見出し画像

『ガン・ホー』:1986、アメリカ

 アメリカの田舎町ハドレーヴィルにある自動車工場が閉鎖されたため、ハント・スティーヴンソンは日本の自動車メーカーであるアッサン自動車の工場誘致を計画する。ハントは元同僚や住民の期待を一身に背負い、緊張と不安を抱えながら日本へ向かった。
 日本に到着したハントは会社へ行こうとするが、言葉が分からないので苦労する。アッサン自動車の道場に迷い込んだ後、ようやく彼は本社ビルに辿り着いた。ハントが会議室に入ると、社長のサカモトと重役たちは険しい表情で迎えた。

 サカモトは「英語は全員が理解できる」と言い、プレゼンを始めるよう促した。ハントはジョークも交えつつ説明するが、誰も笑わない。ハントはサカモトたちに、何とか町を立ち直らせたいので来てほしいと訴えた。彼は質問を受け付けるが、誰も反応しなかった。
 誘致の失敗を確信したハントは、すっかり落ち込んで帰国した。恋人のオードリーが出迎えに来ており、ハントは彼女の車に乗り込んだ。ピザ屋も廃業に追い込まれたこと、来週には理髪店とレコード店も閉まることを、オードリーはハントに教えた。

 オードリーから日本での成果を問われたハントは、失敗に終わったことを明かした。ハントは別の町にいる元上司や知人に電話を掛け、仕事を斡旋してもらおうとするが、快い返事は得られなかった。彼は友人のバスターやウィリーたちから、「ベストを尽くした」と慰められる。
 しかしハントは友人のジュニアから、アッサンの社員たちが町へ来ることを知らされる。住民は楽団を用意するなどして、空港に到着するアッサンの社員と家族たちを大歓迎した。市長のズワートは一行に挨拶し、工場長のカズヒロを壇上に案内する。カズヒロは住民たちに、ハントの勧誘で町へ来たことを話した。

 ハントは工場へ行き、カズヒロと挨拶を交わす。ハントは日本へ行った時、管理職の訓練を受けているカズヒロの姿を目撃していた。その際、カズヒロは教官から厳しく説教され、口から泡を吹いていた。
 カズヒロはハントに労使間の調停係という仕事を与え、地元の社員たちに従業員規定を徹底させるよう求めた。「役職に就くのだから給料は上がるが、それなりの仕事はしてほしい」と言われ、ハントは軽い調子で承諾した。カズヒロや幹部のサイトーたちは、まだ工場の再開が決定していないことをハントに明かした。

 自動車工場の元社員たちは集会に参加し、雇用条件の検討を訴える。しかし全米自動車労働組合から派遣されたクランドルは、「雇用契約を結ばないと組合から除名される」と忠告する。
 以前より賃金が下がることに納得できない面々も多い中、ハントは壇上でのコメントを求められる。ハントは高校バスケの試合を例に挙げ、「まずは相手の動きを見て、それからこっちが動くんだ」と告げた。彼が自信のある態度を示したので、労働者たちは賛同した。

 就業初日、カズヒロは集まった地元の労働者たちに対し、チーム意識を持って「会社第一」の考えを徹底するよう求めた。日本人社員が朝の体操を始めるよう促すと、地元の面々はバカにして笑うだけだった。
 カズヒロはハントに、「最初からこれでは困る。君はリーダーのはずだよ」と告げる。ハントは「しばらくすれば無くなるさ」と仲間たちを説得し、体操に参加させた。しかし誰も真面目に取り組まない様子を見て、カズヒロは顔をしかめた。

 日本人幹部のサイトーたちは、音楽を掛けたり煙草を吸ったりしながら仕事をすることを禁じた。仕事のやり方を注意されたバスターは腹を立て、「俺達には俺たちのやり方がある」と反発する。
 これまでの工場では「欠陥があっても販売店が尻拭いする」ということが当前だったが、アッサンの幹部たちは「欠陥は恥だ。徹夜してでも欠陥ゼロを目指す」と述べた。これまでと違って厳しい規定を要求されることに、現地の従業員たちは不満を募らせた。

 ウィリーは子供が扁桃腺の手術をするために早退しようとするが、減給になると通達される。ハントは同僚たちの陳情を受け、カズヒロのオフィスへ赴いた。彼は「たかが車で深刻になることはない」と言い、欠陥ゼロを目指す考えを変えるよう求めた。
 カズヒロが「言いたいことは分かる」と口にしたので、ハントは「これで一件落着だ」と喜んだ。「サイトーは従業員の受けが良くない。クビにすべきだ」と彼が言うと、カズヒロは「彼は日本でも特別だが、社長の甥だ」と述べた。

 カズヒロたちが野球をすると知ったハントは、土曜にソフトボールの練習試合をやろうと提案した。地元従業員のグーギーやポールたちは馬鹿にしていたが、試合が始まると苦戦を強いられる。
 9回裏2アウトまでリードを許した地元チームはランナーを出すものの、ハントがフライを打ち上げる。しかしフライを取ろうとしたサイトーにランナーのバスターが体当たりして落球させ、地元チームは勝利を収めた。ハントは勝利を喜べず、軽蔑するようなカズヒロの表情を見つめた。

 カズヒロは仕事優先で家庭を二の次にしているため、妻に責められる。サカモトからの電話を受けたカズヒロは生産効率を上げることが出来ていないことを謝罪し、来月こそは何とかすると告げた。サイトーはバスターに配置換えを通達し、床掃除の仕事を命じた。
 ハントが「試合の腹いせか」と言うと、サイトーは「手抜き作業が目に余るからだ」と告げた。ハントは激怒して工場を辞めようとするバスターを説き伏せ、「工場長から週末の食事に招待されてる。その時に話してみる」と述べた。

 ハントはオードリーを伴い、食事会に出席した。カズヒロから「工場の状況をどう思う?」と問われたハントは、「ここはアメリカで日本じゃない。アンタたちは凄腕だと聞いていたが、そういう印象は残念ながら受けない」と高飛車な態度で語る。
 するとカズヒロは「君はクビだ。組み立て作業に戻れ」と通達した。「なぜだ」とハントが言うと、彼は「アメリカ人を理解できない。平気で遅刻や早退、すぐに病欠。会社より自分だ。君もその一人だ」と告げた。

 ハントが「アメリカの会社が経営していた頃は、今より10パーセントも生産量が多かった」と言うと、カズヒロは「日本なら40パーセントは増やせる。日本の労働者は会社に忠誠心と誇りを抱き、生産が落ち込めば残業もいとわない。会社のためなら無償で働く」と語った。
 「アメリカの工場で、そんなことは通用しない」とオードリーが言うと、カズヒロはハントに「君もそう思うのか」と問い掛ける。ハントが「僕に任せてくれ。みんなを説得して、上手くまとめてみせる」と言うので、カズヒロはクビを撤回した。

 後日、ハントはカズヒロやサイトーたちに「必要なのは労働私欲の向上プログラムだ」と言い、日本での月産台数記録である1万5千台を達成すれば以前と同じ給料を支払って正社員の雇用契約を結んでほしいと持ち掛けた。
 カズヒロは「一台でも足りなければ昇給は無しだ」と確認した上で、その取り引きを承認した。ハントは労働組合の集会に出席し、取り引きの内容について話す。しかし今までの月産台数は1万3千台だったため、従業員たちは「そんなのは無理だ」と言い出す。

 「目標以下でも昇給はあるんだろ」と問われたハントは、つい「そうだ」と答えてしまう。何とか目標を達成させようとするハントだが、仲間たちは「5割の昇給でも充分だ」という考えだった。
 オードリーが主任を務めるスーパーへ出掛けたハントは、バスターがカズヒロの妻に嫌がらせをしている現場を目撃した。ハントが注意するとバスターは腹を立てて掴み掛かり、2人は喧嘩になった。ハントはバスターを殴り倒し、「悪かった」と告げて立ち去った。

 カズヒロはハントから「バスターをクビにしないでくれ」と頼まれ、「クビにはしないよ。君の友人だ」と告げる。「僕にも日本には友人がいる」というカズヒロの言葉を聞いたハントは、彼を誘って飲みに出掛けた。悪酔いしたカズヒロは、「次に失敗したら僕はクビだ」と漏らした。
 翌日、機械が故障したのに修理係を呼ばず自分で直そうとしたグーギーが、腕を挟まれて怪我を負う。ハントはバスターたちから、「お前が働かせさせるからだ」と批判された。

 サイトーが従業員たちに「仕事に戻れ」と命じているとカズヒロは彼を突き飛ばし、「君も怪我をしたいのか」と怒鳴った。バスターたちは日本人幹部のイトーとの会話で、1万5千台以下なら昇給は無いことを知る。
 事実を知ったバスターたちからの電話で「今から行く」と言われたハントは、慌てて逃げ出そうとする。バスターたちに捕まった彼は「奴らに騙されたんだろ」と言われ、つい同調してしまう。地元従業員たちはストライキに突入し、視察に来たサカモトはハドレーヴィルからの撤退を決定した…。

 監督はロン・ハワード、原案はエドウィン・ブルム&ローウェル・ガンツ&ババルー・マンデル、脚本はローウェル・ガンツ&ババルー・マンデル、製作はトニー・ガンツ&デボラ・ブルム、製作総指揮はロン・ハワード、撮影はドン・ピーターマン、美術はジェームズ・ショッペ、編集はダニエル・ハンリー&マイケル・ヒル、衣装はベッツィー・コックス、音楽はトーマス・ニューマン。

 主演はマイケル・キートン、共演はゲディー・ワタナベ、ジョージ・ウェント、ミミ・ロジャース、ジョン・タートゥーロ、山村聡、サブ・シモノ、リック・オーヴァートン、クリント・ハワード、ジミー・ケネディー、ミシェル・ジョンソン、ロドニー・カゲヤマ、ランス・ハワード、パティー・ヤスタケ、ジェリー・トンド、デニス・サカモト、スタンフォード・エギ、マーティン・フェレーロ、ジェームズ・リッツ、ドック・P・エリスJr.、リチャード・M・マクナリー、ジーン・スピーグル、トーマス・イケダ他。

―――――――――

 『スプラッシュ』『コクーン』のロン・ハワードが監督を務めた作品。脚本は『ラブ IN ニューヨーク』『スプラッシュ』のローウェル・ガンツ&ババルー・マンデル。『ガン・ホー/突撃!ニッポン株式会社』というタイトルでテレビ放映されたこともある。
 ハントをマイケル・キートン、タカハラをゲディー・ワタナベ、バスターをジョージ・ウェント、オードリーをミミ・ロジャース、ウィリーをジョン・タートゥーロが演じている。
 日本人を演じているのは日系人ばかりで、日本人俳優はサカモト役の山村聡だけ。そのため、日本人を演じる面々の喋る日本語は、かなり稚拙なことになっている。

 この映画が公開された当時、アメリカでは日本車の人気が高く、自動車産業は苦戦を強いられていた。それ以外の分野でも対日貿易への不満が高まり、ジャパン・バッシングが起きていた。アメリカの自動車メーカーに勤務する人間が、日本車を燃やして抗議するような出来事も発生していた。
 そんな時期に作られた映画ではあるが、「日本や日本人をコケにして、アメリカの観客にカタルシスを与えよう」という内容ではない。むしろ、「日本を叩くだけでなく、見習うべき点は見習おう」というメッセージを感じさせる映画である。

 劇中における日本や日本人の描写は、かなりトンデモ度数が高い状態になっている。ただし、これは意図的に「ヘンテコな日本」を誇張して描いているのだろう。コメディー映画なので、笑いを生み出すための仕掛けとして、そういう「デタラメな日本」を描いているのだ。
 だから、そこを生真面目に「日本がバカにされている」と憤慨すべきではない。国辱映画ではなく、あくまでも「ネタとしての誇張」として受け入れるべきだ。さすがに、これを甘受できないぐらい人間は、コメディー映画を見ない方がいい。それは「器が広いか狭いか」ということじゃなくて、それ以前の問題だ。

 冒頭、日本人の社員たちが道場に整列し、「協調」「セールス向上」「実行力」「清書」などと書かれた札をワイシャツに貼り付け、大声で叫ぶ。ハントの様子が写った後、再び道場に切り替わると、今度は正座している。
 教官たちは説教し、社員は坐禅する僧侶のように警策で肩を叩かれる。1つ目のシーンは社員、2つ目のシーン教官が何かを喋っているが、日本語の発音がデタラメなので、ほぼ何を言っているのか聞き取れない。

 ハントが日本に来ると、彼がカプセルホテルに宿泊したり、食堂の食品サンプルを見たり、通過する新幹線を停めようとしたりする様子が描かれる。その辺りは普通に「異国から来た物が初めて体験するフシギな日本」の光景だが、札を付けながら街をランニングする社員たちの様子も挿入されており、相変わらずヘンテコな描写は続いている。
 ちなみに謎の札は、マイナス点のリボンという設定らしい。つまり、そこに書かれていることが上手く出来ないから、改善のために道場へ放り込まれているってことだ。しかし「協調」とか「セールス向上」はともかく、「清書」のマイナスってのは、どういうことなのかね。

 「アッサン」の漢字表記は「圧惨」で、アッサン自動車が製造しているのはフィアットの車。そんなアッサンの社員と家族たちは空港でレッドカーペットの歓迎を受けると、靴を脱いで歩き始める。するとズワートも彼らに合わせ、慌てて靴を脱ぐ。
 代表の社員はハントに「タカハラ・カズヒロです」と挨拶するが、クロージング・クレジットでは「Oishi Kazihiro」と表記されている。彼が挨拶した途端、他の社員たちが一斉に名刺を差し出す。

 工場の仕事が始まると、日本人社員たちは朝の体操を一緒にやったり、寒中水泳をやったり、カップ麺を慌ただしく食べたりする。そんな様子を見たアメリカ人たちは、バカにした様子で笑う。
 簡単に遅刻や早退や欠勤を繰り返し、仕事の遅れも全く気にしない。仕事中に音楽を聴いたり、煙草を吸ったり、新聞を読んだりすることは禁じられる(これに関しては当たり前だと思うんだけど、アメリカ人だと違うってことなんだろう)。

 様々なところで、個人主義&自由主義のアメリカ人と、会社への帰属意識が強く勤勉な日本人の間で、大きな意識の差が生じる。そこは長い歴史で培われてきた部分なので、なかなか意識改革というのは難しい。
 そもそも、互いに譲歩する気が無いのだから、当然のことながら対立や反目が起きる。アメリカ人からすると「俺たちのやり方は間違っていない」というプライドがあるし、日本人側からすると「お前らの頼みで来てやったんだぞ」という気持ちがあるので、そう簡単には仲良く出来ない。

 アメリカ映画なので日本人はアウェーなのだが、これは「アメリカ万歳」「アメリカこそ正義」という映画ではない。だから、そこから「アメリカ人の考え方が正しいと立証され、日本人が折れる」とか、「日本人の卑劣な行為に対してアメリカ人が一致団結する」とか、そういう展開に移行することは無い。
 「全面的にアメリカ人が勝利して日本人をヘコませる」というわけではないので、アメリカでの受けはどうだったのか気になるけど、少なくとも日本人が見て不愉快になるようなことは無いはずだ。

 最初は日本人のやり方を馬鹿にしていた地元の従業員たちが、終盤に入ると自分たちの行動を変化させる。ただし、一方的に「アメリカ人の間違っている部分」「日本人の優れた部分」を描いているわけではなく、カズヒロがワーカホリックで全く家庭を顧みないという様子も描いている。
 つまり、「アメリカ人はテキトーに仕事をしているけど、日本人は働き過ぎる」という風に、両方のマイナスを示しているわけだ。そうやってバランスを取ることで、「だからアメリカ人も日本人も、互いに見習うべき点はあるし、相手の良い部分は積極的に取り入れようよ」ってことになるわけだ。

 それまで「俺たちのやり方は正しい」「日本人のやり方なんてクソ食らえ」と反発ばかりしていた地元従業員たちは、終盤になって「残業してでもノルマを達成する」という行動に出る。必死になって働くわけだ。ただし、これは「日本人的な仕事のやり方を取り入れた」ということではない。
 「ハントとカズヒロが町を救うために頑張っている様子を見て心を打たれ、自分たちも加わる」というのは、人種とは無関係に、誰もが共感できる行動だ。そこには日本人幹部たちも加わり、みんなで協力して車を作る。台数は足りないが、サカモトは熱意を汲んで工場の撤回を中止する。最後は地元従業員も一緒に体操する様子で終わる。お世辞にも手放しで傑作とは呼べないが、見終わった時の印象は悪くない。

(観賞日:2015年12月20日)

この記事が参加している募集

#映画感想文

67,412件

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?