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放置できないデジタル遺産のリスク

デジタル資産(遺産)とは、個人のデジタル機器に保存されたデジタルデータ(写真や動画など)およびオンラインのデジタルデータやアカウントなどをいいます。その他、各種会員ポイントやマイレージなども広い意味でのデジタル資産に該当します。
 その資産が本人の死亡、相続によりデジタル遺産となります。

今、そのデジタル資産(遺産)の、本人の死後・相続におけるリスクが問題となっています。デジタル遺産のあまり知られていないリスクとは何でしょうか?

データの流出・漏洩・盗用

遺品の処分などを通して、被相続人(故人)や関係者などのプライバシー侵害や、仕事上などでの営業秘密の流出などが考えられます。
 流出・漏洩・盗用などにより不本意に開示される情報の内容により、その他の相続人・近親者自体のプライバシー権侵害や、故人の名誉を毀損するようなものである場合にその他相続人・近親者の死者に対する遺族固有の敬虔感情の侵害の問題が発生する可能性があります。
 また仕事・業務上の書類などが流出した場合、営業秘密の流出に関しては損害賠償などに発展する可能性もあります。
 形のある有体物(カメラやパソコン)は、相続すれば所有権は相続人に継承されます。その中身のデータについては民法上の所有権はおよびませんが、データに適法にアクセスし、その利用をコントロールできる事実上の地位についていると考えられますので、こうしたリスクへの配慮は欠かせません。

暗号資産などの見落としによる課税リスク

財産的価値を有するデジタル遺産の放置による税法上の問題を招くリスクです。最近では暗号資産などを保有されている方も増えていますが、暗号資産にアクセスするには”ウォレット”に格納されている秘密キーが必要です。”ウォレット”には専用のハードウェアを使用するものものや、スマートフォンで管理するもの、紙で管理するものなどがあります。いずれのタイプでも共通しているのは、そのウォレットの秘密キーを使わなければ暗号資産にはアクセスできないことです。仮にウォレット(秘密キー)を紛失した場合には、本人といえども永遠にアクセスできなくなります。
 相続では、暗号資産に関して最初にあげたウォレットの紛失・盗用のリスクに加えて、見落としがちなのはその課税リスクです。
 暗号資産などは相続人がその存在を知らなくても、相続税を課税される可能性があります。暗号資産を保有している方は、家族などにきちんとその管理方法を伝達しておく必要があります。

相続税法では、個人が金銭に見積もることができる経済的価値のある財産を相続または遺贈により取得した場合には、相続税の課税対象になるとされております。 仮想通貨については、資金決済に関する法律上、代価の弁済のために不特定の者に対して使用することができる財産的価値とされておりますので、相続税が課税されることに なるわけでございます
参議院 財政金融委員会 H30.3.23 国税庁次長答弁

アフィリエイトなどの契約義務違反

義務を伴う契約を故人がしていた場合、すみやかに手続きを行わないと、契約義務違反が発生するリスクがあります。アフィリエイトなど契約上の義務を放置することで履行義務違反の損害賠償を求められかねません。

アカウント等のっとりのリスク

SNS、ブログなどを放置すると、荒らしなどの被害にあう可能性があります コメント欄放置による故人の尊厳や、遺族感情の侵害が発生する可能性があります。今後発展が見込まれるメタバースなどの仮想空間などでも、アカウントの取り扱いが問題になる可能性があります。
 こうした問題への対応としてGoogleではあらかじめアカウント所有者が生前にアカウントの帰趨について設定を行うアカウント無効化ツールが用意されています。
 また、アップルでは2021年秋から、AppleIDの持主がなくなったときにiCloudを通して予め指定した相手にデータを託せるようにするデジタル遺産プログラムが導入されました。
 また、iOS15.2 iPadOS15.2からレガシーコンタクトも導入され、ユーザーの死後のアカウント管理に関する「デジタル遺産」機能が追加されています。
 Facebookでは事前に追悼アカウントを登録する事が可能です。

FX取引等や定期課金契約の放置による経済的損失リスク

最近では月や年単位でのサブスク(定額契約、定期課金契約)を利用される方も増えてきています。こうした契約では放置する期間が長いほど自動的に料金が引き落とされますので損失も大きくなります。
 また、特にFXなどはレバレッジ取引などで損害が巨額になる可能性もあり注意が必要です。

 相続の現場では、遺産を特定するために、財産や債務などの捜索が行われます。デジタル遺産はその性質上、紙などの手がかりがのこされることが少なく、またそのアクセスに使用されるデジタル機器のセキュリティの問題から、通常の相続以上に捜索が難しくなります。
 デジタル遺産に関する対策を用意せずに、相続にのぞむことになれば、相続人はたいへんな重荷をかかえることになってしまいます。
 相続人がデジタル遺産へアクセスする手段は、本人が事前に用意してあげることしかできません。

 相続対策に必要なのは、用意周到な計画と準備。その中でもデジタル遺産は、事後の捜索が困難なため特に準備が大切なのです。
 当事務所ではデジタル遺産の生前整理をサポートしています。遺された人々が相続で困らないように、生前からプライバシーに配慮しつつ適切に相続できるように準備していきたいものです。

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