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『秘密の花園』:1993、アメリカ

 イギリス人のメアリー・レノックスは、インドで生まれ育った。両親は子供嫌いで、乳母のアーヤが彼女の面倒を見た。母はパーティーに夢中で、軍人の父は多忙だった。メアリーは悔しくても泣き方を知らず、いつも母の部屋からパーティーを覗いていた。
 ある夜、メアリーは母の部屋に入り、象の置物を触っていた。母が来たので、彼女はテーブルの下に隠れた。しかし母は娘に全く関心を示さず、パーティーに戻った。直後にインド大地震が発生し、屋敷では火災が発生した。

 6ヶ月後、両親をメアリーは他の孤児と共に、船でイギリスに到着した。他の孤児が身内に引き取られていく中、メアリーは夜になるまで迎えが来なかった。ようやくアーチボルド・クレイヴン卿の代役として、メドロック夫人が迎えに来た。
 クレイヴン卿はメアリーと血の繋がらない伯父で、メドロックは屋敷の家政婦頭だった。メアリーの顔を見たメドロックは、「なんて可愛げの無い子かしら。母親は美人だったのに、貴方は全く似ていない」と口にした。

 馬車で屋敷へ向かう途中、メドロックはメアリーに「屋敷は楽しい場所じゃない。伯父様は誰の面倒も見ない。背中に大きなコブがあって劣等感を抱いているし、奥様も亡くなられた」と語った。屋敷に到着したメアリーは、与えられた寝室で眠りに就いた。
 翌朝、メドロックが朝食を運んで来ると、メアリーはアーヤのように服を着替えさせてもらおうとする。メドロックは「ここでは甘やかしません」と自分で着替えるよう要求し、「屋敷を歩き回ってはいけません。伯父様に会うのは期待しないように」と述べた。

 メドロックが去った後、メアリーは部屋を出て屋敷を歩き回った。伯母の部屋に入った彼女は、引き出しの中に鍵を発見した。泣き声を耳にしたメアリーが探し回っていると、メドロックに見つかったメドロックは彼女を叱り付け、部屋に連れ戻した。昼になると、使用人のマーサが昼食を持って来た。メアリーが服の着替えを求めると、マーサは笑顔で応じた。メアリーが偉そうな態度で悪態をついても、彼女は全く怒らなかった。
 夜になるとメドロックが来て、「伯父様は会われません」とメアリーに伝えた。「明日は?」とメアリーが訊くと、彼女は「もういません」と告げた。クレイヴンは10年前に妻のリリアスを亡くし、人間嫌いになって殻に閉じ籠もっていた。

 翌朝、マーサはメアリーに、弟のディコンが興味を持っていることを知らせた。彼女はメアリーを外出着に着替えさせ、庭への道順を説明した。メアリーが庭を散策していると、ツタに囲まれた別の庭への入り口が見つかった。
 メアリーは庭師のベン・ウェザースタッフに、別の庭について尋ねた。するとベンは、リリアスの花園だったが彼女が死んでクレイヴンが閉鎖したことを教えた。彼はコマドリを見ると、「こいつだけは自由に花園を飛び回れる」と口にした。

 メアリーはディコンが覗いているのに気付くが、追い掛けるとポニーで逃げられた。マーサはメアリーに縄跳びを贈り、初めて見る彼女に遊び方を教えた。再び庭を訪れたメアリーはベンと会い、「コマドリがアンタと友達になりたいと言っている」と告げられた。
 メアリーはコマドリの案内で、花園の入り口の扉を見つけた。彼女はリリアスの部屋から鍵を持ち出し、扉の鍵穴に差し込む。メアリーが扉を開けて花園に入ると、ずっと手入れされていないので荒れ放題になっていた。

 メアリーは食事を取っている時、また泣き声を耳にした。傍らにいたマーサは「風ですよ」と言い、メドロックに呼ばれると急いで去った。庭に出たメアリーはディコンと遭遇し、花園のことを話す。「草も木も死んでた」と彼女が告げると、ディコンは調べようと持ち掛けた。
 メアリーは内緒にするよう約束させ、花園に案内した。ディコンは「この庭は死んでない。枝が元気だ」と言い、夏になれば薔薇が一面に咲くだろうと語った。花園にはブランコがあり、ディコンは「伯母様がそこから落ちて死んだ」と述べた。

 メアリーは夜中に泣き声を聞き、部屋を出て探し回った。彼女は秘密の部屋でベッドにいる少年のコリンを発見し、クレイヴンの息子だと知った。メアリーがマーサを呼ぼうとすると、彼は「ダメだ。見つかったら大変だ。すぐ熱が出るから叱られる」と止めた。
 彼はメアリーと同じ10歳で、その部屋で隔離生活を送っていた。コリンは幕で隠されているリリアナの肖像画を見せ、「パパが僕を避けるのは、ママに似てないからだ。でも君は似てる」と話した。

 メアリーが「なぜ絵を隠すの?」と訊くと、コリンは「微笑むからさ。ママが死んで悔しいんだ」と答えた。メアリーが花園のことを話すと、彼は「一度も外に出たことが無い。体が弱くて、一生をベッドで暮らすんだ」と述べた。
 翌朝、メアリーはディコンと花園へ出掛け、コリンと会ったことを話した。夜、メアリーはコリンの部屋へ行き、会話を交わした。彼女はコリンの生意気な態度に腹を立て、部屋を去ろうとする。コリンが「ママの花園を開けよう」と言うと、メアリーは「ダメよ。秘密にしておきたいの」と反対した。

 メドロックとマーサがコリンの部屋に来たので、メアリーは姿を隠した。メドロックはコリンに使う薬草を忘れたので、取りに戻った。マーサはメアリーに気付き、「見つかったら私がクビにされます」と自分の部屋へ戻らせた。翌日、クレイヴンは屋敷に戻り、メアリーは初めて面会できることになった。クレイヴンはメアリーを見て、「目が亡き妻に良く似てる」と驚いた。
 「メドロックは寄宿学校に入れると言ってる」と彼が言うと、メアリーは「お屋敷にいさせて。いい子にするわ」と告げる。クレイヴンは「ここは寂しすぎる。子供には向かない」と話すが、彼女は「でもいいの。お花の種を植えて育てたいから、地面が欲しい」と頼むと、クレイヴンは承諾した。彼はどの土地に種を植えてもいいと許可し、メドロックに「冬まで戻らない」と告げた。

 メアリーはディコンの元へ行き、クレイヴンから許可が出たことを伝えて花の種を撒いた。夜になると彼女はコリンの部屋へ行き、会話を交わした。コリンが「パパは会いに来ない。僕は死ぬんだ」と漏らすと、メアリーは「貴方はワガママなひねくれ者よ。窓も開けられない意気地無し」と厳しい言葉を浴びせた。
 コリンは「僕はひねくれ者じゃない」と反発し、悔しそうにメアリーを睨んだ。メアリーはマーサに、なぜクレイヴンがコリンと会わないのか尋ねた。マーサは彼女に、「情が沸いて辛いからです。屋敷に戻っても、1週間は部屋に引き篭もっている。コリン様は昔から病弱で、旦那様は死なないかと心配してました」と語った。

 クレイヴンはコリンが就寝している間に、こっそり部屋を訪れて顔を眺めた。春になると、彼は逃げるように屋敷を去った。メアリーはディコンに手伝ってもらい、コリンの部屋の窓に打ち付けられていた板を全て外した。メアリーはディコンに誘われ、ポニーの後ろに乗る。
 その様子を窓から見つめたコリンは、泣きながら激しく喚いた。その声を聞き付けたマーサと使用人のジョンは、慌ててコリンを落ち着かせようとする。部屋に戻ったメアリーは「甘やかし過ぎよ」とマーサに言い、コリンを叱り付けた。

 コリンが「パパみたいにコブが出来て死ぬんだ」と言うと、メアリーは彼の背中を調べて「コブなんて無いわ。骨が曲がってるだけよ」と教える。メドロックはジョンに報告を受け、急いでコリンの部屋にやって来た。彼女はマーサに激怒して平手打ちを浴びせ、クビを通告した。
 メドロックがメアリーを追い出そうとすると、コリンが「メアリーに手を出したらクビにするぞ」と怒鳴った。メアリーはコリンに、「病気じゃないわ。体が弱いだけ」と告げた。

 コリンが「外に行けるかな。ママの花園の入り口を探しに行きたいんだ」と言うと、メアリーは花園に入ったことを打ち明けた。コリンは車椅子に乗り、使用人を集めて「外出する。誰も付いて来るな」と命じた。彼はメアリーとディコンに車椅子を押してもらい、花園へ行く。花園はメアリーが撒いた種のおかげで多くの花が咲き乱れ、シカや鳥が暮らしていた。
 ベンは3人に気付き、「勝手に入ると許さんぞ」と怒鳴る。しかしコリンに気付くと驚き、「コブのある子か」と口にした。メアリーが「コブは無いわ」と言うと、彼は「足はどうだ」と尋ねる。コリンは「悪くないぞ」と言い、ディコンに手伝ってもらって立ち上がった。

 コリンはベンに、「僕たちのことは秘密たぞ」と告げる。ベンは「奥様はワシだけに薔薇の手入れを命じられた」と話し、メアリーたちが花園に入ることを承諾した。コリンはメアリーとディコンに協力してもらい、少しずつ歩けるようになった。彼はメアリーに、「パパに見てほしい。滞在先の住所を調べてほしい」と頼む。
 クレイヴンの書斎に入ったメアリーは住所を突き止められなかったが、クレイヴンとリリアスが花園にいる写真があったのでコリンに見せた。コリンはメアリー、ディコン、ベンと共に魔法の儀式を執り行い、クレイヴンを呼ぼうとする。ホテルにいたクレイヴンはリリアスが「花園にいるわ」と呼び掛ける夢を見て、屋敷へ戻ることにした…。

 監督はアニエスカ・ホランド、原作はフランシス・ホジソン・バーネット、脚本はキャロライン・トンプソン、製作はフレッド・フックス&フレッド・ルース&トム・ラディー、製作総指揮はフランシス・フォード・コッポラ、製作協力はキャロライン・トンプソン、撮影はロジャー・ディーキンス、美術はスチュアート・クレイグ、編集はイザベル・ロレント、衣装はマリット・アレン、音楽はズビグニエフ・プレイスネル。

 出演はケイト・メイバリー、ヘイドン・プラウズ、マギー・スミス、アンドリュー・ノット、ジョン・リンチ、ローラ・クロスリー、ウォルター・スパロウ、イレーヌ・ジャコブ、フランク・ベイカー、ヴァレリー・ヒル、アンドレア・ピッカーリング、ピーター・モアトン、アーサー・スプレクリー、コリン・ブルース、パーサン・シン、アイリーン・ペイジ、デヴィッド・ストール、タバサ・アレン他。

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 フランシス・ホジソン・バーネットの同名小説を基にした作品。監督は『僕を愛したふたつの国/ヨーロッパ ヨーロッパ』『オリヴィエ オリヴィエ』のアニエスカ・ホランド。脚本は『アダムス・ファミリー』『奇跡の旅』のキャロライン・トンプソン。
 メアリーをケイト・メイバリー、コリンをヘイドン・プラウズ、メドロックをマギー・スミス、ディコンをアンドリュー・ノット、クレイヴンをジョン・リンチ、マーサをローラ・クロスリーが演じている。

 メアリーは両親の愛を得られずに育ったせいで、素直な感情表現が出来なくなってしまった。悲しくても泣けず、笑顔もなかなか出なくなった。しかし不幸中の幸いで、どうやら「誰からの愛も得られずに育った」というわけではなさそうだ。
 劇中ではナレーションで「面倒を見てくれるは乳母のアーヤ」と触れるだけだが、たぶんアーヤは愛情を注いで育ててくれたのだろう。だから、甘やかされたせいで性格はワガママになったが、素直じゃないだけで、ちゃんと感情のある子供には成長した。

 屋敷に引っ越してきたばかりのメアリーは、誰も知り合いがいない孤独な状態だった。クレイヴン家は親戚だが、そこに住む面々とは一度も会ったことが無かった。おまけに、伯父であるクレイヴンも全く会ってくれない日が続いた。
 そんな中、コマドリという友達が出来ることで、メアリーの日常に変化が訪れる。ママと繋がりのある花園の入り口を、コマドリのおかげで見つけることが出来たからだ。ママの愛情を受けることは出来なかったが、ママの愛を欲するメアリーの気持ちは変わらないのだ。だからメアリーにとって花園は、ママを近くに感じることが出来る大切な場所なのだ。

 メアリーはコマドリだけでなく、ディコンという人間の友達も出来る。さらにコリンとも出会って、孤独からは遠ざかる。彼女の生活は、どんどん豊かになっていく。そしてメアリーは、「花園を生き返らせる」という明確な目標を見出す。クレイヴンの許可を得て、花の種を撒く。
 花園を生き返らせることは、メアリーにとって「ママが遊んだ場所を元に戻す」という意味がある。それだけでなく、「リリアスの花園を復活させる」ということなので、コリンやクレイヴンの沈んだ気持ちを晴らすためにも貢献する。そして花園の復活は、リリアスの死によって暗い空気に包まれていた屋敷ら光を取り戻すことにも繋がる。

 メアリーからすると、コリンは「親の愛が欲しいと願っているのに、それを得られずに寂しい日々を過ごしている」という意味で、自分と重なる部分が多い存在だ。しかし大きな違いがあって、それは「メアリーが両親を愛を得ることは不可能になったが、コリンはパパが存命なので関係を変えることは出来る」ってことだ。
 しかも、クレイヴンはメアリーの両親と違って、決して子供嫌いで我が子を遠ざけているわけではない。一緒にいると辛いから、あえて顔を合わせないようにしているだけなのだ。

 メアリーはマーサに偉そうな態度を取ったり、コリンに厳しい言葉を浴びせたりすることもあるが、根っ子の部分では優しさや思いやりのある子供だ。
 メアリーはコリンに辛く当たったりキツい言葉を浴びせたりすることもあるが、それは助けてあげたいと思ってのことであり、ようするに叱咤激励のつもりなのだ。そして彼女はコリンのために、思い切った行動に出る。コリンに勇気を持ってもらうため、大胆な変化を求めるのだ。

 実際にコリンが重病だったり、外気に触れると体調が悪化したりする可能性もゼロではないので、それを考えるとメアリーの行動を全面的に肯定するわけにもいかない。ただ、原作が発表された当時の医学では、分からないことも多かっただろう。あと、「これは創作なので、コリンが外に出ても大丈夫なことは確定事項」ってことで、そこは大目に見ておこう。
 ともかく、メアリーの大胆な行動により、コリンは「病気で死ぬ」という思い込みから解放され、屋敷の外に出る。それだけでなく、立ったり歩いたりという行動も取るようになる。この辺りは『アルプスの少女ハイジ』と被る部分も少なくないが、それでも感動の種がある展開になっている。

 終盤、コリンはクレイヴンを屋敷に呼ぶため、メアリーたちと魔法の儀式を執り行う。するとホテルにいたクレイヴンは、リリアスが花園で呼んでいる夢を見る。彼は急いでホテルを出発し、屋敷に舞い戻る。
 この展開は、急にファンタジーが入って来て「これは違うなあ」と感じてしまう。クレイヴンが亡き妻の夢を見るシーンは、無くても良かったんじゃないか。彼が急に屋敷へ戻るシーンを描いて、「夢で妻に呼ばれた」とでも言わせる程度で良かったんじゃないかな。

 メアリーは両親の愛を得られなかったせいで、泣き方を忘れている。コリンは病気への不安から、心を閉ざしている。クレイヴンはコリンを愛しているが、それを上手く表現できずにいる。それぞれの事情で、3人は素直な感情表現が出来なくなっている。
 しかし花園が生き返り、そこに集うことで、3人の心は真っ直ぐに通じ合う。コリンとクレイヴンは笑顔で抱き合い、メアリーは涙を流してクレイヴンとも心で通じ合う。リリアスはママと違って、死んだ後も、メアリーに愛の溢れる場所を与えてくれたわけだ。

(観賞日:2023年4月26日)

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