【365日のわたしたち。】 2022年2月19日(土)
となりで騒ぐ小学生とその親がうるさい。
スタバで宿題をやらせるって発想、ちょっとおかしくないか?
やっと空いてる席を見つけたと思ったら、この席が空いていた理由がすぐに察せられた。
「だからぁ、30個のみかんを3日続けてもらったら、全部でいくつになるのってことじゃん、どういう式になるの!?」
「30個+3+3+3+、あ、途中でおばあちゃんが1個食べちゃったかも。そしたら減っちゃうね〜、わからないね〜。でへへ」
「ふざけてると、お母さん本当に怒るよ」
「やだよ〜ん」
「あんた、いいかげんに...」
ノイズキャンセリング機能付きのイヤホンを耳に突っ込む直前。
「いいかげんに...」、そこまでは聞き取れた。
私の世界が帰ってきた。
横のお母さんの叫び声も、
窓際の女の人が木琴ばりに打ち鳴らすキーボードのタイプ音も、
女子高生の超音波声も、
全てが無に帰した。
感じるのは、手に持った紙コップの内側からじんわりと染み出る、コーヒーの暖かさだけ。
目を閉じて、その熱をより一層深く噛み締める。
まぶたから涙が染み出しそうになる。
あの部長の言葉も、
金曜日の19時14分に届いたあの業務依頼メールも、
全部、こんな風に無に帰すことができればいいのに。
でもそのうち、
このスタバも閉店時間になって、
私はこのイヤホンを外して
また外の世界と強制的に繋がらせられて
手に持ったコーヒーはとうに冷めていて
どうしようもなく虚しくて
この染み出た涙も、この乾燥した空気にそのまま蒸発して消えていくんだろう。
パッと目を開くと、
目の前に、あの小学生の顔があった。
「○○○○○○○○○○○○!」
その少年の口元が何かを発したけど、イヤホンの性能に負けて聞き取れなかった。
聞き直そうと、急いでイヤホンを外すが、
「ほら!早く行くよ!」
呼ばれた少年は、私の方を振り返りもせずに、母親のいる方へ駆け出していった。
イヤホンを外す格好のまま固まった私は、呆然と親子が降りていった階段の方を見つめた。
なんだよ、なんて言ったの。
気になるじゃんか。
手に持った紙カップのコーヒーは、
まだほんのり暖かかった。
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