新緑の候
山は新緑の木々でさぞ瑞々しく美しかろう
「窓を少し開けてくれんか、五月の風を嗅ぎたい」
「今年は戻れんか」
わたしが19の五月、病室で痩せ細った祖父が
目を細め、懐かしむよう、かの地を語った
祖父はその二ヶ月後、七夕に亡くなった
わたしは、19の年から、祖父母の山に行っていない
行けなかった
何時か必ず行きますね、お祖父ちゃん
夏には蝶追いかけ、兄と駆け回り
巨大な山ミミズに驚愕し
蛇だ~~と、祖父を呼んだ
木々は優しく 風は芳しく
土は冷たく
疲れたわたしは
木立の中で
大地に溶けて眠るのだった
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