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相続時に探す「紙」の手がかりはもうなくなる。これからはデジタル遺産対策が必須なワケ

相続発生時には、訃報連絡や各種手続きのため被相続人(故人)の身の回りの捜索がはじまります。被相続人が周到にエンディングノートや遺言で準備してあればそれを参照すればいいのですが、その用意がない場合は遺族は、故人の身の回りの書類や金庫、通帳などから手がかりを探すことになります。
 相続人の中には普段生活をともにしていない場合は、普段の生活状態を共有しておらず書類を探す場所の手がかりのない状態ではなおさら困難なものになります。
 ただでさえ、精神的なショックもある中、時間的にもタイトな対応を迫られる中で、「探しものが見つからない」あるいは「これで全部か確信できない」状態は、相続人にかなりのストレスとなってふりかかることになります。

消える手がかりとなる「書類」

そもそも、整理されていない、どこかにあるはずの書類を探すにも相当な手間がかかりますが、近年それに輪をかけて書類の捜索を難しくしているのが、書類のペーパーレス化、電子化です。
 銀行の預金通帳をはじめ、公共料金の請求書やお知らせなど、経費節減と環境負荷の軽減(SDGsへの貢献)を目的として、次々に紙から電子へと移行しています。

身近な例:預金通帳の電子化

 紙の預金通帳を発行管理するのにはコストが発生してます。紙の通帳を発行すると、1口座当たり毎年200円の印紙税がかかり、銀行がそれを負担しています。個人や法人の顧客が3500万を抱える三菱UFJ銀行の場合、毎年およそ80億円の税金を負担しているといわれています。業界全体では毎年約700億円に上るとの試算もあります。
 欧米の銀行では口座管理の手数料をとるのが一般的なようですが、日本では銀行が負担しているため、これを電子化し印紙代を削減するメリットは大きく、たとえば、みずほ銀行では、2400万口座のうち約半数が1年以上記帳されていない 全ての口座について、毎年1月末時点で1年以上記帳がない口座は、自動的に「みずほe-口座」に移行(定期預金は満期から1年)するなど積極的にペーパーレス化・電子化をすすめています。
 これまでの「紙の通帳」は使えなくなり、デジタル通帳に切り替えになります。相続の際に、通帳を手がかりに口座を捜索する従来の方法は難しくなっていきます。

身近な例:証券・請求書や通知などの電子化

 自動車保険や生命保険など、保険業界でもペーパーレス・電子化の流れで、保険加入後に受領する保険証券を発行しないことで、保険料を割引く制度:「保険証券不発行特約」が増えています。
株式など証券業界でも、取引報告書を 書面ではなく電子交付する例が多くなっています。
 また、証券やFXの取引は、パソコンやタブレット、スマートフォン内で完結することが多いため、故人(被相続人)がデジタルな情報にアクセスする手段を残さないまま、相続を迎えてしまった場合は、その資産の存在さえ気づくことができない事例も増えています。

身近な例:公共料金の請求書やお知らせ

 東京電力では2020年10月から、紙の検針票からWebによるお知らせ方法に変更しており、振込票も携帯電話宛にSMSを送信し、そこから振込へのアクセスしてもらうSMS選択払いを実施しています。
 九州電力など各種電力、ガス会社なども同様です。相続時には公共料金のお客さま番号や、水道の水栓番号などが手続きで必要となりますが、そういった基本的な情報も家の中に紙の情報としては残っていないかもしれません。

身近な例:年賀状を出さない年賀状じまい

 年賀状は、かつて故人の交友関係を確認する有効な手段でした。
 しかし、近年では葉書による年賀状のやりとりをやめる方も増えているようです。2022年 確定発行枚数:19億860万500枚で、2021年の21億3443万2500枚 前年比はマイナス約10.6%です。ピーク時の2003年の44億5936万枚に比較すると年賀状のやりとりから、連絡先や交友関係を調査し、訃報連絡等を行うことは難しくなりつつあるのかもしれません。

身近な例:脱ハンコ 押印レスの影響

コロナ禍のリモートワークを阻む要因としてあげられた書類への押印について、国の方針により脱ハンコが掲げられ、各種書類への押印への必要性が検証されました。

「特段の定めがある場合を除き、契約に当たり押印をしなくても契約の効力に影響は生じない」

「押印に関するQA」 R2.6.19 内閣府・法務省・経済産業省

国からは上記の見解が提示され、押印のために紙を使用していた書類も、電子化しメールやクラウド経由でやりとりするようになりました。

デジタル推進の流れ デジタルシフト

少子高齢化社会での、若年層人口減少による働き手の不足を見据え、国はデジタル技術による行政のデジタル化を推進しています。2019年5月に成立したデジタル手続法などです。また、岸田内閣は、デジタルによる地域活性化を進め、さらには、地方から国全体へ、ボトムアップの成長を実現するデジタル田園都市国家構想への取り組みを強めています。
 また、電子帳簿保存法や、e-文書法など、保存書類など電子化の流れも含めデジタルの推進は国全体的な大きな流れとなっています。

高齢者のデジタルシフト

 電子化の背景には、上記のSDGsへの配慮とともに、企業や行政側のコスト削減、合理化への取り組みがあります。また、近年コロナ禍による行動制限や、3G停波によりガラケーが使えなくなることにより、高齢者のスマートフォンへの移行が急速に進んだことも要因としてあげられます。
 

デジタルツール(スマホなど)の高齢者への普及

 社会全体がコロナ禍での社会全体の非効率や、変化への対応としてデジタルへの傾斜を強める中、被相続人たる高齢者層にも多きな変化がありました。
 高齢者の保有するデジタルツール(スマホやタブレット)は近年大きく増加しています。コロナ禍を経て、普段対面できない家族や友人とのコミュニケーション手段として、あるいは巣ごもり時間の相棒としてデジタルツールを活用するシニアも増えてきました。地図や天気、ニュースやSNSなどを使う方も多くいます。
 また、携帯各社の3G停波で、ガラケーが終了することで、スマホに乗り換えざるを得ない状況が、シニア層へのスマホへの乗り換えを後押しした側面もあり、デジタルツールはシニア層にとってより身近になっています。

デジタル遺産への対策

こうした書類がない状況で、対策もないまま相続を迎えてしまうと、相続人は過大なストレスとプレッシャーを抱えることになります。
書類が見つからない、これで全部だろうか、急がないと間に合わない、という焦りは、相続人から故人を悼む時間を奪い、労力を奪い、余裕を奪います。こうした悲劇から相続人を守るため、今からデジタル遺産に対応した準備を行う必要があります。
 また、相続後は、こうしたデジタル遺産に対する対策の不備は大きなリスクとなって相続人にふりかかるのです。

デジタル遺産のリスク

 デジタル遺産を放置しておくことは、さまざまなリスクを伴います。こうした事態を招かないように、生前から準備しておきたいですね。

デジタル遺産の仕訳、引き継ぎ対策

 デジタル遺産はあらかじめ、相続後のリスクに配慮して資産を調査し、必要な情報をエンディングノートにまとめることをおすすめします。
 しかし、重要な情報はスマートフォンなどのデジタル機器に保存されており、日々更新されていきます。スマートフォンなどの中身を相続人となる方にあらかじめ見ることができるようにしておくことは、プライバシーの観点からも、生前準備をされる方にとってあまり気がすすむことではありません。
 こうしたことから、デジタル機器の引き継ぎには少し工夫が必要です。

 デジタル資産の事前の公開・非公開の切り分けや、ブラウザなどの自動入力機能を利用したアクセス手段の確保など、必要な対策はまた次の機会にご説明したいと思います。
 これからの終活には、スマートフォンなどのデジタル機器を含めた対策が必須となります。まずは、お使いのスマホの中身の整理からはじめてみてはいかがでしょうか?

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