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スウェーデン留学記#22 秋深まり、友と語り合う夜

10月中旬にもなると、ルンドでも日の入りが目に見えて早くなってきた。日本にいるときはiPhoneの天気予報画面で、日の出・日の入りの時刻を気にしたことなんてなかったけれど、ルンドでは毎日確認し、だいたい一日に3分ずつくらい日の出が遅まり、日の入りが早まっていることがわかった。

ルンド大学の図書館を一面に覆うツタは色とりどりに紅葉し、思わず足を止めて見惚れてしまう。野生動物達も冬に備えて食糧集めに忙しいのか、ひっきりなしに走り回るリスやぴょんぴょん飛び回るウサギなんかもシェアハウスの庭で見かけるようになった。ウサギは以前1匹だったのが、この頃2匹一緒にいるのをよく見かけるようになったからきっといい仲なのだろう。その庭には今や西洋梨がたわわに実っていて、管理人のアントニーがバケツにどっさり収穫して届けてくれた。日本だとラ・フランスはいいお値段なのでなかなか気軽に食べられないのが、ただで好き放題食べれるのだから内心ほくほくだ。生で飽きるほど食べて、最後はジャムも作った。しばらくは楽しめそうだ。

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庭といえば、シェアハウスの庭にはもう何年も使ってなさそうな古びた井戸があった。日本では怪談なんかに井戸が登場するから、日本の古びた井戸だったら恐ろしげな気もするだろうが、ここはスウェーデン。なんのこともないただの井戸だ、と気にしていなかったら、ある日ハウスメイトのシモーネが「ここの庭さ…井戸あるの、ヤバくない?」と言いだしたから一家騒然となった。ハウスメイト達は口々に「あー!それ思ったけど気にしないようにしてたのに!」「シモーネ!なんてこと言ってくれるの!帰りが遅くなってあの井戸の前を通って家に入らなきゃいけない時の気持ち!」などと悲痛な叫びをあげた。なるほど、ヨーロッパでも井戸は妖怪の巣窟らしい。そう言われると、なんてこともなかった井戸もなんだか不気味だ。その日以来、授業が終わって井戸の横の駐輪場に自転車を停めるたびに、井戸が気になるようになった。なんてことだ。

秋が深まってくると、一肌恋しくなってくるのが人情で、私もこの時期にはホームシックにかかった。実はこの時留学を始める2週間前から付き合いだした彼がいて、突然始まった超遠距離恋愛との向き合い方にも悩んでいた。日本とスウェーデンとの時差は7時間。生活時間帯が違うので、気軽に電話もできない。平日はLINEでやりとりし、週に一度スウェーデンでは土曜日の夕方から夜、日本では深夜から早朝という時間帯に電話してなんとか繋がっていた。そんな深夜にがんばって起きてくれていた彼には感謝してもしきれないくらいだが、それでも平日の夜など不意に寂しくなる時があった。そんな夜は、リビングで政治談義をしているシモーネとアレクシーの会話に加わったり、ソファで寝そべって読書をしているウィルマインの隣で宿題をしたり、同じく遠距離恋愛の辛さについて語るリアンヌやマリー達の恋バナに加わったりと、シェアハウスの恩恵に預かっていた。ある時、2週間連続で彼と電話できなかった時があり、落ち込んでいる私をアメリが慰めてくれたことがあった。アメリは自分の夕飯に焼いていたピザを何切れか私にくれ、一緒に食べながら話を聞いてくれた。週に一度の電話の時くらい楽しく過ごしたい、という思いから私は「寂しい」と口にしたことがなかった。口にしなかった「寂しい」は気付かぬうちに自分のうちに蓄積していく。もっと素直にいえばいいのに、とアメリは言う。人間なんだから人間らしく、素直に「寂しい」と言えばいい。自分を素直に表現することで、お互いに本当の相手を知ることができるし、思ったことを言った世界と言わない世界があるとしたら、言った世界の方が相互作用でどんどん発展していけると。私がうじうじと悩んで口にした「寂しい」と比べて、アメリが口にする「寂しい」はきっともっと軽やかで陰気くさくないだろうと想像する。その違いは何故、と考察する。アメリは自分を大切にする人だ。等身大の自分を受け入れ、人としての自分の負の感情を認められる。自分で自分の「寂しい」をきちんと認めてあげられる人が発信する「寂しい」は、自分で自分の「寂しい」を認められずに我慢して我慢して蓄積させていき、挙句の果てに相手にぶつけて受け入れてもらおうとして発信する「寂しい」のように、重い承認欲求が混ざってはいない。自分を認めた上で、相手との関わり方を探ろうと発信するのであれば負の感情も建設的になりうるのだ、と目から鱗のような気分だ。

その後私は自分の「寂しい」を彼に打ち明け、思っていたよりも彼はあっさりとそれを受け止めてくれた。そして寂しいのは彼も一緒だと励ましてくれた。一人で抱えてうじうじ悩んでいたのが馬鹿みたいだ。その後も彼とは建設的な関係を築き、今や我が夫となったのだがそれはまた別のお話。

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