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スウェーデン留学記#27 ハロウィン料理会

ハロウィンにパーティーをするのは日本とアメリカだけだと昔高校の世界史の先生が言っていたから、ヨーロッパではハロウィンパーティーはないと思っていたら、そうでもないらしい。ハロウィンが近づいてくるとハウスメイト達がそわそわし始めた。ウィルマイン、アレクシー、アメリはそれぞれが大学でできた友達を連れてきてシェアハウスでパーティーをするという。これは大変な騒ぎになりそうだ。

ハロウィンの数日前に、芸術家アメリは同じく芸術家仲間の友達と共にマーケットで入手したドデカカボチャを家に持ち帰ってきて、彫刻ナイフでジャックオーランタンを彫りだした。床に新聞紙をひき、目やら口やらを丹念に彫っていく。脇にはカボチャのワタがどんどん積み上がって行く。こんな大きなカボチャの皮はさぞ硬かろうと思って眺めていたら、見た目よりずっと柔らかいよー、とアメリが笑った。あなたもやってみる?と聞かれたが、大切な作品を台無しにするわけにもいかないので断った。

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ハウスメイト同士でも何か企画したいね、とクラーラが言い出し、当日は混雑しそうなので前日に有志でハロウィン料理会をしようと話がまとまった。参加するのはアメリ、クラーラ、アレクシー、私の4人だ。何を作ろう、と悩んだ。パッと閃いたのがウィルマインが作っていた料理だ。オランダ人のウィルマインはパプリカを使った料理を色々作っていた。ご存知の方も多いと思うが、パプリカはオランダの主要な農産物だ。地元オランダでの消費も自ずと多くなり、様々な料理に利用されるのだろう。パプリカのポタージュなんかもウィルマインに習った料理の一つだ。そんなウィルマインが以前パプリカのリゾット詰めを作っていた。パプリカの形はカボチャの形に似ている。カボチャのように、ナイフで目や口を彫れば、パプリカジャックオーランタンの出来上がりというわけだ。中にリゾットを詰めれば、メインディッシュになる。ちょっと楽しげなこのアイデアは大喜びで採用された。アレクシーは料理を手伝えない代わりに、デザートを作っておいてくれることになった。

料理会の日、クラーラは気軽につまめるように、と食事用のマフィン(チーズと玉ねぎが入った塩味のもの)を焼き上げてくれた。コロコロとたこ焼きみたいな形でかわいい。そしてアメリとクラーラと私はウキウキしながらパプリカジャックオーランタンの製作に取り掛かった。真剣なナイフ捌きの後、手の平にちょこんと乗るサイズのなんとも可愛らしい”ちびジャックオーランタン”を彫り上げ、私達は満足げに顔を見合わせた。思い思いのポーズをとり、”ちびジャックオーランタン”と記念撮影などする。そして中に詰めるリゾットを作るために、にんにく玉ねぎベーコンを刻んだ。オリーブオイルをひいたフライパンでこれらを炒め、米も加えて透き通るまで炒めた後、水、トマト、塩コショウ、チーズなどを加え、弱火でコトコト炊きあげた。仕上げにバジルを散らして完成だ。このリゾットを”ちびジャックオーランタン”にぎっしり詰めこんだ。

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食事をテーブルに並べ、せっかくなのでと、キャンドルも灯して雰囲気を作った。試験勉強に勤しんでいたアレクシーを呼び、晩餐会を始めた。マフィンもリゾットも美味しい。”ちびジャックオーランタン”にアレクシーもテンションが上がっているようだった。キャンドルのしっとりとした雰囲気のせいか、文化や政治、故郷のことなどしっぽり語り合うような会になった。

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デザートはアレクシーのお手製バナナタルトだ。「めっちゃ簡単にできるのに、すごく美味しいから私の十八番料理なの!」と自慢げに冷蔵庫から出してくれた。本人のお墨付きだけあって、本当に美味しい!塩気の効いたビスケット生地と甘酸っぱいバナナ、ふわふわの甘すぎない生クリームが一気に口に入ってきて絶妙なハーモニーを奏でる。「レシピを教えて」と頼むと、「砕いたビスケットをバターと和え、タルト型の底に敷き詰めたあと、バナナと生クリームを乗っけるだけ!」とその場で教えてくれた。たしかに簡単そうだ。ビスケットをバターと和えた後、冷蔵庫で十分に冷やして固めることだけ気をつければ失敗しないよ、と。

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翌日試験を控えたアレクシーに合わせて、私達は早めに解散した。楽しいハロウィン前夜祭であった。

ハロウィン当日、授業を終えてすっかり暗くなった夜道を自転車で漕ぎ漕ぎ帰宅すると、玄関で芸術家アメリの作品と遭遇した。分厚い皮のせいで、中で灯したランプの光がだいぶ遮られ、薄暗く光ったドデカカボチャはなかなかに不気味だ。

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家の中に入るとお祭り騒ぎが始まっていた。スウェーデンを意識してか、アストリッド•リンドグレンのキャラクターがたくさんいる。はしゃいだピッピがいると思い、よくよく見たらアメリだった。アメリの髪はもともとちょっとオレンジがかった金髪なので、ピッピのおさげヘアがよく似合う。

自分の夕食を用意して食べるまでのしばらくの間、仮装パーティーを眺めて楽しんだ。とはいえ知らない人ばかりの集まりなので、食後私はそのまま自分の部屋に退散した。やれやれ今日はなかなか寝付けそうにないなと思いつつ、横になる。しかし、賑やかな家で育ったせいだろうか。騒がしい雰囲気に逆にホッとし、いつのまにか眠ってしまった。

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