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『巨乳ドラゴン 温泉ゾンビ VS ストリッパー5』:2010、日本

 ストリッパーの丈堂レナは、寂れた田舎町にあるパラダイス伊香川劇場で公演を行っていた。だが、客は少なく、たまに来てもチップをくれないセコい奴ばかり。レナだけでなく、一緒に来ている銀子、マリア、ネネ、ダーナも、やる気を失っていた。
 クールに「この世は全てが舞台」と言う地下アイドルのマリアは、手首に何度もリストカットした跡がある。姐御肌の銀子は、「金さえあれば、こんな最悪な劇場に来なかったのになあ」と漏らした。

 レナは数日前、目を覚ますとホームレス老人のダンボール住処にいた。老人はレナに、「昨夜、酔っぱらって俺のダンボールに入って来たんじゃねえか」と言う。レナは抱き付く老人を振り払い、その場から逃げ出した。レナはメキシコから帰って来たが、ほとんど金を持っていなかった。
 そこへ伊香川観光の社長・万次郎から電話が入り、欠員が出たので出演してほしいという依頼を受けた。万次郎は悪名高いインチキ社長で、前回のギャラも支払われていなかったが、レナは屋根があるからという理由で引き受けた。

 レナはバンで迎えに来た社員の雄大で、パラダイス伊香川劇場へ向かった。その向かいには廃屋があった。雄大によると、先代のオーナーが温泉ホテルを建てようとしたが事業に失敗し、一家心中してしまったらしい。
 劇場でレナが退屈そうにしていると、銀子が「退屈かもしれないけど、刑務所よりはずっとマシなんだよ」と声を掛けた。彼女は「あの子なんか東南アジアから来てるんだよ」と言い、電話を掛けているダーナを指差した。

 雄大が控室へ来て、明日は休館となることを報告した。レナたちは今回のギャラも出ないのではないかと不安になり、掛け合いに行くことにする。翌朝、5人が伊香川観光へ乗り込むと、万次郎は「約束した日当は支払う」と言う。
 しかしマリアは、休館日が多くてギャラが出ないことに不満を述べる。すると万次郎は「皆さん、オフの日は伊香川温泉でバイトされるみたいですよ。紹介しましょうか。産廃業者の営業が入ってるんですよ。お座敷ストリップの営業。チップが一杯貰えると思うんですけどね」と持ち掛けた。

 レナたちが伊香川温泉の旅館へ行くと、女中が露骨に不愉快そうに「困るのよねえ。おピンクさんは裏口から入ってもらわないと」と口にした。仕事の内容はダンサーだけという約束だったが、産廃会社の後藤社長が「下手な踊りはもういい。女相撲大会だ」と言い出す。
 彼は「金ならあるぞ」と告げ、札束を見せびらかした。レナと銀子が相撲を取り、負けた銀子は罰ゲームとして女体盛りになった。

 レナは後藤から夜の相手に誘われ、「アンタみたいなクソ悪趣味な親父と寝るなんて有り得なくねえ」とバカにしたが、酔っぱらって彼とヤッてしまった。翌日、レナはすぐに男と寝ることを銀子から注意され、控室で喧嘩になった。ネネが止めに入り、マリアとダーナが散らかった部屋を片付けた。
 その時、彼女たちは、今までダンボール箱で隠れていた壁に鍵の掛かった扉があることに気付いた。部屋にあった鍵で扉を開けると、地下へ続く階段があった。

 レナが「どうせ夜まで客なんか来やしないって」と言い、4人を引き連れて階段を下りる。地下の通路を進むと、向かいの廃墟に繋がっていた。ある部屋に辿り着くと、「魂の井戸」と書かれた井戸があった。
 様々な物が散乱する部屋で、石の箱に入った札束を見つけたダーナは、みんなに内緒にする。マリアはショーケースに入ったオカルト本のコレクションを見つけて興奮する。その中には16世紀に記されたラテン語の書物「死者の本」もあった。

 マリアが「これがあれば死者を復活させることだって出来る」と言うので、レナは挑発するように「じゃあやってみろよ」と告げた。マリアは本に書いてある呪文を唱えるが、何も起きなかった。レナは「バカバカしい、付き合ってらんねえよ」と呆れ、5人は楽屋へ戻ることにした。
 翌日、炊事当番をしていた銀子とネネは、アジの一夜干しや寿司が生きているように動き出したので怯えた。ダーナは密かに廃墟へ戻り、札束を持ち去ろうとする。だが、そこにゾンビの群れが現れ、食い殺されてしまった。

 銀子とネネは台所の異変を伝えるため控室へ飛び込むが、客が来たランプが点灯したため、ダーナ抜きでステージに出ることにした。だが、レナたちがステージに上がると、客席はゾンビだらけだった。雄大は襲われ、ゾンビはステージに押し寄せる。レナたちは撃退しようとするが、ネネが足を噛まれる。
 レナたちはネネを連れ、控室へ退散する。その間にも、魂の井戸から次々にゾンビが這い出してきた。劇場の外にもゾンビは出現し、旅館の女中も襲われた。それだけでなく、全国各地でゾンビによる暴動が起きていた。

 ネネの傷口を見たレナに、マリアは「もう手遅れよ。リビング・デッドに噛まれた物はリビング・デッドになる」と冷たく告げる。彼女は扉に飛び込み、中から鍵を掛けて自分だけ助かろうとする。
 レナと銀子はネネを連れてバンに乗り込み、劇場から脱出した。廃墟に戻ったマリアは、ゾンビの群れに襲われた。しかしマリアが死者の本に書かれている呪文を唱えると、ゾンビは彼女の指示に従った。

 バンがエンコして立ち往生したレナたちは、富士山が噴火している様子を目撃した。銀子はレナに「ゾンビの中に1人、見覚えがある奴がいた。私を襲った片目のゾンビを知ってんだよ」と言う。それは彼女の妹・サチコを殺し、心神喪失で法の裁きを受けなかった男だった。
 しかし、銀子は伊香川から遠く離れた場所で、その男を殺したはずだという。彼を殺した罪で、銀子は刑務所に入っていたのだ。

 レナと銀子は高熱を出したネネを手当てするため、温泉旅館へ向かった。2人はゾンビ化した産廃業者の面々をチェーンソーと日本刀で始末した。ネネは自分がゾンビに変身することを確信し、「私のこと、殺してくんないかな」と言う。
 レナたちが困惑していると、ネネは完全にゾンビへと変身してしまう。ネネが股間から炎を放射してきたので、慌てて銀子が眉間を撃ち抜いた。するとネネは「魂の井戸を塞いで」と言い残して死亡した…。

 監督・脚本は中野貴雄、原作は三家本礼『巨乳ドラゴン』(ぶんか社)、製作は矢羽田昭彦&及川次雄、企画は塩月隆史、プロデューサーは三波聖治&西山秀明、撮影は吉沢和晃、特殊メイクは藤原慎二、VFXは鹿角剛司、照明は高田賢、美術は佐々木健一、録音は田代浩由紀、ビジュアルデザインは高橋ヨシキ、ゾンビメイクコーディネーターは黒沢寛。

 出演は蒼井そら、かすみりさ、桜井まり(吉永まり)、TAMAYO、相川イオ、鳥肌実、吉行由実、辻本一樹、草野イニ、マメ山田、飯島大介、漆崎敬介、安堂サオリ、いか八朗、大野かなこ、飯島大介、たけC。、柿澤隆史、岩倉健伸、木村孝蔵、リカヤ・スプナー、魔王、麻草郁、若林美保、御崎真実、ピコピコ、☆ナオ~ミん☆、春咲小紅、田中清一、柴田茂一、稲留正樹、酒井博史、猪原伸浩、金城寿美枝、ジャージー真輝糸洲、備前浩利、松林定志、西村雅樹、佐藤真紀、福澤香織、山内光希、浅井優、筧十蔵、深水央、長谷川清久、中牟田秀人、加藤京一ら。

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 三家本礼の漫画『巨乳ドラゴン』を基にした作品。原作は未読だが、内容も登場キャラクターも大幅に変更されているようだ。
 レナをAV女優の蒼井そら、銀子をAV女優のかすみりさ、マリアをグラビアアイドルの桜井まり(吉永まり)、ネネを元ストリッパーでバーレスクダンサーのTAMAYO、ダーナをモデルでタレントの相川イオ、青鬼魔王をお笑い芸人の鳥肌実、旅館の女中を吉行由実、万次郎を辻本一樹、雄大を草野イニ、後藤社長をマメ山田が演じている。

 何だろう、ちょっと自分でも驚いたんだけど、なんか意外に面白く見れちゃったんだよね。どうせ中野TKO監督の映画だから、何の見所も無いZ級映画、見る価値の無いクズ映画だろうとタカを括っていたのよ。だけど、いい意味で裏切られた。
 そりゃあ劇場で見る価値があるのかと問われたら「ノー」と即答するけど、ローカルテレビ局の深夜枠で放送されたドラマだと考えれば、それなりに楽しめるよ。まあ実際にはローカルの深夜ドラマじゃなくて曲がりなりにも劇場公開作品なんだけど、実質的にはVシネマだし、そう悪くないんじゃないかと。
 ワシは、かなり辛口の批評をする人間だと自覚しているけど、この映画は好きよ。

 女優の演技が取り立てて優れているわけでもなければ、シナリオの質が特に高いわけでもない。カメラワークや映像表現が斬新というわけでもないし、何が際立ったモノがあるのかと言われたら、何も見当たらない。レナがメキシコ帰りという設定に意味は無いし、CGによる血ノリはチープだ。
 温泉旅館の営業シーンなんて完全に道草を食っちゃってるし、ゾンビが出て来るまでの持って行き方は上手くない。何か恐ろしいことが起きるぞという予兆の表現も薄い。ユルい日常と並行して、レナたちが知らないところでゾンビが出現しているという描写でもあればともかく、そういうのは無いしね。

 万次郎はレナたちがギャラのことで乗り込む直前、どこかに電話を掛けて「ちゃんと埋めたんですか、3人とも。例のあの井戸もコンクリか何かで処理しないとマズいでしょ」と話しているが、それが伏線として全く機能していない。
 どうやら万次郎はゾンビのことを知っていたみたいだけど、どのぐらい関与していたのか、どういう形で関わっていたのかは最後まで分からない。それはダメでしょ。

 サチコを殺した犯人やサチコがゾンビとなって現れるのも変だし、マリアがゾンビのボスになって敵側に回るのも「そりゃ筋書きとして違うだろ」と思う。
 あんだけ大勢の犠牲者を出しておいて、最後が「実はゾンビたちは等活地獄から漏れ出した死者で、そこの責任者が魂の井戸からヌボーッと現れて詫びを入れ、マリアを死者と間違えて連行する」という脱力系のオチってのもどうかと思う。

 こうやって列挙していくと、どう考えてもダメな映画なのだ。っていうか、まあダメな映画なんだよな、普通に考えれば。
 にも関わらず、なぜ楽しめたのかと考えた時に、たぶん「深夜ドラマだからこそ許されるユルさ」を感じたからじゃないかと。深夜ドラマじゃないんだけど、深夜ドラマのように思えて、この映画に漂っているユルいノリに面白味を感じたんじゃないかと。
 でもテレビじゃ出来ないぐらいのエロ描写はあるし、そう考えると悪くないんじゃないかと。

 あと、おバカ路線を狙った低予算映画にありがちな「キャラの行動がデタラメ」とか、「意味ありげな設定を途中で投げ出してしまう」とか、「シーンとシーンの繋がりが悪い」とか「話が行き当たりバッタリ」とか、「伏線の無い唐突な展開が用意されている」とか、その手の不満が意外と少なかったんだよね。
 キャラの行動に違和感が無くて、ストーリーの進行は思ったよりスムーズだった。だからストレスを感じずに見ていられて、それが「悪くないな」という評価になったんじゃないかな。「ドラゴン」感は全く無いけどね。

(観賞日:2011年12月29日)

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