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【想像させて】トラウマ。

足立は買ったばかりの車で
町の整備工場に乗り付けた。

「すみません、こちらで塗装行っていますか?」
「もちろんやってますよ! こちらのお車ですか?」
「はい……」

足立はこれまで乗っていた車が
連続で盗難にあったことを話した。

「もう二度と盗まれないように塗装したいんです」
「大変でしたね……どんな色にしますか?」
「これはいらないなと思われる色にして欲しいです」
「わかりました。ただ、こちらでお客様のお車の色を勝手に決めるわけにはいかないので、少し話しましょう。どうぞ中へ」

整備工場の小野寺に案内され、足立が事務所の応接室に腰を下ろすと、経理の女性はすぐに冷たいお茶を持ってきた。足立はそれを一気に飲み干した。

「盗まれにくい色とかありますか?」
「どうですかね、あまりにも特徴がある色ですと、手を出しにくいとかはあるかもしれないですが」
「例えば、どんな色ですか?」
「珍しい色の中でもよくあるのが、ピンクですとか、ゴールドですか、マットブラックとか、その辺ですね」
「以前盗まれたのは、2台とも黒でした」
「そうでしたか。今乗って来られたのは、黄色でしたよね?」
「はい、そうです」
「黄色も割りと特徴があるので、今のままでもいいとは思いますが?」
「いやダメです。絶対盗まれます! もっと特徴を出さないと!」
「……ツートンとかにしてみますか?」
「ツートン?」
「例えば、黄色と黒とか。黄色と白とか。黄色と茶色ですとか」
「黄色と茶色……あっ! プリンになりますかね?」
「プリンみたいにもできますよ!」
「それめちゃくちゃ特徴ありますよね?」
「めちゃくちゃ特徴あります!」
「じゃーそれでお願いします!」


1週間後。
プリン柄に生まれ変わった車を引き取りに
足立は整備工場へとやってきた。

「こんな感じでいかがでしょうか?」
「…………」
「なにか不満な点でもありますか? 遠慮なく言ってくださいね」
「上だけ茶色にしたんですね」
「プリンのイメージで、そうさせていただく話でしたよね?」
「思っていた感じと違いました。これじゃまるで天井だけ錆びているように見えませんか」
「まぁ……言われてみれば……」

足立は車の周りをぐるぐると歩きながら
下から上へと舐めるように見回した。

「小野寺さん、プリンやめて、全体を錆びているようにしてもらえませんか?」
「え!? 錆びてるようにですか!?」
「はい。よくよく考えたら、錆びまくってる車だったら盗まれないような気がしてきました。私洗車が好きで常にピカピカさせていたのも原因かもしれないので、あえて真逆にしてみようと思います」
「本当に……いいんですか? 買ったばかりなのに?」
「いいんです! 盗まれなければ!」


1年後。
足立の車は盗まれることなく、今日も快調に道を走らせている。

※この物語は想像です。登場する人物名、団体名は実在のものとは関係ありません。

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