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クラブ活動と私#16-3:文化祭③

《これまでのまとめ》


※前回のあらすじ(!!)※

完成した2冊の看板冊子『キメラ』と『寄木細工』。
あとは来場者を迎え入れる準備だけだ。


文化祭前日。
授業が終わるや否や、書道室は戦場になる。

壁一面に絵画やイラストを貼り付ける者。
入り口を飾りつける者。
長机を並べ替えて展示スペースと部員の控え室の
パーテーションを区切る者。
区切ったエリアに展示物やラジカセを置き、電源を
確保する者。
そして長机を積み上げて一部の区画を「暗室」へと
作り変える者。
突貫作業で準備は進んでいく。


「今年は男子が多いから助かるわ。去年はほとんど
BANちゃん頼りやったもんなぁ。」
そう言いながら積み上げられた長机に暗幕を張り、
暗室へと変えていくのは五月さつきさんだ。

五月さんは氷子さんとは中学の頃からのお友達だ。
少しふくよかな体型でショートカットが似合う、
いつもニコニコしているほんわかした感じの
見るからに優しそうなお姉さんだ。

1年の時に桃子さんと2人で制作したという短編の
クレイメーションを今年も上映するために準備を
進めているのだ。
クレイ(・アニ)メーションとは、粘土で作り上げた
キャラクターを使用したストップモーションによる
アニメーションだ。
8ミリフィルムを使用して撮影されたそれは、上映
時間はものの数分だが、実際の撮影には1ヶ月以上の
期間が掛かったそうだ。
その間、桃子さんの部屋はずっと撮影スタジオと
化していたというから相当な労力が掛かっている
わけだ。貴重なフィルムである。

8ミリフィルムの映写機。

「スクリーンどこに引っ掛けます?」
「んーとねぇ・・・去年どうしてたっけなぁ。」
五月さんの指示のもと、あれやこれやと調整をしつつどうにか試写が出来るところまでこぎ着ける。

と、何やら暗室の外が騒がしい。
様子を窺ってみると一部の連中が準備も手伝わずに
ぼーっとしているのを龍子さんが怒っているらしい。
氷子さんがどうにか龍子さんをなだめようとして
いるが、龍子さんの腹の虫は収まらないようだ。

「氷ちゃん、ちょっと。」
五月さんが氷子さんを暗室へと呼び込む。
「もう放っときなって。あれはあの子らが悪い。」
「そうなんやけどさぁ。」
副部長の龍子さんは生真面目な性格の人だ。
無理もない話である。
氷子さんはどうにか穏便に収めたいのだろうが、
こればかりは私も龍子さんや五月さんに賛成だ。
ただでさえ、男手はほぼ1年生しかいないのだ。
それが動いてくれないと準備はなかなか進まない。
困ったヤツらだ。


「ところでK君はどうしたん?」
急に話題を変え、五月さんが私に話を振ってきた。
「アイツ、今日は病院に行ってますよ。」
私の幼馴染”K君”は花粉症などのアレルギー体質だ。
当時は今のように花粉症などが国民病になるほど
発症者が多くはなかったのだが、K君のそれはわりと
ひどく、春先などは別人のようになってしまうほど
悩まされていたのだ。

「・・・らしいよ、氷ちゃん。」
五月さんは氷子さんの代弁者というわけか。
「で、K(私)くんのほうはどうなん?」
龍子さんに続いてまたこの流れか・・・。
「すぐ近くに居るのにカンベンしてくださいよ。」
小声で五月さんに返す。
もちろん部室には”あの人”も居る。
「あ、そやね・・・氷ちゃん、フィルムの付け方って
わかる?」
「あー、ちょっと待って、ここをこうして・・・。」

試しに上映してみる。
照明の入り方によってはうまく見えないからだ。
話には聞いていたが、実際にこの映像を観るのは
初めてだった。

「これひとコマずつ全部撮っていったんですよね?」
その手間暇を考えると感心するばかりだった。
「そうよ、氷ちゃんにも手伝ってもらったりして、
めっちゃ時間掛かったもん。」
「ちょっとした表情付けとかね、ホントに細かくて
大変やったよねぇ。」
1匹のウサギが花冠を作り、もう1匹にかけてあげる。
実に単純な内容ではあるが、その動きや出来上がる
花冠の細かさはなかなかの出来映えだった。

惜しむらくは、そこに注ぎ込まれた労力や情熱が
知識のない人には伝わりづらい事だろうか。


暗室の準備がほぼ終わり、最後に観客用の椅子を
運びこもうと長机の小屋から出ると、他の展示の
準備もほぼ終わっていた。

入り口脇の長机には『キメラ』と『寄木細工』が
初日分の50冊ずつ積み上げられ、色とりどりの
絵画・イラストが壁一面に飾られ、長机の上には
模型やジオラマ・料理の写真・自作の楽曲を流す
ラジカセなどが並んでいる。

入学当初に見たクラブ見学会とは力の入れようが
段違いだった。まさに壮観だ。

これから2日間、どんなお客さんがどれくらい来て
くれるのか、楽しみで仕方なかった。


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