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【○○から見たトランスジェンダーの私その①】女友達・ひいちゃんから見た私

女性の身体と男性の心を持って生まれた私・田崎智咲斗は、32歳のときに子宮・卵巣を摘出し、戸籍の性別を女性から男性に変更しました。少女から大人の女性へと成長する中で、私は自分の性自認や性的指向を自覚し、「自分は何者なのだろうか」と悩み、苦しむこともありました。身体と心の性が一致しない私を、周囲の人たちはどう見ていたのでしょうか。友達や同僚、先輩に昔の私を思い出してもらいました。1人目は中学校の同級生で、今でも仲のよい女友達のひいちゃんです。

「ちぃちゃんが男か女かはどうでもいい。大切なのは、何でも相談できる友人だということ」(ひいちゃん)

■元気で明るく、男の子っぽい、大切な女友達

私とちぃちゃんは、中学が一緒。でも、中学ではクラスが違ったので、そんなに付き合いはありませんでした。ちぃちゃんは部活動でフルートをやっていました。でも、見かけたときはいつも練習そっちのけで友達とおしゃべりしていて(笑)。明るく、元気な子というのが私のちぃちゃんに対するイメージでした。

ちぃちゃんには、いつでも一緒にいる仲のいい女の子がいました。ホントに、どこに行くのも一緒。でも、中学生くらいのころって、女の子同士で手をつないだりすることはよくあることだったので、そのことについてはなんとも思っていませんでした。

高校は別の学校でしたが、3年生になってバイト先が一緒になり、そこから一気に距離が近くなりました。おおげさじゃなくて、本当に、学校から帰ると、ほぼ毎日、どちらかが相手の家に行って、一緒に過ごしていました。私の母もちぃちゃんのことが大好きで、晩ご飯にはちぃちゃんの好きなものを喜んでつくっていました。私がちぃちゃんの家に行った時は、ご飯をつくるのはちぃちゃんです。その頃、ちぃちゃんの家はお父さんとお母さんが別居し、ちぃちゃんがバイトして家計を支えたりしていたので、同じ高校生なのに苦労しているな、すごいなと思っていました。

ひいちゃん(右)と私。当時はやっていた初期のプリクラ笑

ちぃちゃんと私のバイト先は、地元の市民プールでした。バイト仲間はとても仲が良く、みんなでカラオケなどに行くこともよくありました。ちぃちゃんは、バイト仲間の男の子のことを好きだと言っていていたので、私たちは2人をくっつけようと張り切りました。でも、ずいぶんあとになって、それは身体は女性だけど心は男性であるちぃちゃんが、自分の恋愛対象が女性だということが周囲にバレないように、自分から「あの男の子が好き」と言い、周りをごまかそうとしていたのだとわかりました。

高校時代のちぃちゃんは、髪も短くて、ボーイッシュな服装が多かったけど、でも、私にとっては明るく元気で、男の子っぽい女友達でした。ちぃちゃんとの時間を振り返ると、思い出すのは、ずっとおしゃべりしていた場面です。他愛のない、ごく普通の女子トークです。口げんかもしたことがなく、いつもお互いに素でいられる関係でした。高校卒業後はそれぞれ別の短大に進学しましたが、一緒に部屋を借りて住もうと計画したほど、大切な友達でした。

ちぃちゃんと私は、お互いのことは何でも知っているし、考えていることもよくわかる。でも、ただ1つだけ、ちぃちゃんが自分の心と体の性が一致していないことに苦しんでいることだけは、私は知りませんでした。

■女から男になっても、ちぃちゃんは、ちぃちゃん。

ひいちゃん(左)と私

体の性と心の性が一致していないことをちぃちゃん自身の口から聞いたのは、私たちが27歳になったころです。知り合ってから10年以上が経っていました。すでに私は結婚し、2人の子どもの母になっていました。

ある時、夫と子どもが実家に行って、私が1人で留守番することになりました。その頃、ちぃちゃんも仕事が忙しく、なかなか二人で会う時間がつくれなかったので、この機会に遊ぼうと私からカラオケに誘うことにしました。

その日、私たちは夜通しでカラオケをしながら、ずっとおしゃべりをしていました。でもその間、ちぃちゃんは何度も「うーん、どうしようかなあ」「ああ、やっぱりいいや」と繰り返し、ずっと何かを言いたそうな様子。さすがに私も気になり始めます。

カラオケ店を出て、ちょっと私の家に寄って帰ろうということになりました。このまま何も聞かずに帰すわけにはいかないと、自宅でお茶を出しながら、私はちぃちゃんに「さっきから何か言いたげだけど何? 気になるから言っちゃって!」と迫りました。

覚悟を決めたちぃちゃんは、私にこう言いました。「ああ、もう言う! 私は、男になる。もう病院に行って、男性ホルモンも打ってる!」。

想像もしていなかった告白を聞いたその瞬間のことは、なぜかとてもよく覚えています。家の時計は、朝の5時7分ごろを示していたことまで記憶しています。そして、想像もしていなかった告白を聞いたのに、自分が不思議なほど動揺していなかったことも鮮明に覚えています。

私はちぃちゃんの言葉に「へー」と返しました。そして、「ちぃちゃんは、ちぃちゃんだから」とだけ言いました。それしか言えなかったのかもしれませんし、それしか言う必要がなかったのかもしれません。

「男になる!」と一大決心したちぃちゃんの気持ちを受け止めた上で、私は、ちぃちゃんが男であろうが女であろうが、自分にとってはどうでもいいことなのだと気がつきました。「ちぃちゃんは、ちぃちゃんだから」と心から思っていたから、そのままを言葉にして伝えました。

明け方のその話は、それで終わりです。「へー」「ちぃちゃんは、ちぃちゃんだから」。私からもそれ以上あれこれ聞くことはありませんでした。

実家から戻った夫に、私は「そうそう、ちぃちゃんって、本当は男だったんだって! 男性ホルモンを打っているんだって」と聞いたことをそのまま伝えました。夫は「ふーん。まあ、俺はあいつのことを、女だと思ったことないけど」と言いました。私は、ちぃちゃんのことは「男でも女でもどうでもいい」と思っていて、夫は、「あいつは男だ」と思っている。なんだか面白いですね。でも、私と夫、どちらも「ちぃは、ちぃだから」ということは同じでした。

ちぃちゃんの告白を聞いても、その後の私たちの付き合いは全く変わりませんでした。「もっと早く言ってくれればよかったのに」とも「どうしてそんな重い話を…」とも思いませんでした。ホルモン療法の影響でニキビが増えた顔を見て、痛そうだなと思うことはありましたが……。

私にとっては、ちぃちゃんの重大な告白を聞いたことよりも、カラオケ店で短髪の「男の子」と楽しそう過ごす私を目撃したママ友を「不倫現場を見てしまった!どうしよう!」とパニックに陥れてしまったことの方が、よほど大きな問題だったかもしれません(笑)。それくらい、私たちの仲は変わりませんでした。

ちぃちゃんの結婚式にも行きました。ちぃちゃんの奥さんには「ちぃちゃんと結婚してくれて、ありがとう」という感謝の気持ちでいっぱいです。ちぃちゃんに人生のパートナーができたことは、本当にうれしかったです。

今でも、何かあったときに真っ先に相談できるのはちぃちゃんです。仲のよい人はいっぱいいるけど、どんなことでも話せるのはちぃちゃんだけ。私の悩みや不安に、ちぃちゃんはいつも、「だいじょうぶだから」と言ってくれます。いろんな経験、苦労をしてきて、それでもいつも明るいちぃちゃんに「だいじょうぶ」と言われると、私は心から安心します。

治療によって、たしかにちぃちゃんの見た目は、ずいぶん変わりました。でも、見た目が男であろうが女であろうが、私にとってちぃちゃんは、ちぃちゃんのままなんです。

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