マガジンのカバー画像

毒書地獄

19
運営しているクリエイター

#書評

【読書】上久保敏『下村治 「日本経済学」の実践者』ー ”特異点"としての下村治

【読書】上久保敏『下村治 「日本経済学」の実践者』ー ”特異点"としての下村治

本書は「評伝・日本の経済思想」(日本経済評論社)の一冊として出版された下村治に関する評伝である。沢木耕太郎『危機の宰相』など下村に関する評伝は何冊かあるが、本書は下村治が作り上げた理論そのものに焦点を当てているのが特色だ。下村の著作はほとんどが絶版なので、下村の理論を知るには貴重な評伝であると言える。

大蔵官僚としての下村治下村は1934年に東京帝国大学を卒業して、その年に大蔵省に入省。1948

もっとみる
武田徹の新書時評|新型も全くの“未知”ではない

武田徹の新書時評|新型も全くの“未知”ではない

評論家・専修大学教授の武田徹さんが、オススメの新書3冊を紹介します。

横浜港で検疫中だったクルーズ船ダイヤモンド・プリンセス号に乗り込み、感染対策が不十分なため船内が巨大なウイルス培養器になっていると動画サイトで告発した――。世界中に衝撃を与えた感染症専門医・岩田健太郎がかつて書いた『「感染症パニック」を防げ!』(光文社新書)が緊急増刷されている。

すっかり時の人となった著者ゆえに新型コロナウ

もっとみる
武田徹の新書時評|「自粛生活」を楽しむ方法

武田徹の新書時評|「自粛生活」を楽しむ方法

評論家・専修大学教授の武田徹さんが、オススメの新書3冊を紹介します。

山下泰平『簡易生活のすすめ』(朝日新書)によると明治から大正、昭和初期までに書かれた小説やエッセーには「簡易生活」なる語がしばしば登場するという。ただ「簡易」な「生活」を指すのではない。幸田露伴のような著名人を含む多くの人々がそれを理想の生活法と考え、徳富蘇峰が経営する民友社によって雑誌『簡易生活』も刊行されていた。

簡易生

もっとみる
武田徹の新書時評|コロナ後の航空業界を考える

武田徹の新書時評|コロナ後の航空業界を考える

評論家・専修大学教授の武田徹さんが、オススメの新書3冊を紹介します。

新型コロナウイルスの感染拡大は経済に悪影響を及ぼしているが、中でも深刻なのが航空業界だ。各国で移動が制限された結果、世界各地で運航された航空便は4月上旬時点で昨年比約8割減。当然、巨額の収益減が予想される。

今後、航空業界はどうなってゆくのか。未来を占うにはその実態を知る必要がある。渋武容(しぶたけひろし)『日本の航空産業』

もっとみる
武田徹の新書時評|没後100年 新しいヴェーバー像

武田徹の新書時評|没後100年 新しいヴェーバー像

評論家・専修大学教授の武田徹さんが、オススメの新書3冊を紹介します。

表記の違い以外に同名の新書が同時に出版される。それは過去に例があったのだろうか。今、書店には今野元『マックス・ヴェーバー』(岩波新書)と野口雅弘『マックス・ウェーバー』(中公新書)が並ぶ。ヴェーバーが2020年6月14日に没後100年を迎えるタイミングを意識した刊行だったのだろう。

とはいえ書名と発売時期こそ重なったが内容に

もっとみる