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【想像させて】リサコ。

来園者数が年々減少の一途を辿る地方の動物園。

「ウチの動物園にも何か、人気者になる動物さえいれば……このままでは…………」

園長が遠くを見つめ、寂しそうに言った。
その姿を目の当たりした飼育員の日下は何か出来ないかと、連日他の飼育員を集めて会議を開いていた。

「コアラもパンダもゴリラもキリンも、結局人気のある動物はまるで高すぎて当園では全く手が出ないわよね……」

この日も、誰からも案が出ないまま数十分。
そっぽを向いたまま我関せずのベテラン飼育員の西野は
ただただタバコをふかしていた。

白い煙に包まれる中、
初めて会議に参加した新人の小野が口を開いた。

「他の動物園にいない動物を入れるというのはどうでしょうか?」

この問いに、副園長の村山が答えた。

「私もそれは考えたんだけど、そうなると大抵爬虫類になるんだ。ほ乳類で人気が出そうな動物は、もうどこにでもいる馴染みのある動物ばかりで、特に大きい動物は餌代もバカにならなくて、とてもじゃないけどウチの園では……(笑)」

会議室は乾いた声で包まれていた。

「爬虫類でもいいんじゃないですか?」

「もちろん。ただ爬虫類で客寄せになるような動物ってそんなに思い当たらないんだ。そもそも爬虫類を目当てにくる来園者はそう多くはない。さらに他の動物園でも飼育例がないとなると、ちゃんと飼育していけるかどうか……万一死んでしまったら、悪い意味で注目されてしまう。そういったことまで考えなくてはならないんだ」

「じゃー思い切ってゾウ入れられないんですか」


それは誰もが思っていた。誰もが願っていた。
しかし、手が出ないことも分かっていたからこそ、
わざわざ口にする者はいなかった。

無知な小野がどれくらいかかるものかと聞くと、
その言葉にかぶせるように村山が再び答えた。

「最低でも3」

「300万ですか?」

「アホ言え! 3000万だ!」

あまりの金額に小野は絶句した。


突破口が見えず、日下は天を仰いでいた。
『ウチの動物園を再生させるには一体どうすれば……』


新人の小野は、
様々な角度から考えつく全てを口にしていった。

「お客さんにアンケートをとってみませんか?」

「そんなの何回もやったさ、いつだってゾウが圧倒的に一番さ」

「でも、ウチにも昔ゾウいましたよね?」

「いたさ。あの頃は来園者も多くて、毎日忙しかったけど、そう考えると園も潤っていたんだな……。若いのに、お前よく知ってるな」

「知ってますよ! ぼくが幼稚園のとき、遠足でここに来たんです! ゾウのリサコを覚えてるんです!」


その名前を聞いた途端、
タバコをふかしていた西野は思わず涙ぐんだ。

座礁に乗り上げた会議はやがて、
開催される頻度も参加者も減っていった。



数日後。
山本は清掃のため、
何年も使われていない飼育小屋へと足を運んだ。

古く錆びた重い扉を開けると、
そこには顔中ペンキだらけの小野がいた。


「……なにしてるの?」

小野の視線の先にあるものを見て、山本は感極まった。

「私も……、私も手伝っていい?」

小野は、笑顔で俯いた。

※この物語は想像です。登場する人物名、団体名は実在のものとは関係ありません。

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