向性の説明が分かりにくい。組織を代表する見解が細部を理解していない大雑把なものである。ということであれば、それはそれで批判されるべきだと思います。しかし、それらを改善することができれば、最強の管理職になる可能性があると思います。

一方で、その管理職の担当する組織が「分業制」で「生産性が飛躍的に向上」していないのであれば、どう転んでも、その管理職は評価を受けるべきではないと思います。

例えば、その管理職の言動について、お金の使い道はきちっと管理されている。メンバへの指示や命令が緻密で丁寧である。組織の方針や方向性の説明が分かりやすい。組織を代表する見解が細部を理解したきめ細やかなものである。ということであったとしても、それは単なる「いい人」というだけのことであり、それ以上でもそれ以下でもありません。

経営者が期待するのは、「分業制」で「生産性が飛躍的に向上」している組織の管理職です。
その観点できちんと成果を出していて、犯罪性や倫理上の問題がない人物であれば、多少「いい人」でなくとも、管理職として評価されることはある思います。

メンバの方からすると「いい人」が上司であって欲しいという願望が強いと思いますので、ちょっと意外に思うかも知れません。
かくして「憎まれ管理職、世にはばかる」ということが生じます。

もっとも、最近は両者はトレードオフの関係ではなく、両立させるべきものだという潮流が強くなっているのは間違いありません。
それは、「管理職って大変ですよね。」の一因になっていると思います。

本来の目的を忘れないようにしましょう。

世の中には、管理職とは何か。管理職とはどうあるべきか。管理職は何をすべきか。ということを説くHow toはたくさんあります。

しかし、その多くは「分業制」で「生産性が飛躍的に向上」している組織を実現するという目的ための「手段」を紹介しているだけであり、その手段を実践することが目的になってしまっているように感じます。

これから管理職を目指す方や、既に管理職になっている方は、目的と化した手段ではなく、本来の目的を意識することを、常に心の隅に置いておくとよいのではないかと思います。

「分業制」で「生産性が飛躍的に向上」している組織を実現することで、高い報酬を得たい。だから管理職になりたい。ということであれば、「なぜ管理職になりたいのですか?」の答えとしては正解だと思います。

今回はここまでです。ありがとうございました。

#管理職 #年収 #責任

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