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『下妻物語』:2004、日本

 高校2年生の竜ヶ崎桃子は、ロココ時代のフランスに生きたかったと本気で思っている。しかし実際の彼女は、茨城県下妻に暮らしている。ロリータ・ファッションに身を包むのが大好きな彼女だが、近くにそんな服を売っている店は無い。顔見知りの八百屋の若旦那を始めとする周囲の面々は、近くのジャスコで服を買っているらしい。
 もちろん桃子がジャスコで服を買うはずなど無く、わざわざ片道3時間を費やして東京の代官山へ出掛け、大好きなブランド「BABY' THE STARS SHINE BRIGHT」の店で買い物をする。

 桃子が生まれたのは下妻ではなく、兵庫県尼崎だ。下っ端ヤクザの父はスナックで働く母と出会い、2人が結婚して桃子が誕生した。しかし母は産婦人科医との不倫に走り、父と桃子を捨てた。
 父はベルサーチのバッタモン販売で稼ぎ、さらにUSJとダブルネームのバッタモンも売り始めた。しかしUSJに目を付けられたことを兄貴分から知らされ、尼崎を離れることにした。桃子は父に連れられ、父方の祖母が暮らす下妻に引っ越したのだった。

 桃子は服を買う金を工面するため、父が持ってきたベルサーチのバッタモンを売ることにした。個人情報誌に告知を載せると、ヘタクソな字の手紙が届いた。「白百合イチコ」という名の送り主が小学生だと思った桃子は、品物を見たいという彼女を祖母の家で待つ。
 だが、そこに現れた白百合イチコは、バリバリの暴走族ファッションに身を包んでいた。彼女は舗爾威帝劉(ポニーテール)というレディースに所属しているのだ。ただし、バイクは原チャリだった。イチコというのは偽名で、本当はイチゴだった。

 その日以来、イチゴは桃子の家を頻繁に訪れるようになった。「友達など要らない」と考える桃子は迷惑がるが、イチゴはお構い無しで注意を引こうとしたりする。
 喫茶店でイチゴは、自分がレディースになった経緯を語った。中学自体にイジメを受けていたイチゴは、舗爾威帝劉の総長・亜樹美から声を掛けられ、高校デヴューのヤンキーになったのだという。

 桃子はイチゴから、代官山にある「閻魔」という名の刺繍屋を知らないかと質問された。亜樹美がレディースを卒業するパレードがあるので、その日に合わせて特攻服に刺繍を入れたいのだという。
 イチゴによれば、閻魔というのは妃魅姑(ひみこ)という伝説のレディースに刺繍を入れた店らしい。だが、桃子は閻魔という店の名を聞いたことも無かった。

 イチゴは刺繍の資金を稼ぐため、桃子を強引にパチンコ店へ連れて行く。だが、パチンコでフィーバーしたのは桃子だった。店長から違法行為をしただろうとイチャモンを付けられた桃子とイチゴだが、一角獣の龍二という下っ端ヤクザが助けに入った。イチゴは彼に恋をするが、素直に気持ちを表現することが出来ない。

パチンコで資金を稼いだ桃子とイチゴは、代官山へ出て閻魔という店を探す。しかし店は見つからず、イチゴはコンビニで水野晴郎を目撃したことを得意げに語って桃子に怒られる。BABY' THE STARS SHINE BRIGHTの店に出向いた桃子は、ボンネットに施した手製の刺繍を社長の磯部に誉められる。イチゴから特攻服への刺繍を頼まれた桃子は、寝る間も惜しんで完成させた。
 後日、イチゴは桃子にパレードのことを語って聞かせた。パレードの後で亜樹美の恋人が現れたのだが、それが一角獣の龍二だったという。

 桃子は磯部から、新作ドレスの刺繍を依頼された。熱心に口説かれた桃子は仕事を引き受けたものの、弱気になってイチゴに「会いたいよ」と助けを求めた。イチゴはチームの集会を投げ出して駆け付け、桃子を励ました。
 桃子は刺繍を完成させ、ドレスを届ける日になった。しかし、イチゴが新総長のミコに呼び出されてリンチを受けると知った桃子は、祖母のスクーターを借りて助けに向かう…。

 監督&脚本は中島哲也、原作は嶽本野ばら、プロデューサーは石田雄治&平野隆&小椋悟、企画は宮下昌幸&濱名一哉、製作統括は大里洋吉&近藤邦勝、撮影は阿藤正一、編集は遠山千秋&小池義幸、録音は志満順一、照明は木村太朗、美術は桑島十和子、スタイリストは申谷弘美、ビジュアルエフェクトスーパーバイザーは柳川瀬雅英、ヘア&メイクアップアーティストは小菅孝、音楽は菅野よう子、音楽プロデューサーは金橋豊彦、オリジナル・テーマソング『Hey my friend』&オープニング・テーマソング『Roller coaster ride→』はTommy heavenly6。

 出演は深田恭子、土屋アンナ、樹木希林、宮迫博之、篠原涼子、阿部サダヲ、岡田義徳、小池栄子、矢沢心、荒川良々、生瀬勝久、本田博太郎、入絵加奈子、鮎貝健、水野晴郎、木村祐一、まちゃまちゃ、真木よう子、福田麻由子、江本純子、町田マリー、栗本修次、河西りえ、高野ゆらこ、三浦香、太田美恵、ヨネヤマハダコ、成田さほ子、山崎えり、潮香緒里、真下有紀、原田佳奈、三城晃子、藤本洋子、戸村美智子、山本ふじこ、橘ひろ子、森康子、あしまゆみ、森下里美、斉藤ゆり、河本千明、宮城秋葉、森田このみ、池田砂沖、植村加菜、武重さやか、高橋麻紀子、関田*枝、大塚ちか、井上裕季子、長谷妙子、平山慶子、吹雪ひろみ、工藤時子ら。

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 嶽本野ばらの同名小説を基に、CMディレクターの中島哲也が撮った作品。
 桃子を深田恭子、イチゴを土屋アンナ、桃子の祖母を樹木希林、父を宮迫博之、母を篠原涼子、一角獣の龍二&桃子の母と再婚する産婦人科医を阿部サダヲ、磯部を岡田義徳、亜樹美を小池栄子、新総長ミコを矢沢心、八百屋の若旦那を荒川良々、パチンコ屋の店長を生瀬勝久、桃子の父がいた組の兄貴分を本田博太郎が演じている。

 「斬新な演出」「斬新な映像表現」などという評価を耳にしたんだが、そうは思わなかった。
 例えばカメラ目線で話し掛けるのも、露骨なプロダクト・プレイスメントみたいにジャスコの服の値段をテロップ表示するギャグも、桃子が宙に浮かぶのも、アニメを挿入するのも、既に他の映画で見たことがある手法だ。
 いや、だからってケチを付けようってわけじゃなく、むしろ、それらを幾つも持ち込んでポップなイメージを構築していることを誉めたい。

 まあしかし、演出が云々というよりは、ほとんどキャラクターと配役による勝利と言ってしまってだろう。
 桃子の浮世離れしていて感情の起伏に乏しいキャラクター、冷めた物言いに、深田恭子はピタリとハマっている。この人は草なぎ剛と同じで、余計な演技をさせるとダメになってしまう人なので、素のまんまで行ける役で正解。
 あと、桃子のナレーション主体で進行していくやり方も、そこまで計算していたのかどうかは知らないが、結果としては淡々とした語り口でもOKになるような配慮になっている。

 一方のイチゴを演じる土屋アンナも、ハッキリ言って芝居には拙い部分があるんだが、それがイチゴというキャラの持つ「友情や愛情を感じても、なかなか素直に表現できない」という不器用さに上手く重なった。
 ぶっきらぼうで荒っぽい口ぶりのキャラクターなのも、台詞回しが上手くないのを隠すのに吉と出たようだ。

 いかにもCMディレクターらしく、短い断片を繋いでいくような手法で、物語としての持続力には欠ける。しかしキャラで引っ張っていく小池一夫的な方式を採用しているので、その場その場で独立したネタを披露していくというやり方でも、ブツ切れ感覚をそんなに与えない。
 桃子とイチゴという2人のキャラクターが、CM的な短い断片を繋ぎながら牽引していくのだ。

 ただし、終盤で2つ、大きな不満がある。
 1つは、イチゴを助けに入った桃子が関西弁でタンカを切る場面。深田恭子に不向きな演技を要求したことで、一気にボロが出ている。それに、そこでロリータキャラを壊すメリットは何も無い。そうなると「表向きはロリータだが根っ子は関西のヤンキー」ってことになるぞ。
 そうじゃなくて、普段のキャラのままで「お洋服が汚れちゃったわ」とか言いつつ、レディースにパンチを食らわしてKOしたりすることで外見と中身のギャップを見せた方がいいんじゃないのかね。

 もう1つは、イチゴが「妃魅姑は自分が作り出した架空の人物で、それが伝説して広まってしまった」と明かす展開。
 そこは最後のドンデン返しみたいなモノになっているんだが、その仕掛けが全く効果を発揮していないんだよな。それよりも、実際に閻魔という刺繍屋と妃魅姑という存在を意外な形で登場させた方が良かったと思うんだけどなあ。

 このカラフルでノリの良い映画が持つキャッチーさは、危ういモノを含んでいると感じないわけではない。でも面白かったのは確かだから、深く考えないことにする。こういう映画がメインストリームになっちゃったら邦画界の危機だろうけど、そんなことは有り得ないだろう。
 ってなわけで、「はみ出しっ子世にはばかる(そんな表現は無いが)」的なポジションの映画として傑作。

(観賞日:2006年5月29日)

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