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『直撃地獄拳 大逆転』:1974、日本

 元警視総監の嵐山は、ある任務を遂行するため、マリオ水原の麻薬組織を壊滅させた3人を招集することにした。その3人とは、甲賀忍法宗家の摘子で自衛隊に入隊した甲賀竜一、元刑事の殺し屋・隼猛、元合気道師範で脱獄囚の桜一郎である。秘書の恵美に報酬の大金を見せられた甲賀、嵐山に忠誠を誓う隼、中条華子という女と所帯を持っていた桜が嵐山の元に集まった。

 事の次第は、こういうわけだ。国際慈善会議名誉会長のザビーネ・カウフマンが、宝石の展示会で来日した。ところが時価10億円の宝石「ファラオの星」が、何者かに盗まれた。犯人はザビーネの5歳になる娘ジュリーを誘拐し、警察に知らせれば殺すと脅迫してきた。犯人は宝石とジュリーを返す代わりに、10億円を支払うようザビーネに要求してきた。

 ファラオの星には10億円の盗難保険が掛けられていた。保険会社の会長・衆木は、ザビーネから10億円の支払いを要求された。その衆木から、嵐山は仕事を引き受けていた。ザビーネの秘書・ブルーノ今村が、衆木の用意した10億円を持って犯人との取り引き現場に向かうことになっている。甲賀らの仕事は、今村を尾行して犯人からファラオの星とジュリーを奪還することだ。

 甲賀らは取り引き現場を張り込み、犯人と格闘になる。ジュリーは奪還したが、ファラオの星は取り戻せず、10億円も奪われた。嵐山の元に戻った甲賀らは、ザビーネが衆木に出させた10億円を犯人に支払い、ファラオの星を取り戻したことを聞かされる。甲賀はファラオの星を盗み出し、換金しようと企んだ。甲賀がザビーネの部屋に潜入すると、先客として隼の姿があった。甲賀は儲けを折半しようと隼に約束し、ファラオの星を盗んで部屋から立ち去った。

 しかし翌日、甲賀はザビーネが宝石の展示会を開催することを知った。甲賀が盗んだのは、イミテーションだったのだ。ザビーネは、ファラオの星をロジャース銀行日本支店の金庫に保管するらしい。しかし甲賀は、偽物とはいえザビーネが盗難届を出さないことに疑問を抱く。そこで隼が、甲賀に事情を説明する。彼は最初から、甲賀の盗んだ宝石が偽物だと知っていた。

 ロジャース銀行総支配人のリコの周辺では、今回のような事件が頻繁に起きていた。盗難の被害者が得た保険金は、必ずロジャース銀行に預けられているらしい。嵐山は、今回の盗難事件の裏にシカゴ・マフィアの日本進出が絡んでおり、ザビーネも一味だと推理していた。偽物の宝石を盗まれても盗難届を出さなかったことで、それは確信に変わった。

 甲賀らは、ロジャース銀行の金庫からファラオの星とザビーネが衆木から騙し取った大金を盗み出そうと考え、計画を立てた。隼は刑事時代に面倒を見た元服役囚の辰造に会い、協力を取り付けた。甲賀らは検査官に成り済まして自衛隊の兵器保管庫に出向き、パラシュートや赤外線ゴーグルなどを入手した。そして、計画は実行に移された…。

 監督は石井輝男、脚本は石井輝男&橋本新一、企画は矢部恒&坂上順、助監督は橋本新一、撮影は出先哲也、編集は祖田冨美夫、録音は広上益弘、照明は梅谷茂、美術は藤田博、擬斗は日尾孝司、音楽は鏑木創。

 出演は千葉真一、志穂美悦子、中島ゆたか、佐藤允、山城新伍、郷鍈治、池部良、丹波哲郎、嵐寛寿郎、葉山良二、名和宏、室田日出男、白石襄、松井康子、中田博久、安岡力也、日尾孝司、トニー・セテラ、ハニー・ブラウン、ダニエル・ヘヒター、久地明、青木卓司、畑中猛重、舞砂里、松井紀美江、東島祐子ら。

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 『直撃!地獄拳』の続編。監督は前作と同じ石井輝男。
 甲賀役の千葉真一、恵美役の中島ゆたか、隼役の佐藤允、桜役の郷鍈治、嵐山役の池部良は前作からの出演。
 他に、衆木の秘書・紅美湖を志穂美悦子、衆木を丹波哲郎が演じている。ブルーノ今村役の名和宏、辰造役の室田日出男、悪党一味の白石襄&安岡力也&日尾孝司など、前作にも出ていたが演じるキャラクターが違う面々が何名かいる。

 千葉真一が主演だし、タイトルから考えても空手アクション映画だろうと誰もが思うだろう。
 いや、確かに形式上は空手アクション映画として作られているはずだ。
 しかし、空手アクションのシーンは、そんなに多くない。それまでに全く話に絡んでいなかった志穂美悦子が、最後だけ中国服でサイを使って格闘に参加したりはするけれど、「格闘アクションたっぷり」という印象は受けない。

 では、どういう印象を受けるのかというと、「ものすげえ幼稚なギャグ、下品で不潔なギャグを、オッサン達が繰り広げるバカ映画」というものだ。
 池部良に召集された佐藤允がサニー千葉をバカにする発言をすると、部屋に飾ってある甲冑に隠れていた千葉ちゃんが立ち上がって怒る。
 郷鍈治も含めた3人衆が集まると、目を盗んで互いのグラスにフケや鼻クソを入れ始める。

 海に落ちた郷鍈治は風邪をひいて、池部良から借りた服で鼻水を拭いて袖口をベタベタにしてしまう。
 ホテルの外壁を登っていたサニー千葉は、女にツバを吐き掛けられる。
 オムレツを作っていた郷鍈治はフライパンで卵を飛ばしてしまい、佐藤允の頭に掛かって卵まみれになる。怒った佐藤允は卵を郷鍈治の顔面になすり付け、トマトジュースを頭から注ぐ。

 宝石泥棒の計画を立てる最中、3人衆は中島ゆたかを高い場所に登らせ、スカートの中を覗き込む。
 セスナを飛ばすと、地上にいる女性のスカートがめくれてノーパンの尻が見える。
 仕事の途中で、サニー千葉や郷鍈治はオナラをカマす。郷鍈治の背中に火が付いた際、サニー千葉は小便を引っ掛けて消化する。

 郷鍈治は千葉ちゃんの強力接着剤によって、片手がテーブルに張り付いてしまう。困った彼は、手の形に板を切り抜く。
 その後、終盤まで彼は手に板が張り付いたまま行動する。話が進む中、少しずつ板が薄くなるという芸の細かさ。
 佐藤允が倒れてコブを作り、シーンが切り替わってもコブが出来たまま。こちらもギャグに対する神経の細やかさが見て取れる。

 高級レストランで、3人衆と中島ゆたかが会食するシーンがある。しかし初めての経験なので、ナプキンを頭に被り、ウォーターボウルの水を飲んでしまう。
 ウエイターから「ナプキンをどうぞ」と言われると、サニー千葉は「みんな食うか?じゃあ、4人前くれ」と言い放つ。
 本筋を進める中でのギャグだけでなく、そんな風にギャグのために存在しているとしか思えないシーンもある。

 山城新伍は、1シーンだけの出演。「目が悪いので近眼つきませんでした(気がつきませんでした)」というユルいギャグをカマす、オツムの弱い兵器保管庫の保管係として登場。
 そこへ、目元クッキリのメイクで、なぜか指パッチンでリズムを取りながら本庁の検査官が登場。こちらも山城新伍。
 1人2役で、脱力感たっぷりの掛け合いを見せる。

 もちろん、アクションシーンもある。クライマックスでは、サニー千葉の攻撃によって、安岡力也の目ン玉がグニョッと飛び出す。
 実は悪党一味のボスだった名和宏は、千葉ちゃんに蹴られて首がクルンと一回転し、さらに腸を引きずり出される。
 言葉で説明すると目を背けたくなる残酷描写のようだが、実際はギャグにしか見えない。

 どうして真っ当なアクション映画にならず、ここまで知能指数の極端に低いバカ映画になったのか。
 実は、格闘アクション映画に全く興味の無い石井監督が、にも関わらず立て続けに演出することになったので、2度と自分にオファーが来ないようなモノにしてやろうという気持ちで作ったという話を耳にしたことがある。
 なんせ石井監督なので、たぶんホントだろう。

 最後、3人衆は逮捕され、刑務所送りになる。サニー千葉は『網走番外地』の主題歌を口ずさみ、やって来たのは網走刑務所。
 掃除をしている年老いた囚人を発見した彼らは、声を掛ける。振り向いた男は嵐寛寿郎。役名は「八人殺しの鬼寅」である(オープニングでは配役は「?」とされている)。
 そう、ラストは石井監督、自身の『網走番外地』シリーズのパロディーで締め括るのである。

(観賞日:2005年10月3日)

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