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私は不倫をしている。昨日から今の事


昨晩一睡もできず、こうして日記に向かっている。
何から書こうか。こういう場合結論から書くことにしている。

結果的にタッカンマリのお店はキャンセルすることにした。理由は行く人がいなくなったからだ。
昨日、会社に出社するとすぐに役員に呼ばれた。何事かと思って会議室に行くとその場には役員2名と橘絵里がいた。
「ああ、そういうことか。」と心の中で思って、立っていると彼女と席を空けて座るように促される。
「単刀直入に言うけど、二人はどんな関係ですか?」あんまり好きではない上司にはっきりと言われる。
どこまで?いつからだ?誰からだろう、前に疑ってきた女か?など様々な思考が駆け巡ったが、全て想像にすぎない。
「交際していました。」私が言う。
「雨男さんはご結婚されてますよね?奥様はこのことは?」
「知らないと思います。」会社が知ったということはまあバレているのだろう。
「まだ奥さんには伝えていません。知っているのは社内の人間だけです。」

・・・。

つまりはこういうことだった。会社内で私たちの関係を疑っているものがいた。人事に匿名のメールが行き、ずっと会社側は疑っていた。しかし、廊下での距離感や時々目配せしていること、私のテンションくらいしか手がかりはなく疑いに留めていた。決定的だったのは以前二人で行った居酒屋での目撃情報があったからとのことだった。カーテンで仕切られた半個室の居酒屋だったが、なんと隣に私の部下の女性がいたらしい。
そこでの会話を聞かれていたようだ。先述のように私たちはかなりこっ恥ずかしい会話をよくするため、聞かれていればもちろんバレるだろう。
その後、店を出た後なんとそいつらは面白がって私をつけてみたとのことだ。そして駐車場の私の車内でキスをする姿を目撃した。それを社に報告したとのことだ。

そのあとどこまでの関係なのか上司に聞かれ、橘絵里ははっきり言った。
「肉体関係もありました。雨男さんに誘われて数回ホテルに行きました。」上司は彼女の大きな目にまっすぐ見つめられながらそれを聞いて、少したじろいでいた。
私もびっくりだ。私はこの時かっこわるいことにどうしようどうしようと考えがうまくまとまらなかったが彼女ははっきりと言える強さを持っていた。
いつもこうだ。私は肝心な時にちゃんとできない。
「雨男さん、合ってますか?」上司が聞いてくる。
「はい、その通りです。」
「橘さん、無理に迫られたのですか?」
どうやらパワハラやセクハラの類を疑っているようだ。
「いえ、私も同意でした。彼が好きだったので。」
強い言い方が彼女の強がりなのは知っている。時折彼女はこのようにはっきりした態度を取るときがある。
そしてこんな時は決まって・・・・その後で泣く。
「私が悪いんです。橘さんを半ば強引に誘い、派遣である弱みに付け込みました。彼女は悪くありません。」
せめて彼女の傷だけでも浅くと思いこう言ったが何の効果もないだろう。
この後、会社は大事にはしたくないと言い、奥様に伝えるかはまだ未定と言われた。どのような形になるかは分からないが、何らかの処分は下るとのことだった。とりあえず「帰って謹慎」と言い渡され退出を促された。彼女は残されたが、派遣契約終了のことを伝えられているのだろうと思った。
オフィスでカバンを机の上において、仕事の引継ぎをしていると彼女が戻ってきた。チラっと私の方を見たが何も言わずカバンをもってオフィスを出ていった。ちなみに周囲の様子から部署内ではおそらくバレているようだった。

慌てて彼女を追う。エレベーターの前で捕まえることができたが、目に涙を浮かべて「後で電話します。」と言ってエレベーターに乗っていった。カバンを持たずに来てしまったため、「待っててくれ」と言って取りに戻ったが、帰ってくるとエレベーターはもう下の階についていた。
追いかけたが、駐車場に彼女の車はすでになかった。

この時また一人で泣かせていしまったとか、会社クビになるのかとか、妻になんて言おうとか、いろいろ考えた。一度オフィスに戻り、部下に迷惑かけたと謝って、引継ぎを終えて会社を出た。仲の良い部下から「雨男さん、やっちゃいましたね。後で詳しく聞かせてください。」的なLINEが入っていた。こいつは味方なのかと思いながら、「そのうちね」と返して橘絵里に電話した。何度かかけたが彼女は出ない。多分どこかで泣いているのだろうと思った。
いつもウォーキングしていた公園に午前中に来たのはほとんど初めてで爽やかだった。曇ってたけど。
以前蚊に刺されまくったベンチにいると、彼女から着信があった。
「お疲れ様です。大丈夫でしたか?」
何が大丈夫なのかわからないが、とりあえず会社を出たことを告げた。
「ごめん。」「大丈夫?」「これからどうする?」「いつかはこうなるかもって」「自業自得」「奥さんのことは」「派遣は終了?」「処分は?」
こんな話をしたと思う。二人とも思ったより冷静に話ができた。でも多分彼女は泣いてた。
「今から会えるか?」
「やめときます。」

本当に楽しかった。雨男さん優しかった。いつも救われてた。自信がついた。彼と別れていい人見つけます。ありがとう。さみしいけど終わりにします。奥さんと仲良くしてください。
これが彼女が私に伝えてきた内容だ。
そして最後に

「私といて楽しかったですか?」
と彼女は聞いた。小説とかドラマみたいなことって本当にあるんだなって思った。私も泣いた。何度も聞かれた質問だったが、全力で答えた。
「これ以上ないくらい最高に楽しかった。ありがとう。愛してたよ。」そう言ったのは昨日が初めてだった。

そのあと別れる以外に選択肢はないのかと聞いたが、彼女は泣きながら別れようと何度も思ってたことを教えてくれた。私だってそうだ。前にも言ったが彼女の幸せに一番邪魔な存在はおそらく私だ。なるべく早く私との関係を終わらすことが彼女の幸せにつながる。女々しくも夜中にもう一度電話をかけたが、もうつながらなかった。多分ブロックされたのだろう。

そして一睡もできず午前3時からこれを打っている。昨夜、会社から電話があり例の上司から「奥さんに伝えるかは雨男さんにお任せします。処分は追って連絡します。」と言われた。妻には体調がすぐれないと言ってほとんど会話をしないで過ごしている。

思えば最後まで彼女に気を遣わせた関係だった。私は彼女に何一つしてやれなかった。彼に冷たくされたことについても慰めるしか出来ず、笑わせて誤魔化すことしかできない。形のあるプレゼントもあげられず、二人で映った写真もほとんどない。その方が彼女が忘れられてよいのかもしれない。本当に付き合っていたのか証明できないくらい何もない。

でも、これだけは言える。
二人で会っているとき、私たちは楽しかった。普通の恋人とは違うかもしれないけど、紛れもなく恋人だった。いい年してときめきも感じた。
今は私がこれからどうなるかよりも、二人でいた事実だけ思い出していたい。

一晩考えたが全く整理がつかない。世間的にはただ不倫していたカップルが会社にバレて別れただけだ。私が自宅で謹慎していても会社は普通に回り続ける。クソ野郎な私はその程度の影響力しかない。

PCのタグにはまだタッカンマリの店の予約フォームが残っている。私はこれを消せないで今もブログを打っている。

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