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2.参謀役が果たすべき3つの役割

こんにちは。

引き続き企業における参謀 = 経営企画職について、そもそも何が使命なのか、どのような観点を持つべきか、有すべき資質は何か・・・などなどを戦略参謀の仕事をベースに考えていきます。

前回の記事はコチラ

「トップの代理として経営や事業の意思決定の精度を向上させつつ、現場も含めた組織全体の業務精度やスピードも向上させること」が戦略参謀の仕事です。決して「後ろのほうで計画を立てて、それを丸投げする」ではありません。

では、具体的に戦略参謀はどのような役割を果たすべきなのでしょうか。

1.トップの意思決定精度を上げるための、事業方針に関する現状分析と起案

まず一つ目に稲田さんが掲げているのは、「現状分析と起案」です。

参謀は、過去や現状について上手な「見える化」を進め、ことの因果を解きほぐし、取るべき方向性を検討できる状態をつくります。そして必要に応じて、全社や事業の方針の企画、戦略の立案などを行います。
これを行うために参謀役は、分析や「見える化」の技術や作法、そして社内外のスタッフに的確に指示できる知識や能力を、必要最低限のレベルは習得しておく必要があります。

この現状分析と起案に必要な力をある程度のレベルで身に着けることができたという意味で、ぼくは「コンサルティングファームに勤めていてよかった」と思うことがちょくちょくあります。

実は、ぼくはあまりビジュアライズは得意ではない(文章のほうが得意)なのですが、コンサルティングファーム時代にはそうもいってられず、資料作成のお作法やフレームを一定レベルまで叩き込む必要がありました。そのスキルは経営企画として働いているときも非常に重宝します。意外と「見やすい資料をシンプルに作る」「多種多様なデータから意味合いを抽出してアクションに繋げる」というのを一定以上のレベルでするのはハードルが高く、これをスムーズにできるとわかりやすい現状分析とアクション提案に繋がります。

もし身勝手なエリート意識が鎌首をもたげ「現場のレベルや意識が低く、ちゃんと実行しないのが問題だ」などと言い始めようものならば、現場とのかい離は止まらなくなります。そういう参謀組織を「頭」に戴いた事業では、市場視点でとらえれば理不尽な意思決定がまかり通り始め、やがて組織の機能不全が始まります。

これは本当に怖く、かつよく起こりうる現象です。経営企画として立案した計画がうまく実行に落とせないことは正直よくあるのですが、そこで原因をどこに求めるか。もし「現場の実行力がない」と考えてしまうと、経営企画側での改善はそこで止まりますし、そのように現場メンバーを下に見ていることは想像以上にすぐ伝わります。「自分は正しい」「現場が使えない」というコミュニケーションを取っている人は、残念ながら成果を出すことはほぼ不可能ではないかと感じます。

一方、「現場が全て」というお題目でちょいちょい現場には足を運んでヒアリング等を実施するだけ、というのもまた違います。もちろん現場の声を収集するのは大事ですが、ヒアリングだけでその後のアクションや成果が全くないと、「なんだこいつ、見かけだけか」と思われてしまい、結局信頼を失います。

個人的には、経営企画職こそ現場仕事をやるべきと考えています。ホテル事業であれば、実際にお客様である施設のオーナー様や支配人様と直接お話しをして、課題の抽出や打ち手の実施、さらにその打ち手で実際に収益改善につなげることができたのか、それらを自らの手を動かして実施していくことで、本当の意味での「現場感」を養えるのではないでしょうか。ぼくもまだまだ足りていないので、もっと腰を据えてやらねば・・・

すべてのプラニングの起点は、ロジックを論じる前段階の、五感も含めて得られる事業の肌感覚であり、その上でプランナーの頭の中に描かれるイメージなのです。たとえば、あなたの会社が製造業ならば「製造現場に立つ」「営業マンに同行して顧客に直接会う」。小売業であれば「週末だけでも実際に売り場に立つ」など、データや報告書に言語で書かれている以外の情報を常に自身の五感で理解していることが、将来的に経営層入りを期待される「参謀」の仕事の精度を上げ、結果の成否を分ける大きなポイントになるのです。

2.社内の「神経系統」づくり

2つ目は「社内の『神経系統』づくり」です。

市場や社内の実態についての情報が経営層にまで適切に共有されると共に、経営の意思を各部署に展開するための指示・報告系統が正しく機能し、さらに各部署が自律的に判断して動ける状態をつくり上げる仕事です。一般的に、年度の事業方針、部門方針のとりまとめは経営企画や経営管理室が行います。しかし、単に計画をとりまとめて数字の整合性をとるだけではなく、各マネジャーが自身の組織内でPDCAを健全に廻させ、組織が挑戦を通じて、言語化された「学び」を続けている状態をつくらねばなりません。

社内の神経系統が繋がっていないと、マジで何もうまくいきません。現場はお客様からの要望やクレームに応えるのに必死、経営層は悪化するPLを見て首を捻りつつ、適当なアイディアベースの「施策モドキ」を現場に押し付ける・・・そういう組織全体が疲弊する状況に陥ってしまいます。そうなる理由はいろいろです。そもそものプロダクトに問題がある場合も、経営陣の力量に問題がある場合も、市場環境がキツ過ぎる場合も、それらすべての要素が絡み合っている場合もあります。

参謀役としては、その状況を看過することなく、「神経系統は繋がっているか」「繋がっていないとすると、どこで断絶が起きているか」「その断絶が起きている理由は何か」「それはどうすれば修復できるか」というのを常日頃から考え続け、アクションを取り続ける必要がありますね。

生物がアメーバのような原生動物から、プランクトンのようなシンプルな生物、そして哺乳類、人間、と高度な有機体に進化していくためには、よりレベルの高い「神経系統」が発達していかねばなりません。社内の情報が、求められる精度で的確に伝達され、各部門長レベルでの自律的な判断、そして上下への翻訳が適切になされる状態を、全社視点を持つものが意思をもって進化させていく必要があるのです。

3.課題の優先順位付けと課題プロジェクトへの対応

3つ目は「課題の優先順位付けと課題プロジェクトへの対応」です。

企業には、大事故につながる品質問題など、予期していなかった突発的な出来事への対処が必要になることがあり、そこではトップと同じ目線を持ったものによる対応が必要になります。それ以外にも、人事制度の企画やマーチャンダイジングの分析や管理など、本来、求められる業務精度を実現するための新しい情報システムの構築や導入、大型投資案件や企業買収、物流体制の整備、効率化など、様々な経営課題への対応が必要になります。

優先順位付けと実行ももちろん大事なのですが、その前座としての課題の洗い出しが非常に重要だなと感じます。課題をキチンとした粒度に分けて記載し、その解決にかかるリソースと解決した際のポジティブインパクトはどのぐらいか、それらをしっかりと理解することで、優先順位付けができるようになるのかなと。

課題がすべて記載されているリストなしに手当たり次第にやるというのもアリっちゃアリですが、早い段階である程度ロジカルに課題を収集できる仕組みを作ることも重要かなと思います。

また、その優先順位付けを行ったうえで、優先順位が高く、かつ自分のスキルともフィット感がある課題については、事業部門と一緒に自身も入り込んで改善をしていくことがおすすめです。「これらの課題があり、優先順位を付けた」「あとはしっかりやってくれ」というコミュニケーションだと、どうしても事業部門との一体感は出ません。有り体に言うと、「あいつはいつも口だけだな」と思われてしまうわけです。

そうではなく、いくつかのプロジェクトに関しては自らも入り込み、可能であればプロジェクトリードとして改革を主導していく。そうすることで、多くの事業メンバーとの仲間意識が醸成され、他のプロジェクトもスムーズに進みやすくなります。

次回の記事:思い込みを排し、「議論の空中戦」を地上戦に引きずりおろす

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