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スウェーデン留学記#52 ルバーブに惚れた日

ルバーブという野菜をご存じだろうか?
私はスウェーデンに留学するまで知らなかった。緑の葉っぱに真っ赤な茎。茎はセロリのように筋張っていて堅そうだし、一見全く美味しそうには見えない。自分から食べようとは一生思わなかっただろう。

そのルバーブを始めて食したのは、ある春の日だった。前年餃子を作って食べていた私を目撃していたアメリは、かねてより餃子の作り方を教えてほしいとせがんでいた。それを思い出した私は、アメリを誘って一緒に餃子を作ることにした。ついでに、野菜のあんかけ炒めも作る。アメリは艶々した見た目の八宝菜や野菜あんが大好きなのだ。アメリは大喜びで、代わりにルバーブタルトを作ってくれると言った。ルバーブという初めての素材に私はドキドキだ。でも、せっかくなら作っているところを見たいので、その作り方も教えてもらうことにした。
ところがスーパーに買い出しに行ったアメリは、ルバーブを入手できなかったと嘆いた。先週は売っていたのに…としばし肩を落としていたが、急にハッとした顔をして「庭にあるかも!こないだ見た気がする!」と叫んだ。「そんなことある?」と半信半疑の私を従えて、アメリはシェアハウスの庭に出た。そう、私達のシェアハウスには立派な庭があるのだ。実は、シェアハウスの地下にはアントニーという名の管理人がちゃんと住んでいて、その立派な庭の手入れをしてくれていた。たまに野生のウサギたちも遊びにくるその庭には、美しい花々だけでなくブラックベリーが植えられていたり、リンゴや梨の木もあり、前年の秋に私達は庭の果実をずいぶんたくさん美味しく味わったのだ (アントニーがバケツ一杯に収穫して、手渡してくれたのだ)。
庭の片隅の花壇に、確かにルバーブと思しき植物があった。アメリは確信をもってそれをルバーブだと宣言し、アントニーに承諾を得たうえでそれを収穫した。スーパーで売られているルバーブよりは一回り小柄なようだ。
さて、ルバーブパイ作りである。今回パイ生地は冷凍のパイシートを用いた。これを型に敷いて、フォークでひたすら穴をあける。次に、収穫してきたルバーブを洗って、細かく切ったらパイ生地の上に並べる。そして、卵、砂糖、生クリーム、シナモン、アーモンドパウダーを混ぜて作ったクランブル生地をルバーブの上にふりかけ、オーブンで焼き上げるのだ。

ルバーブパイは加熱後に冷まして、冷蔵庫で冷やすとさらに美味しくなるそうで、アメリは午前中に焼き上げたルバーブパイを夜まで冷蔵庫に入れておいた。
夕方、アメリと私は餃子と野菜あんかけ炒めを作り (アメリは初めてなのになかなか器用に餃子を包んだ)、ささやかな餃子パーティーを開いた。アメリはこのためにとっておきの白ワインまで開けてご機嫌だ。

皮から手作りの餃子はやはりモチモチで美味しい。意外と簡単に餃子の皮を作れることはアメリにとって喜ばしい驚きだったようだ。これで帰国してからも好きな時に餃子を食べれる、と嬉しそう。

せっかくいいお天気なのでデザートはバルコニーで食べることにした。
クランブルのせいで、見た目はごちゃごちゃとしたルバーブパイ。初めての食体験にドキドキしながら、いざ一口。

!!!!!!!
もう言葉にならないくらい衝撃的な美味しさだった。サクサクしたクランブルとパイ生地とひんやりして甘酸っぱいルバーブの組合せが完璧に私好みの味なのだ。もともと甘酸っぱいものが全般的に大好きなのだが、ルバーブの甘酸っぱさはもう理想的な甘酸っぱさとしか言いようがなかった。

その日を機に私はルバーブにハマった。よくよく見渡してみると、ルンドにはルバーブスイーツが色々あった。そもそも北欧諸国ではルバーブスイーツが一般的らしい。ルンドで食べたルバーブスイーツはどれも最高に美味しかった。
残念ながら日本ではルバーブスイーツがあまり一般的ではないし、ルバーブ自体簡単に手に入らない。いつかルバーブを入手出来たら、アメリのルバーブパイをまた作りたいと願い日々である。

ルバーブロール
ルバーブタルト

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