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『君の名前で僕を呼んで』:2017、イタリア&フランス&ブラジル&アメリカ

 1983年夏、北イタリア。17歳のエリオは休暇の期間、父のサミュエル・パールマン教授、母のアネラ、使用人のマファルダやアンキーゼと別荘で過ごすのが毎年の恒例になっている。パールマンは毎年、夏休みに助手として教え子を別荘へ招待する。その年に別荘へ来たのは、オリヴァーという学生だった。
 彼を見たエリオは、自信家という第一印象を抱いた。エリオはオリヴァーに自分の部屋を明け渡し、隣室へ写った。到着した日、オリヴァーは旅の疲れで眠り込み、夕食も取らなかった。

 翌朝、オリヴァーが銀行の口座を持ちたいと言うので、パールマンはエリオにクレーマの町へ案内するよう指示した。オリヴァーとエリオは自転車に乗り、クレーマへ赴いた。
 パールマンがアプリコットの語源について説明した時、オリヴァーは「賛成しかねます」と自身の考えを詳しく語った。するとパールマンは「合格だ」と言い、同じ部屋にいたエリオとアネラは軽く笑った。エリオはオリヴァーに、父が毎年同じことをやっているのだと教えた。

 オリヴァーはバーの常連になって一緒にカード遊びをするなど、すぐに周囲の人々と仲良くなった。エリオの友人であるマルシアとキアラも、オリヴァーに好感を抱いた。エリオはオリヴァーから「肩が凝ってる」とマッサージされると、それを嫌がって離れた。
 彼は両親の前で、オリヴァーの「後で」という口癖について「横柄だよね」と口にする。「内気なんだよ。きっと好きになる」とパールマンが告げると、エリオは「嫌いになるかも」と述べた。

 エリオは自室の窓から庭にいるオリヴァーを見て、股間を刺激した。オリヴァーがノックして部屋に入って来たので、彼は慌てて読書しているフリをした。オリヴァーは泳ぎに行こうと誘い、エリオと庭のプールに行く。
 エリオが泳がずに座っているだけなので、オリヴァーは「何してる?」と問い掛ける。「考えてる」とエリオは言うと、オリヴァーが「何を?」と質問する。エリオが「秘密だ」と告げると、彼は近くに来たアネラに「彼は考えを話してくれない」と語った。

 エリオが庭でギターを使ってバッハの曲を演奏していると、オリヴァーは「もう1回弾いてくれ」と頼む。するとエリオはリビングへ来るよう促し、ピアノでアレンジして演奏した。
 オリヴァーは「さっきと同じように」とリクエストするが、エリオは別のアレンジで弾いた。オリヴァーが「もういいよ」と去ろうとすると、ようやくエリオは普通に演奏した。部屋に戻った彼は、ノートに「キツい言い方をした。僕が嫌いかも」と綴った。

 ある夜、屋外のダンスパーティーに参加したオリヴァーは、キアラに誘われて一緒に踊る。その様子を眺めていたエリオに、マルシアは「彼女はオリヴァーを狙ってる」と告げた。エリオはマルシアを誘って一緒に泳ぎ、翌日も同じ時間に会う約束を交わした。
 翌朝、エリオはオリヴァーと父に、「昨日、マルシアとやれそうだった」と話す。オリヴァーが「失敗しても試さないと」と告げると、彼は「もう少し勇気を出せば彼女はOKだった」と語った。

 キアラが別荘に来ると、エリオは「彼はハンサムだ」と言う。「くっつけたいの?」と問われたエリオは、軽く笑って誤魔化した。キアラがオリヴァーにキスして去った後、エリオは「貴方を好きらしい」と告げる。「好きになれと?」とオリヴァーが言うと、彼は「何か問題でも?」と口にする。オリヴァーは「問題は無いが、人に指示されたくない」と不愉快そうに述べた。
 パールマンは2人に「ガルダ湖で何か引き上げられたらしい」と言い、3人は車で現場へ赴いた。発見されたのは1827年に沈没した船に積まれていたヴィーナス像で、レキ伯爵が愛人である歌手のアデライデに贈った物だった。

 パールマンが「帰る前に泳ごう」と持ち掛け、オリヴァーとエリオは一緒に湖で遊んだ。エリオはマルシアとの約束を忘れてしまい、別荘へ戻ってから慌てて出掛けるが彼女はいなかった。
 停電の夜、アネラはエリオとパールマンに、16世紀のフランスの本を読んだ。それは騎士が王女に恋をして、なかなか彼女の気持ちを確かめられないという内容だった。エリオが「そんなことを聞く勇気は無い」と言うと、パールマンは「いつでも私たちに話すといい」と優しく告げた。

 後日、エリオはオリヴァーに、その出来事を語った。騎士は王女から「話して」と促されても、核心に触れることは無かった。そのことをエリオから聞いたオリヴァーは、「だろうな。フランス人だ」と口にした。
 彼が「用事があるから町へ」と言うと、エリオは「僕が行くよ。今日は暇だから」と告げる。オリヴァーは「一緒に行こう」と提案し、2人は自転車で町へ赴いた。オリヴァーは煙草を購入し、エリオにも吸うよう勧めた。

 オリヴァーが「君は誰よりも知識がある」と言うと、エリオは「大事なことは知らないんだ」と告げる。「大事なことって?」と問われた彼は、「分かってるだろ」と言う。「なぜ僕に言う?」というオリヴァーの質問に、エリオは「知ってほしいから」と答えた。
 オリヴァーが「僕が思うことと同じ?」と確認すると、エリオは無言でうなずいた。エリオはオリヴァーを川へ案内し、「ここは秘密の場所。いつも本を読みに来る」と話した。

 オリヴァーはエリオに、「君を失望させたくない。色々と難しすぎる」と言う。2人は草に寝転び、キスを交わす。だが、それ以上の関係をエリオが求めると、オリヴァーは「帰らないと。自制すべきだ」と述べた。
 エリオはアネラから、「オリヴァーのことが好きでしょ?」と質問された。エリオが「そう感じる?」と告げると、彼女は「少し前に彼が言ったの」と口にした。だが、オリヴァーはエリオを避けるように、昼間は外出して深夜になってから帰宅するようになった。

 エリオはマルシアとデートに出掛け、野外で肉体関係を持った。彼は「僕を避けないで。憎まれるより死を選ぶ」とオリヴァーへの手紙を書き、ドアの下から部屋に差し込んだ。
 翌日、エリオの部屋にはオリヴァーの「大人になれ。真夜中に会おう」という手紙が返って来た。エリオはマルシアと泳ぎ、屋根裏部屋でセックスした。パールマンとアネラの友人であるゲイカップルのアイザックとムニールが、遊びに来た。エリオは父に頼まれて着替えを済ませ、彼らのためにピアノを弾いた。

 エリオは寝室へ向かうオリヴァーの姿に気付くと、「疲れたから、そろそろ寝るよ」と両親に嘘をついた。部屋に戻った彼は、アイザックとムニールが両親に見送られて去る姿を見た。エリオはバルコニーへ出てオリヴァーと2人きりになり、手を繋いだ。
 オリヴァーは「本当に望んでるのか」と確認を取ってから、エリオと肌を重ねた。性行為が終わると、オリヴァーはエリオに「君の名前で僕を呼んで。僕の名前で君を呼ぶ」と告げた…。

 監督はルカ・グァダニーノ、原作はアンドレ・アシマン、脚本はジェームズ・アイヴォリー、製作はジェームズ・アイヴォリー&ハワード・ローゼンマン&ホドリゴ・テイシェイラ&マルコ・モラビート&ピーター・スピアーズ&ルカ・グァダニーノ&エミリー・ジョルジュ、製作総指揮はデレク・シモンズ&トム・ドルビー&マルガレート・バイユー&フランチェスコ・メルツィー・デリル&ナイマ・アベド&ニコラス・カイザー&ソフィー・マス&ロウレンソ・サンターナ、撮影はサヨムプー・ムックディプローム、美術はサミュエル・デオール、編集はヴァルテル・ファサーノ、衣装はジュリア・ピエルサンティー、音楽監修はロビン・アーダング。

 出演はアーミー・ハマー、ティモシー・シャラメ、マイケル・スタールバーグ、アミラ・カサール、エステール・ガレル、ヴィクトワール・デュボワ、ヴァンダ・カプリオロ、アントニオ・リモルディー、エレナ・ブッチ、マルコ・スグロッソ、アンドレ・アシマン、ピーター・スピアーズ他。

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 アンドレ・アシマンの同名小説を元にした作品。監督は『ミラノ、愛に生きる』『胸騒ぎのシチリア』のルカ・グァダニーノ。脚本は『シャンヌのパリ、そしてアメリカ』『ル・ディヴォース/パリに恋して』のジェームズ・アイヴォリー。アカデミー賞の脚色賞、ロサンゼルス批評家協会賞の作品賞&監督賞&男優賞、ヨーロッパ映画賞の観客賞など、数々の映画賞を受賞した。
 オリヴァーをアーミー・ハマー、エリオをティモシー・シャラメ、パールマンをマイケル・スタールバーグ、アネラをアミラ・カサール、マルシアをエステール・ガレル、キアラをヴィクトワール・デュボワが演じている。

 最初の内は、何を描こうとしている作品なのか見えて来ない。オリヴァーが来た後、別荘でのエリオたちの生活風景が淡々と描かれているだけだからだ。
 そんな中で、エリオのオリヴァーに対する気持ちはどうなのかというと、これまた良く分からない。最初は気に入っているような様子もあったが、「横柄だ」と嫌悪しているような言葉を口にする。なぜ急にオリヴァーを嫌がったり、不快感を示したりするようになるのか、その心情は分からない。

 しかし20分ほど経過し、エリオがオリヴァーを見て手淫しようとする行動を取った辺りで、物語の骨格が見えてくる。エリオはオリヴァーに恋をしたのだ。そう考えれば、そこまでの言動も全て腑に落ちる。
 肩を触られて邪険にしたのは、好きになったからこそ余計に敏感な反応を示してしまったのだ。「横柄だ」と悪口を言うのも、むしろ惚れているからこそだ。「好きだからこそ、悪く言ったり冷たい態度を取ったりする」という、ガキっぽいことをやっているのだ。

 手淫のシーン以降は、エリオがオリヴァーへの恋心を分かりやすく表現するようになる。決してラブラブ光線を出しまくってアピールしているわけではなく、むしろ彼は気持ちを隠そうと努めている。
 しかし、「エリオはオリヴァーが好き」ってことが分かっていると、その言動の全ては「そういうことね」と見えるようになっている。演奏のリクエストを受けて天の邪鬼な態度を取るのも、マルシアを誘うのも、オリヴァーにキアラを好きになるよう勧めるのも、全ては「素直になれない恋心」ってことだ。

 エリオは最初から、自分がゲイだと認識していたわけではないだろう。きっとオリヴァーと出会ったことで、初めて男性に恋をしたのだ。だから余計に戸惑いもあり、しばらくは探るような行動が続いたり、苛立った態度を取ったりもしたのだろう。
 ただ、これは決してゲイ・ロマンスを描く映画ではない。それは製作サイドもハッキリと言っている。好きになった相手が異性なのか同性なのかは、そんなに意味が無い。これは若者が自身の溢れる感情や性的欲求に気付き、戸惑ったり悩んだりしながら前へ進んでいく成長物語だ。

 エリオは一方的に、オリヴァーに惚れたわけではない。エリオに告白されてから、オリヴァーが戸惑いながらも結局は受け入れるわけでもない。オリヴァーも最初から、エリオに惹かれていたのだ。つまり最初から両思いだったわけだ。
 オリヴァーがエリオの肩を揉んだり泳ぎに誘ったりしたのは、好意があったからだ。エリオがキアラを好きになるよう勧めた時に腹を立てたのも、彼を好きだからだ。「君を好きなのに、なぜ他の女とカップルにしようとするのか」という苛立ちだ。

 エリオはオリヴァーと両思いであることが分かった途端、すぐに深い関係へ発展することを求める。良くも悪くも直情的で、自身の欲求に正直であろうとするのだ。
 しかしオリヴァーは彼よりも経験がある大人なので、そう簡単に事を運ぼうとしないし、エリオにも自制するよう促す。だが、エリオのことを好きだという気持ちは事実なので、結局は性的関係を持つ。「しばらく我慢したけど、やっぱり無理」という流れになっているわけだ。

 同性愛者のカップルを描く作品では、それを非難したり妨害したりするキャラを周囲に配置するケースが大半だ。マイノリティーなので、「世間の冷たい目が障害になる」という形を取るわけだ。しかし本作品の場合、周囲の面々は全員が良き理解者だ。
 キアラやマルシアだけでなく、エリオの両親でさえ2人の関係を応援しようとする。ゲイ・ロマンス映画なら、そんな設定にはしないだろう。そういう部分だけを取っても、これがゲイ・ロマンス映画ではないってことが感じられる。

 エリオの両親にはアイザックとムニールというゲイカップルの友人がいるので、同性愛者が身近な存在だという環境ではあったんだろう。ただ、友人がゲイなのと、自分の息子がゲイなのはワケが違う。しかし両親は息子がゲイでオリヴァーと惹かれ合っていることを知っても、驚きも戸惑いも無いし、怒ったり反対したりもしない。それどころか、アネラはオリヴァーからエリオと惹かれ合っていることを聞いているのだ。
 それを平気でオリヴァーが話せてしまうぐらい、アネラは寛容な親ってことだ。ただ、パールマンに関しては、「実は自分もゲイだった」ってことを終盤に明かしている。なのでエリオに理解を示すのは当然だ。「進歩的で寛容な考えの親」という印象は薄れるけど、「自分もゲイだった」ってことの方が、息子を受け入れる理由は分かりやすくなるね。

 エリオはオリヴァーに惹かれているのに、マルシアと2度もセックスしている。1度目に関しては、「オリヴァーが自分を避けているので苛立ち、半ば当て付けのように」という流れだ。
 2度目に関しては、もうオリヴァーから「真夜中に会おう」という手紙が来ているのに、まだマルシアと関係を持っている。ただ、これは「夜中まで我慢できないのでマルシアと」ってことだ。どっちのケースも、ようは「自分の性欲を満たすため」ってことだ。

 エリオがマルシアとセックスしたのは自分の性欲を満たすことだけが目的であり、そこに愛は皆無だ。オリヴァーを好きなのに内緒にしてマルシアが好きなように装っているんだから、彼女を騙す酷い裏切り行為と言ってもいい。
 だが、そんなエリオをマルシアは優しく許して、オリヴァーとの恋を応援する。両親やキアラも含め、エリオは周囲の人々に恵まれている。あと、幾ら性欲を解消したいからと言っても女性とセックスできているので、エリオはゲイじゃなくてバイじないかという疑惑は残るぞ。

(観賞日:2019年11月23日)

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