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『温泉みみず芸者』:1971、日本

 タコツボを考案した多湖家の先祖は寛永十二年に伊勢志摩で死亡し、漁師たちが徳を偲んで墓を建てた人物である。その十二代目である多湖初栄は飲食業を営んでいるが、若いツバメの西山に入れ込んでいる。
 次女で高校生の幸子は、姉の圭子に母を注意するよう促す。圭子は諦めているが、初栄が西山との情交を嬉しそうに話すと強い不快感を示した。初栄は娘たちに、「先祖がタコツボを考案して漁師たちを儲けさせてやった御利益で、多湖家の女はタコツボの持ち主なんだよ」と語った。

 圭子は先祖の墓が抵当に入っていることに触れ、初栄に「無駄遣いしていたら、いつまで経っても取り戻せないわよ」と言う。幸子は初栄と西山の情事を覗き、圭子はゴーゴークラブで工員に声を掛けられる。彼女はキスとバストタッチを了承し、金を稼いだ。
 初栄は西山に頼まれてタコツボの貯金を全て貸したが、そのまま持ち逃げされてしまった。半年だけ支払いの期限を待ってもらった圭子は、百万円を稼ぐために東京へ出ることにした。

 圭子は東京へ向かう列車の中で、馬島敬太郎という男と知り合った。彼は大阪で板前をしていたが、新しい土地で出直すつもりだと語る。東京に着いた圭子は、トルコ風呂の仕事を見つける。マネージャーの吉川が熱心に仕事を説明すると、彼女は退屈そうな表情を浮かべて「経験が無くても、そんなこと出来るわよ」と馬鹿にしたように言う。
 吉川は自分の体で試すよう促すが、圭子のテクニックに興奮する。トルコ風呂の社長であるインポの久兵ヱは、吉川から圭子を紹介される。圭子は吉川の相手を務め、五十万円を受け取った。

 圭子は母に手紙を書き、金を送った。久兵ヱが腹上死した後、圭子に初栄からの電報が届いた。伊豆の土肥温泉へ来るよう求められ、すぐに圭子は牧水荘土肥館へ駆け付けた。初栄は13万円を超える借金を作っており、男に騙されたのだと泣き出す。
 若い男から下田に良い土地があるので共同で事業を始めようと言われた初栄は、圭子が送った金も持ち逃げされていた。圭子が支払いを拒否していると、土肥館の板前になっていた馬場が現れた。女将の太田が初栄を警察に突き出そうとすると、馬島は借金の肩代わりを申し入れた。

 圭子は「貴方にこんな大金を立て替えて頂くわけにはいきません」と馬場に告げ、温泉芸者として働くことにした。早速、彼女は温泉芸者の桃子やジェーンたちと共に、玉座園で文教省大学局御一行様を接待する。
 局長の太田を始めとする面々は羽目を外して盛り上がり、芸者たちと関係を持った。初栄は置屋の女中として雇ってもらい、女将から絶賛される娘に「タコツボだけじゃなく、カズノコまで持ってるんだってねえ」と言う。

 温泉アイデアセンターの広瀬は桃子に頼んでアソコの型を取らせてもらい、土産物を作る。金を受け取った桃子は、「今度来た子、名器だっていう噂よ」と教えた。圭子は馬島と堂ヶ島へデートに出掛け、互いの境遇について語り合った。
 友人の馬島を訪ねた広瀬は、圭子を見つけて興奮する。彼は10万円でアソコの鋳型を取らせてほしいと頼むが、圭子は断った。圭子に惚れている馬島は、広瀬を追い払おうとする。広瀬が「お前に頼まれた縮小器具が出来たから持って来てやったのに」と言い出したので彼は慌てて口を押さえた。

 馬島は圭子の元から広瀬を引き離し、彼が作った発明品を見せられる。それは海綿体で出来た筒をバイブレーターと直結させた製品で、中に入れるとペニスが縮小する仕掛けだ。広瀬は馬島に、「そのデカマラを早く治さんと、人間様には通用せんぞ」と告げる。
 馬島は敗戦で復員してから、スケコマシ生活を続けるようになった。その影響で巨根になり、女性とセックスできなくなって悩んでいたのだった。家に戻った彼は、広瀬の発明品を試した。

 初栄が温泉アイデアセンターを訪れると、広瀬は「大人のオモチャの完成に全情熱を傾けているんです」と訴える。彼は初栄に配当金も渡すと約束し、圭子の説得を頼んだ。すると初栄は、アパートへ来るよう告げた。初栄は圭子に見せ掛けて布団で広瀬を待ち受け、彼を捕まえて強引に関係を持った。
 マムシホルモンの社長である大牟田が圭子の噂を聞き付け、土肥を訪れた。座敷に招かれた圭子は、大牟田が久兵ヱと瓜二つなので驚いた。圭子が久兵ヱを知っていると話すと、大牟田は自分の兄だと明かした。

 大牟田は圭子のおかげで6年ぶりに勃起し、土肥館で盛大な宴会を開いた。大牟田は土肥館の離れを借り切って長期滞在することに決め、月々30万円で契約しないかと誘われた圭子は快諾した。広瀬は自分に惚れている初栄に、圭子から資金を引き出すよう頼む。初栄は圭子の印鑑を持ち出し、彼に渡した。
 馬島は圭子が大牟田の妾になったと知り、すっかり落ち込んだ。温泉芸者の三津江は彼の元を訪ね、「貴方と同じ悩みを持ってるの。太平洋だと馬鹿にされて、辛い思いをして来たの」と自分を抱くよう求める。しかし馬島のアソコは予想以上に大きく、三津江は子宮裂傷で手術を受ける羽目になった。

 馬島は置屋の女将である松江から、三津江の入院費と見舞い金として30万円を支払うよう要求された。一方、圭子は大牟田の腹上死により、パトロンを失ってしまう。おまけに広瀬が初栄と共に夜逃げしたため、彼が発注した道具代の250万円を支払うよう業者たちから詰め寄られた。
 圭子の印鑑が押されていたため、彼女は支払いを約束した。圭子が浜辺で寝そべっていると馬島が現れ、いきなり抱こうとする。圭子が抵抗すると、彼は「俺はアンタが好きだけど、駄目なんだよ」と号泣した。

 圭子は馬島を不憫に思い、「抱いて。私を好きなようにしていいのよ」と告げた。彼女は馬島と関係を持ち、「アンタは私以外に行き場所の無い人なのね。私だけがアンタを包んであげられるのね」と口にした。
 それから10日ばかり経った頃、無限精流の流祖である竿師段平が師範代の黒竿段吉、高弟のピストン健を引き連れて土肥温泉へ現れた。今井荘に宿泊した段平たちは桃子や夢路といった芸者衆を呼び、その性技で虜にさせる。彼らは各地の温泉場を巡って芸者と関係を持ち、意のままに操って他の土地へ鞍替えさせていた。

 土肥温泉置屋組合の組合長である徳造は組合員を集め、対応策を練る。段平は厚生大臣の秘書をしていたことがあり、力ずくで追い出すことは出来なかった。土肥温泉に戻って来た初栄は会議の様子を盗み見て、「守り神が福を呼んでくれたらしいよ」と広瀬に告げる。
 初栄は徳造と話し、自分と娘に段平対策を任せ、被害を食い止めた場合は報奨金300万円を支払うことを承知させる。初栄は難色を示す圭子を説き伏せ、幸子を電報で呼び寄せた…。

 監督は鈴木則文、原案は久保田正、脚本は掛札昌裕&鈴木則文、企画は岡田茂&天尾完次、撮影は古谷伸、照明は金子凱美、録音は堀場一朗、美術は雨森義允、編集は神田忠男、助監督は皆川隆之、舞踊振付は藤間勘眞次、音楽は鏑木創。

 出演は池玲子、女屋実和子、杉本美樹、松井康子、山城新伍、小池朝雄、名和宏、殿山泰司、芦屋雁之助、三原葉子、大泉滉、由利徹、小島慶四郎、芦屋雁平、佐藤重臣、大下哲夫、清水正二郎(後の胡桃沢耕史)、団鬼六、田中小実昌、岡部正純、沢淑子、葵三津子、キャサリン・サリバン、蓑和田良太、関根永二郎、秋山勝俊、牧淳子、岡嶋艶子、千原和可子、早坂くるみ、大芝かほり、黒葉ナナ、槙直樹、川谷拓三、那須伸太朗、宮城幸生、平沢彰、島田秀雄ら。
 ナレーターは小松方正。

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 東映京都撮影所の「温泉芸者」シリーズ第4作。監督は『関東テキヤ一家』シリーズの鈴木則文。脚本は前作からの続投になる掛札昌裕と鈴木監督による共同。
 圭子役の池玲子と幸子役の杉本美樹は、これがデビュー作。この2人を売り出す時に天尾完次と鈴木則文が「大型ポルノ女優」という言葉を使い、初めて「ポルノ映画」「ポルノ女優」という呼称が誕生した。これまでも「成人映画」や「ピンク映画」は数多く作られてきたが、本作品が日本で最初の「ポルノ映画」ってことになるわけだ。

 前作でデビューした女屋実和子が、桃子役で出演している。いきなり主演という華々しいデビューだったが、その後は脇役が続き、1974年の『人妻セックス地獄』で久々に主演を務めることになる。
 他に、広瀬を山城新伍、馬島を小池朝雄、段平を名和宏、徳造を殿山泰司、初栄を松井康子、久兵ヱを芦屋雁之助、珠子を三原葉子、太田を大泉滉、西山を由利徹、望月を小島慶四郎、吉川を芦屋雁平が演じている。アンクレジットだが、役人の青姦現場を通り掛かる黒服の男として、菅原文太が1カットだけ出演している。

 池玲子は天尾完次と鈴木則文が週刊誌のグラビアで見つけてスカウトしたが、当時は16歳だったので本来なら完全にアウトである。一方、杉本美樹はモデルをしていた時にスカウトされてデビューに至り、この映画が公開された時は池玲子に次ぐ扱いで宣伝されていた。しかし2作目以降は主演女優として活躍する池と差が付く一方で、どんどん脇へと追いやられていった。
 その序列が変わるのは、池が歌手への転向を宣言して主演を降板し、杉本が代役に起用された1972年の『徳川セックス禁止令 色情大名』を待たねばならない。

 タイトルに「みみず」の文字があるんだから、もちろん「ミミズ千匹」の意味で使っているんだろうと思ったが、劇中で女性のアソコの具合を表現する言葉は「タコツボ」だ。それなら、『温泉たこつぼ芸者』というタイトルにすべきだろう。ただ、そんな風に思っていたら、実際に『温泉たこつぼ芸者』として撮影されていたそうだ。
 ところが公開の直前になって岡田茂プロデューサーがタイトルの変更を要求したため、劇中で一度も出て来ない「みみず」という言葉が使われることになったらしい。監督は交代したが、脚本家が前作から続投していることもあって、シリーズ第3作『温泉こんにゃく女中』のナンセンスなバカバカしさは踏襲されている。

 オープニング・クレジットでは、海女の服を脱いで裸になった池玲子がポーズを決めたり、波打ち際を走ったり、浜辺に寝転がったり、雑誌を開いたり、走行するクルーザーの舳先に座ったり、クロールや背泳で泳いだり、波をパシャパシャやったりする様子が描かれている。
 まるでイメージ・ビデオみたいな状態になっているが、いかに「池玲子のプロモーション」という意識が高かったのかという現れだと言えるだろう。そう考えると2作目以降で杉本美樹と差が付いたのも当然で、彼女は所詮、「ついで」に過ぎなかったんだね。

 前作ではヒロインの父が身勝手な理由で娘を利用し、ヒロインは父のために温泉芸者として金を稼いでいた。今回は父のポジションが母になっており、金が必要な理由も異なっているが、ザックリ言っちゃうと同じような形だ。
 前作の父は「蒟蒻による性具を作る」ということに情熱を燃やし、そのために娘が金を稼いだり妾になったりしていた(ただし後半は「結婚するために金が必要」という理由になるが)。それに対して今回は「アバズレのせいで金を失う」という形なので、前作で殿山泰司が演じたヒロインの父親に比べると、魅力的なキャラとは言い難くなっている。

 ただし「ヒロインが愚かな親の犠牲になる」という悲壮感は、前作と同様で全く感じない。初栄が男に騙されるのは西山が初めてではない設定だが、圭子は全く怒らない。それどころか笑顔を見せて、自分が稼ぐことを口にする。
 そもそも彼女は、東京へ出る前から体を使って金を稼いでいるのだ。本番までは許していないが、ゴーゴークラブで川谷拓三の演じる工員にキスとバストタッチをさせて金を受け取っている。そういう、たくましい女性なのだ。

 ただ、ホテルへ呼ばれた時は母を叱責して借金の肩代わりも冷たく拒否しているので、その辺りは統一感が無いなあと感じる。そりゃあ「今度は堪忍袋の緒が切れた」と解釈すべきなのかもしれないけど、西山に金を持ち逃げされた時点で「これまでに母は何度も騙されていた」という設定なわけで。
 それでも笑顔で許していたのなら、また新しい男に金を持ち逃げされても同じように対応した方が整合性は取れるわけで。せめて「呆れた態度を示すけど、借金は肩代わりする」という形にでもしておいた方がいい。

 それに関連して、圭子が温泉芸者として働き始める経緯も、あまり上手いとは言えない。母親を突き出すと言われても借金の肩代わりを冷淡に拒否していた彼女は、馬島が「月々の給料から少しずつ渡す」ってことで立て替えを提案すると、「貴方にこんな大金を立て替えて頂くわけにはいきません。私が働いてお返しします」と告げる。そしてカットが切り替わると、彼女は温泉芸者になっている。
 テンポは悪くないけど、スムーズとは言い難い。そこは誰かに「温泉芸者として働いてはどうか」と提案される形にでもした方がいい。自ら積極的に温泉芸者の道を選択するのなら、母の借金肩代わりを冷淡に拒否するのではなく、呆れつつも承諾する形の方がいい。

 さて、温泉芸者になった圭子は文教省大学局御一行様を接待するのだが、ここでは「その他大勢」のようにボンヤリした状態で、桃子役の女屋実和子がヌルッと初登場している。オープニング・クレジットでは池の次に表記されるのに、登場シーンでは脇の脇である他の温泉芸者と同じような扱いなのだ。
 さすがに、その後の出番はそれなりに多いけど、前作でヒロインとして映画デビューした人の扱いとしては、ちょっと残念なことになっている。

 宴会のシーンでは、わざわざ文教省大学局の面々の役職が表示される。文教省大学局にしろ、その役職にしろ、実際には存在しないが、それは「偉そうにしている役人の実体なんて、そんなモンでしょ」という批判精神の表れだ。
 ソクブンさんって意外に、そういうのを持ち込みたがる人だよね。ちなみに、義務教育課課長を演じているのが小説家の団鬼六、純潔教育課課長補佐が小説家の田中小実昌、偏向思想調査係係長が小説家の清水正二郎(後の胡桃沢耕史)、秩序維持係係長補佐が映画評論家の佐藤重臣だ。

 前作に比べればヒロインの存在感は増しているものの、男性キャラの方がアクが強くて目立つという状態は同じだ。
 デカマラで悩んでいる馬島はチンコ縮小マシーンを試したり、芸者のアソコを破壊したりする。広瀬はアソコの鋳型を取った土産物の製作に情熱を捧げて芸術と称しているが、これは前作でコンニャクの性具作りに没頭した徳助を連想させる。芦屋雁之助は1人2役で兄弟を演じ、どちらも圭子のタコツボで絶頂に達して腹上死する。

 そのように個性的な男性キャラの中でも、際立ってクセが強いのが無限精流の3人衆だ。段平は今井荘に宿泊すると、料理について従業員に問われると「そのような物は食せん」と断り、「お風呂は?」という質問には「そのような物は入らん」と告げる。
 いかにも貫禄充分で落ち着き払った態度を示す彼は氷風呂を用意させ、弟子2名に対して「男子が一生に使う精液は一升瓶にして約8本。相手が失神し、狂態してもなお攻撃の手を緩めないのが鉄則じゃ」などと熱く語る。すんげえバカバカしいキャラなのだが、それを真面目に熱く演じてくれる名和宏は素晴らしい。

 本作品で同時にデビューした池玲子と杉本美樹だが、その扱いの差は歴然としている。池玲子は出ずっぱりだが、杉本美樹は序盤を過ぎると全く登場しなくなる。
 女屋実和子の扱いも決して良くないが、杉本美樹は「もうちょっと大切にしてあげようよ」と言いたくなるぐらい不憫なことになっている。3番目にクレジットされる女優としては、あまりにも出番が少ない。「池玲子を売り出そう」という意識が強かったのは分かるけど、杉本美樹とダブルで売り出した方が東映としてもメリットは大きかっただろうに。

 さて、そんな杉本美樹がようやく再登場するのが、終盤に用意されている無限精流との対決である。ちなみに「恋人と幸せになろうとする親のために、ヒロインがセックス勝負を受けざるを得なくなる」ってのは、前作と同じパターン。
 ってことは、前作のセックス対決というアイデアは評判が良かったんだろう。ちなみに前作ではヒロインと男の3番勝負だったが、今回はヒロイン&母&妹が1番ずつ戦う形になっている。

 初栄は段平に果し状を届け、弁天浜住菱別邸でセックス3番勝負に挑もうとする。しかし対決の前に段吉と健が彼女を襲撃し、筆を見ただけで絶頂に至る体へと変えてしまう。そのせいで段吉との対決に惨敗するが、続く幸子は回転ベッドで健を果てさせる。
 最後の対決では、なぜか途中で場所が浜辺へワープする演出を入れる。蛸の群れが出現し、圭子が段平によって海に引きずり込まれる。蛸墨で水が真っ黒に染まる中、圭子は浜に戻って勝利する。言うまでも無くアホらしい対決だけど、それをマジにやるのが素晴らしい。

(観賞日:2016年9月23日)

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