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クレームとクレイジーな上司①


カスタマーサポートの仕事をしていると、時々トンデモな人が現れる。
何度か転職して業種が変わっても、どこの会社でもトンデモさんは漏れなく現れた。

シェアハウスの運営会社で仕事をしていたとき。
家賃が振り込まれていないので連絡をすると電話には出るし「すぐ払います」と申し訳なさそうに返事をもらうので信じて待ってみるが、一向に振り込まれない。
それでまた電話をするとやはり電話には出る。
そして申し訳なさそうに「いついつまでに払います」と期日を決めるがやはり振り込まれない。
お家に様子を見に行くと靴箱のその人のエリアが空っぽになっていて部屋の中に入るともぬけの殻になっていた、なんてことがあった。
逆に荷物を全残しで帰ってこなくなる人もいる。(後から職場や実家に連絡するとケロッとしていて安否は問題ないことがほとんど)

勝手に出て行く人もいれば、家賃を払わないのに堂々と住み続けてリビングでパーティをして盛り上がったり設備や他の入居者に関してクレームの連絡を入れてきたりする人もいた。おいおいと思ってもあくまでもお客さんなのであまり強くは言えずクレームを受け入れてしまう状態だった。

理不尽なことを言われて言い返してちょっと揉めたりすると上司にも注意されるしなんだか腑に落ちないけどどうするのがいいのか答えがないままそこは退職した。


その後、習い事系の運営会社に転職したが、ここでもやはり同じようなことが起きた。
家と違って習い事は生活の必需品ではないし、お給料から生活費を差し引いたゆとりの部分から捻出できる人がやるものだと思っていたが未払いや一度契約をしたのにやっぱりお金が払えないから、と入会辞退の申し出がある。
ここでも未払いに対する催促の連絡をする部署に配置され、これまでやってきたように催促するのだが、私はあまり取り立てがうまくないし、強くハッキリ言えないタイプなのでただ単に期日を忘れていた人に支払いを促すくらいで精一杯だった。

そしてとにかく人の出入りが激しい会社だったので上司がコロコロ変わり、その度にアルバイトが社員に仕事を教えている状況で、誰も責任を持って未払い分を回収しようと動けていなかった。

働き始めて2年経った頃、中途採用で上司が入ることになった。
この出会いが私の価値観を大きく変えることになるとは当初は思いもしなかったが、良くも悪くも今まで一緒に仕事をした中で一番クレイジーな上司だった。

ある日、未払いに対する催促のメールを受け取った人が文面に腹を立てて
「今すぐ払ってやるよ!今建物の前にいるからよ!」と電話をしてきた。
話口調が激おこだったので絶対中に入れちゃいけないと思い「事務所では現金の受付をしていないのでメールに書いている振込先にお振込をお願いできますか?わざわざ出向いていただいたところ恐縮ですが、中にお入りいただいても受付ができないためお客様の大事なお時間をお取りしまうだけなので・・・」と伝えるとそこは理解してくれたが、「あのメールはなんなんだ!オタクは何、反◯なの?」と質問を受けた。
催促メールは何年も前からずっと同じ文言テンプレートを使用しており、そぐわない状況の人に送られたなどの誤配信でもない限りそんな怒るポイントのあるようなメールではないはずなのでおかしいなと思い配信履歴を見ると、なんと上司がオリジナル取り立て文章を作成して送信していた。

「契約してサービスを利用したのに支払わないなんて無銭飲食と同じです。」


未だかつてお目にかかったことのないかなり挑発的な内容を送っていたのだった。これには開いた口が塞がらなかった。
事実はどうであれ、言われた側が怒るのは納得だった。
メールの非常識な文章と攻撃性については謝罪し、ひとまずことなきを得た。

何考えてんだと怒りを抱えながら、お客様から連絡があったことを上司に報告した。そこでまた驚いた。


「お。連絡きた?よし、これで払ってくれれば一件落着だな。普通の文章じゃみんな見ないでしょ?だから反応が来るようにあえて強い言葉にしてるのよ。」

まさかの炎上商法だった。
いやいや、確かに反響があって問題は解決に向かっているけど連絡受けたこっちはまさかあんな文章送ってるなんて思わないし代わりに謝ってるし結構迷惑だぞ?

「流石にあの文面は強すぎなので、これから取り立てでメール送る時は私に先に見せて下さい!反◯なの?って言われましたよ、、」
と上司を怒った。

すると
「え!?反◯とか言ってきたの?その発言の方がやばいよね、だって違うじゃん。向こうはサービス受けて未払なんだから無銭飲食したのと同じじゃん。言われのないこと言ってくるなんて、ひどいねー」
と変に筋が通っていてだんだん訳がわからなくなってきた。

確かに、、、お金をちゃんと払っていたら取り立ての連絡をすることはなかったし、言葉選びは良くないと思うけど支払いを催促されてキレてくるってそもそも理不尽だよな。
あれ?じゃあこのまま過激な文章の炎上商法でいいのか?今まで払ってもらえなかったけどリアクションあって払うって言ってるしなぁ。
あれ?でも道徳的に大丈夫なのか??と色々な考えが浮かんでは消えた。

「でもさ、今ここで連絡くれてよかったよ。だってこの後はうちの課を離れて弁護士に依頼するでしょ?そうするともう債務事故者になっちゃうじゃん。大事になる前でよかったよ。」

なるほど・・・
確かに、裁判所に出向いたり弁護士を雇ったりする方がはるかに時間もお金もかかる。
うーん、じゃあ逆にいいことをしたのか・・・( ^ω^)


なんだかモヤモヤしたが、間違いなく前に勤めていた会社で感じていたモヤモヤではなかった。

お客さんには理不尽であっても自分個人の言いたいことは言ってはいけない、気持ちに寄り添って謝罪する、どんな人にも丁寧にといった価値観が仕事をしてきた中で無意識に植え付けられていたが、こんな風にやっていいのか!?と自分の中の常識が少しづつで揺らぎ始めた瞬間だった。




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