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『80日間世界一周』:1956、アメリカ

 ロンドン。パスパルトゥーという男が自転車で職業紹介所へ行くと、マネージャーのヘスケス・バゴットはフォスターという男の陳情を受けていた。フォスターはフィリアス・フォッグという人物の執事を務めていたが、クビにされたのだ。
 この半年でフォッグは、5人の執事を解雇していた。彼は細かいルールを定めており、時間にうるさい男だった。フォッグは改革クラブのメンバーだが、仕事も家柄も不明だった。パスパルトゥーは新しい執事として名乗りを挙げ、ファッグの屋敷を訪れた。フォッグは時間厳守を説明した上で、彼を雇うことにした。

 フォッグは改革クラブの建物へ行き、会員であるラルフやデニス、アンドリュー、給仕のヒンショーたちと話した。ラルフが頭取を務める銀行は強盗に襲われ、多額の損害を被っていた。
 ラルフは「人相書きを世界中に回した。逃げ切れない」と言い、フォッグは話の流れで「80日間で世界を一周できる」と告げた。するとアンドリューは、「君が回ってみせたまえ。出来ない方に5千ポンド賭けよう」と言う。フォッグが「2万ポンドの預金がある。全額を賭けよう」と乗ると、他の会員たちは彼が負ける方に賭けた。

 帰宅したフォッグは、パスパルトゥーに「10分で世界旅行に出掛けるぞ」と告げる。パスパルトゥーは慌てて準備に取り掛かり、フォッグは必要最低限の物を鞄に入れた。フォッグとパスパルトゥーはパリに着いて馬車に乗り、旅行会社のトマス・クック社へ赴いた。
 フォッグはマルセイユ行きの汽車の切符を購入しようとするが、雪崩でトンネルが通れないことを知る。道路も使えないのでフォッグが他の方法を考えていると、支配人のガッセは気球を使うよう提案した。フォッグは気球を購入し、自分で操縦することにした。

 フォッグとパスパルトゥーは大勢の人々に見送られ、気球で飛び立った。アルプスを越えた2人は、南フランスのコート・ダジュールと思われる場所で、フォッグは気球を着陸させる。しかし彼が着陸したのは、スペインの町だった。
 タンジールの豪族であるアクメッドが快速艇を所有していると聞いたフォッグは、それを借りてマルセイユへ行こうと考える。彼はアクメッドに会うため、夜の酒場へ赴いた。フラメンコダンサーが踊る様子を見物したパスパルトゥーは途中から参加し、見事なケープ捌きを披露した。

 フォッグはアクメッドを見つけると、快速艇を借りたいと申し入れた。アクメッドは「無料でいい」と言うが、条件を付けた。闘牛が好きな彼は、翌日の祭りにパスパルトゥーが闘牛士として参加するよう要求したのだ。
 パスパルトゥーは承諾し、闘牛場へ出向いた。いざ牛を見ると、パスパルトゥーは怖じ気付いてしまった。しかし彼は見事なパフォーマンスを披露し、観客の喝采を浴びた。アクメッドは満足し、フォッグに快速艇を貸した。

 ロンドンのロイズ銀行ではフォッグの現在地と経過日数が表記され、大規模な賭けが行われていた。フォッグは客船のモンゴリア号に乗り、スエズへ到着した。パスパルトゥーが下船すると、スコットランドヤードのフィックス刑事が待ち受けていた。
 フィックスは素性を隠し、イギリス領事官まで来るようフォッグに伝えてほしいとパスパルトゥーに告げる。彼はフォッグが銀行強盗だと決め付け、領事に逮捕状を請求した。彼はボンベイで逮捕状を受け取るため、モンゴリア号に乗船した。

 船が予定より2日も早くボンベイに到着したので、フォッグは船長と航海士に謝礼を支払った。彼はカルカッタまで行くために必要な物を揃えるようパスパルトゥーに指示し、「4時に駅で会おう」と告げて別れた。
 町に出たパスパルトゥーは牛を見つけ、闘牛士の真似をする。しかし、それが聖なる牛だったので、激怒した住民たちに追い回された。フィックスは警察署へ行くが、逮捕状は届いていなかった。パスパルトゥーは駅へ駆け込み、発車したばかりの汽車に飛び乗った。

 フォッグとパスパルトゥーは汽車で知り合った将軍から、その辺りには暗殺団の残党がいることを聞かされる。駅の無い場所で汽車は停止し、車掌は「ここで終点です。この先80キロは、まだ線路が無いんです」と説明する。イギリスの新聞では全線開通と報じられていたが、それは間違いだったのだ。
 しかし香港行きの船に乗るには時間の余裕があったため、フォッグは「アラハバードまで辿り着ければいい」と述べた。彼は象を買ってガイドを雇い、パスパルトゥー&将軍と共に密林を進んだ。

 その夜、フォッグたちは儀式へ向かう行列を目撃した。将軍は「あの女性は人身御供だ。死んだ夫と共に焼かれる」と言い、ガイドの男は「あの女性は望んでいません。夫が偉いラージャなので、殉死するしかないのです」と説明した。
 フォッグは人身御供のアウダ姫を救出しようと考え、寺院へ向かった。フォッグと将軍が作戦を練っていると、パスパルトゥーは火葬台へ潜り込んで夫の死体に成り済ました。彼が起き上がったので、儀式に集まった人々は慌てて逃げ出した。

 フォッグたちはアウダを象に乗せ、寺院から逃亡した。フォッグは地元警察に逮捕されるが、保釈金を支払って船に乗った。秩序正しく几帳面な性格のフォッグに、アウダは好意を抱いた。
 フォッグが夫のことをお悔やみを口にすると、彼女は「妻とは名ばかりで、イギリスへ留学する前、7歳の時に1度会っただけ」と述べた。尾行を続けているフィックスは船員に金を渡し、フォッグが香港から横浜へ向かう船に乗るという情報を掴んだ。

 フォッグは香港に到着すると、アウダの叔父を訪ねる。しかし叔父はオランダヘ去っていたため、フォッグはアウダをヨーロッバまで連れ帰ることに決めた。パスパルトゥーが船の切符を買いに行くと、尾行したフィックスは偶然を装って声を掛けた。彼はフォッグの予定を聞き出すと、酒場へ誘った。
 フィックスは素性を明かし、フォッグは銀行強盗なので乗船の予定を引き延ばして協力してくれと要請する。パスパルトゥーは断るが、フィックスが酒に混ぜておいた薬で眠り込んでしまった。フィックスは地元の人間を使ってパスパルトゥーを運ばせ、横浜へ向かうカーナティック号へ乗せた…。

 監督はマイケル・アンダーソン、原作はジュール・ヴェルヌ、脚本はジェームズ・ポー&ジョン・ファロー&S・J・ペレルマン、製作はマイケル・トッド、製作協力はウィリアム・キャメロン・メンジース、撮影はライオネル・リンドン、美術はジェームズ・サリヴァン&ケン・アダムス、編集はジーン・ルッジェーロ&ハワード・エプスタイン、衣装はマイルス・ホワイト、振付はポール・ゴッドキン、音楽はヴィクター・ヤング。

 出演はデヴィッド・ニーヴン、カンティンフラス、シャーリー・マクレーン、ロバート・ニュートン、ロバート・モーレイ、ノエル・カワード、ジョン・ギールグッド、トレヴァー・ハワード、マルティーヌ・キャロル、フェルナンデル、イヴリン・キース、シャルル・ボワイエ、ホセ・グレコ、ギルバート・ローランド、シーザー・ロメロ、ルイス・ドミンギン、サー・セドリック・ハードウィック、レジナルド・デニー、ロナルド・コールマン、チャールズ・コバーン、ピーター・ローレ、ジョージ・ラフト、レッド・スケルトン、マレーネ・ディートリッヒ、フランク・シナトラ、ジョン・キャラダイン、バスター・キートン、ジョー・E・ブラウン、ヴィクター・マクラグレン、ジョン・ミルズ、ジャッキ・オーキー、エドワード・R・マロー、フランク・ロイド他。

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 ジュール・ヴェルヌの冒険小説を基にした作品。初公開された時は『八十日間世界一周』という邦題だった。監督は『暁の出撃』のマイケル・アンダーソン。脚本は『スキャンダル・シート』『悪徳』のジェームズ・ポー、『ウェーク島攻防戦』『男の魂』などの監督であるジョン・ファロー、『頓珍漢大勝利』『フロリダ超特急』のS・J・ペレルマンによる共同。アンクレジットだが、ジョン・ファローはスペインのシーンで監督も務めたらしい。
 アカデミー賞では8部門にノミネートされ、作品賞、脚色賞、撮影賞(カラー作品)、劇映画音楽賞、編集賞を受賞した。フォッグをデヴィッド・ニーヴン、パスパルトゥーをコメディアンのカンティンフラス、アウダをシャーリー・マクレーン、フィックスをロバート・ニュートンが演じている。

 冒頭、人気アンカーマンだったエドワード・R・マローが登場し、「ジュール・ヴェルヌは多くの素晴らしい夢を本に描きました。彼の大胆な想像は空想小説として読まれましたが、多くが現実となりました」と語る。そして「彼の『月世界旅行』はジョルジュ・メリエスが映画化し、35ミリ・フィルムが使われました」と言うと、『月世界旅行』の映像が写し出される。
 その後で実際にロケットが打ち上がる映像を挟み、「人間が発明したのは人類滅亡の方法か、それとも夢想家の想像をも超える進歩と繁栄でしょうか」とモローが語り、地球を外から見た映像が写し出される。

 その後に「『八十日間世界一周』を書いたヴェルヌは80時間で回れると予言しましたが、現在は半分で可能です」といった語りが入り、ようやく改革クラブの様子が写し出されて本編に突入する。
 そこまでの長い前置きは、何の意味があるのはサッパリ分からない。いきなり本編から入っても、まるで支障が無い。っていうか、そっちの方が絶対にスッキリする。わざわざ観客に向けた解説から入るから、本編にどうやって結び付くのかと思っていたら、全くの無意味なのだ。

 本編に入ってからも、無駄に感じるシーンが多い。とは言え、ある程度は仕方が無い部分もある。なぜなら、これは「大勢の有名俳優が登場する」ってのを売りにしている映画だからだ。ただし、いわゆる「オールスター映画」とは違い、「ほんの少し顔を見せたら仕事は終わり」という形を取っている。カメオ出演が頻繁に行われるようになった、きっかけとも言われている作品だ。
 そんな風に「大勢の有名俳優を登場させる」ってことを最優先に考えているので、そのためのテンポが悪くなったり流れのスムーズさが犠牲になったりする部分は大きい。ただ、そういうことを除外しても、なお無駄が多いと感じるのだ。

 ただ景色を見せているだけという時間も、無駄に長い。観光映画としての側面もあると捉えれば、その国の観光名所を写し出すのは理解できる。でも、そういう場所を重点的に切り取っているわけでもないんだよね。各国へ実際に行って撮影しているんだけど、その割りにはランドマークへの意識が今一つだ。なので観光映画としての価値は、あまり高くない。
 ともかく本作品は、「次から次へと登場する有名俳優の豪華な顔触れを満喫しましょう」という映画なのだ。ストーリー展開の面白さとか、ドラマの充実とか、そういうことは考えちゃいけないのである。

 ってなわけで、登場する順番に主な出演者の顔触れをザッと紹介していく。改革クラブのラルフ役は、『マリー・アントアネットの生涯』『アフリカの女王』のロバート・モーレイ。職業紹介所のバゴット役は、『軍旗の下に』でアカデミー賞脚本賞候補になった劇作家で俳優のノエル・カワード。
 フォスター役は『ジュリアス・シーザー』で英国アカデミー賞主演男優賞を受賞したジョン・ギールグッド。改革クラブのデニス役は『封鎖作戦』『事件の核心』のトレヴァー・ハワード。

 パリの駅でパスパルトゥーが声を掛けてビンタを食らう女性は、『浮気なカロリーヌ』『女優ナナ』のマルティーヌ・キャロル。馬車の御者は、『ドン・カミロ』シリーズで人気を博した喜劇俳優のフェルナンデル。
 トマス・クック社の前でパスパルトゥーが目を奪われる女は『風と共に去りぬ』のイヴリン・キースで、この作品を最後にジャズクラリネット奏者のアーティ・ショウと結婚して女優業から引退している(後に復帰)。ガッセ役は『カスバの恋』『ガス燈』のシャルル・ボワイエだ。

 スペインの酒場でフラメンコを披露しているのは、本物のフラメンコダンサーであるホセ・グレコの一座。アクメッド役は『アパッチの狼火』『海底の黄金』のギルバート・ローランドで、通訳を担当する手下は『銀の靴』『ヴェラクルス』のシーザー・ロメロ。闘牛場では本物の闘牛士であるルイス・ドミンギンが登場する。
 インドの列車でフォッグたちが知り合う将軍は、『フランケンシュタインの幽霊』『リチャード三世』のサー・セドリック・ハードウィック。ボンベイの警察署長は『お転婆キキ』『キートンの恋愛指南番』のレジナルド・デニーで、車掌は『二重生活』でアカデミー主演男優賞を受賞しているロナルド・コールマン。

 香港の蒸気船の船員は、『陽気なルームメイト』でアカデミー賞助演男優賞を受賞しているチャールズ・コバーン。カーナティック号の船員は、『マルタの鷹』『仮面の男』のピーター・ローレ。
 アメリカでフォッグたちが入る酒場の用心棒は、『暗黒街の顔役』『大雷雨』のジョージ・ラフト。酒場で酔っ払っている客は、『スケルトンの映画騒動』『スケルトンの就職騒動』のレッド・スケルトン。

 酒場の女店主は、『モロッコ』『上海特急』のマレーネ・ディートリッヒ。酒場のピアニストは『踊る大紐育(ニューヨーク)』『地上(ここ)より永遠に』のフランク・シナトラ。酒場を出たフォッグと絡む選挙活動員のスタンプ・プロクターは、『怒りの葡萄』『ドラキュラとせむし女』のジョン・キャラダイン。
 大陸横断鉄道の車掌は、三大喜劇王の1人であるバスター・キートン。フォート・カーニーの駅長は、戦前に数多くの主演作が製作されていた人気コメディアンのジョー・E・ブラウン。

 アメリカを発ったフォッグたちが乗るヘンリエッタ号の船長は、1940年の『チャップリンの独裁者』でアカデミー助演男優賞候補となったジャック・オーキー。操舵手は、1935年の『男の敵』でアカデミー主演男優賞を受賞しているヴィクター・マクラグレン。
 ロンドンの御者は、『大いなる遺産』などデヴィッド・リーン監督作品の常連俳優であるジョン・ミルズ。フォッグの結婚式のためにパスパルトゥーが呼びに行く牧師は、1929年の『情炎の美姫』と1933年の『カヴァルケード』でアカデミー賞監督賞を受賞しているフランク・ロイドだ。
 そういう顔触れを楽しむのが、この映画の観賞法である。

(観賞日:2017年7月1日)

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