殺したはずの男
1998年1月16日(金)
白黒映画──バーン!恐怖のアップ。溶けたロウのように両の瞼が垂れ、ゆがんでいた。髪は金。
男の後ろ姿──地面を手で掘っている四人の男と一人の女を見ている。
中央の女がそれに気づいた。昔の映画風金髪美人。女は、にっこり歩みより、男に食べものを差し出した。
男のうつくしい顔──女にはそう見えているらしい。
男は食べものを受け取って、食べた。疲労して、空腹だった。
実は男は、地面を手で掘っていた五人に殺されそうになって、辛くも生き延びたのだった。顔が崩壊したのはそのとき火傷を負ったからだった。
女は、そうとは知らずに助けた。
五人は男の宝を盗む目的で男を殺害し、いま、宝を盗ろうとして地面を掘っていたのだ。
うちの玄関──色あり。映画じゃない。わたしが火傷の男だ。
殺したはずの男だと、女が気づいた。
恐怖、敵意、復讐心などがどういうわけかわたしには無くて、のんきに女と話していたら、女が、ぎょ、っとなって、半分腰が抜けたようになって男たちに知らせに行った。そのときはじめてわたしは恐ろしくなった。
胸が詰まるほど恐ろしくなって、すぐ逃げることにした。戻ることがあるかもしれないので「1」の鍵を持った。それから母がくれた小さな懐中時計も。
今度こそ殺されてしまうだろう!!!
気持ちは急ぐのだが脚が、縺れた糸のようで、走っても、走らなかった。
通りへ出て一瞬迷った。右へ行き、バスでここを離れようと思ったが、脚が動かないので、すぐそこの家の裏へ隠れることにした。
はっ!と目が覚めた。
本当に走っていたみたいに呼吸が苦しかった。