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小説 イシヤの夕暮れ2

4月16日1時25分震度7(マグニチュード7.3)の地震が起こった。震源地は益城町で僕の住む隣町である。震災関連死は137人となった。

阪神淡路大震災から福島県の震災を含め自然災害の驚異は計り知れない。
ただ逃げ惑うか静かに時が過ぎるのを待つ以外道はない。しかもちょっとした判断ミスで死を招く。死から最も遠いような日本に於いて、迫りくる突如現れた死神の存在は想像を絶する恐怖に変わる。

そして家を失い職を失い全てを失い熊本を去っていく人たちに対して、何も出来ない自分の非力さを呪った。
僕に医学のスキルや復興を手助け出来る力があればどれだけよかったかと悩んだ時期もあった。しかし困窮して被災者になった僕にはそんな悠長なことは言ってられない。結局僕は助けらる側の人間のようだった。

僕の住んでる貸しアパートは倒壊して実家に逃げ込んだ。しかし余震に次ぐ余震で家族は一時近くの小学校に非難。小学校は老人だからけで、こんなに老人がこの町にいたのかとびっくりした。比較的若い若者や大人は、支援物資を
使っておにぎりや豚汁、ラーメンを作って被災者にもてなした。
最初は他県からボランティアが助けに来てくれたが、国の方針でボランティア受け入れ拒否が決まった。それは窃盗や強姦が増えたことが原因らしいが詳しいことは分からない。

どちらにしろ、働ける人手は少ない。僕達や学校の教員の方々は寝る間を惜しんで食糧や生活物資、健康衛生面の管理に努めた。
最初は異様にテンションの高いボランティアスタッフも後半はうつ病のように疲弊していった。
そういう僕も先行きの不安と体力の限界で朦朧としていった。その内車中泊で死人が出た。長期間の車中泊でエコノミークラス症候群が発生したのだ。またしても死神は避難所に現れた。
死は隣合わせなのだとその時、実感した。そしてその瞬間声をきいたのだ。


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