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虹が象徴する物語

「もらいにいこ、ザナックス。また前の薬くださいって言えばくれると思うから、あの医者なら。リズもついてきてよ。」
ヘイゼルが言う。たしかにザナックスならodすれば楽しそうだ。試して見る価値はある。こうして私たちは、依存性が高い薬をためらわず出すことで有名な、近所の精神科のクリニックに行くことになった。

3か月前のことだった。いとこのヘイゼルが、リズに市販の鎮痛剤のODを勧めたのだ。リズは将来のことや家族関係、友達関係に悩んでいた時で、その日はバイトで苦手な女性とシフトが組まれていた。バイトから帰ってくるなりリズは自分の部屋に逃げこみ、手の付けられない恐ろしい思考に発狂しそうになっていた。母親にも誰にも相談できないと感じた。だってこれはリズが自分自身でまいた種なのだ。軽い気持ちで逃げたツケがこんなに大変だとは知らなかった。環境や周りの人のせいにはできない。皆いい人たちばかりで、リズはいつも助けてもらっていた。だからもう少し頑張れたのに、楽を知ってしまって逃げたのだ。逃げる選択をしたのは他でもない、リズ自身なのだ。今こんなにふうになっているのは全部自分の過去の行動のせい。そんな思いが頭を駆け巡り止まらなくなる。体は吹き出す汗で不快になっていく。部屋の中を歩き回りながら、唯一相談できる相手である一つ上のいとこ、ヘイゼルにメッセージを送る。「文字通り発狂しそうなんだけど、どうすればいいかな」「こんなことで相談してごめん。」やけに長く感じた2分後、ヘイゼルが返信をくれる。「化学物質で、脳内の反応をいじるしかないね。一時的にでも、世界の見え方を変えれば生き延びられるから。」生き延びる、という言葉がリズに響いた。そうだ、わたしは死にたくなんかなくて、生き延びたいんだ。この思考を上書きして。「で、どうすればいいの」「ドラッグストアに売ってる鎮痛剤の××を10錠くらい飲んでみて。今、ほかの薬は飲んでないね?なんかあったらあたしにテキストして。」リズはかばんにクレジットカードとスマホを入れると、玄関を抜け出しドラッグストアを目指して走り始めた。

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