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映画「子供はわかってあげない」プロダクションノート

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カントク沖田の妄想プロダクションノート 全部嘘です。嘘じゃないかもよ。
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#イラスト

#1 はじまり

本来ならば、先日にも、映画『子供はわかってあげない』は、めでたく公開を迎えるはずであったのだが、やむなく延期となったので、それまでに、なんとなく、忘れられないためにも、監督である沖田が、ここに制作日記を書こうと思う。定期的に連載していこうかと思う。できるだけ、間違いがないように書こうと思う。  映画『子供はわかってあげない』は、まずプロデューサーT氏とN氏に呼び出されることから始まった。高い塔の上であった。一人待っている私の横には、一匹の猿と、極彩色の小鳥たちが部屋中を

#4 脚本を書く3

再び塔の上にいる私の肩には、極彩色の小鳥が乗っている。猿は、もう、私を無視するように、1人でガラス張りの窓から、渋谷の街を眺めていた。私は、桃の果汁が贅沢に搾られた、細長い紅茶のペットボトルを飲みながら、N氏を待っている。ようやく、社員証でドアの開く音がすると、N氏が入ってきた。 「お待たせしました」 N氏がなぜか、細長い、物干し竿のようなものを片手にしている。珍しく、今日は汗ひとつかいていない。私は、ひとまず挨拶をする。そしてN氏は、いつものように、猿を存分に可愛がる。

#7 渋谷にて

さて、冗談はともかくとして、「子供はわかってあげない」という原作を映画にするという話があり、私は脚本家にお願いすることにした。映像化ではなく、映画化を。映画として、よりよいものを。映画が漫画に似ていれば、それでいい、私はそれが嫌だった。まずは、原作にないセリフで、台本の会話を埋め尽くそうとしたのだ。セリフのうまい人、それで思い出したのが、ふじきみつ彦さんであった。以前、シティボーイズライブの台本を書いており、そのコントが面白かったのを覚えていた。なんだか、仕事をするのは、

#8 金の話

さて、今回は少し堅苦しい話になるかもしれない。金の話である。プロデューサー志望の方なら、読んでおいて損はないだろう。現在、日本映画の多くは、製作委員会方式が一般的となっている。いわゆる、出資企業の集合体である。一本の映画に対して複数の企業が事業費(製作費+配給宣伝費)を出資し合い、資金のリスクを分散する仕組みだ。各企業の出資金の額により、出資比率が決まり、映画公開後の収益から出資比率に沿った額が各企業に配分される。構成するメンバーには、出来上がった作品を映画館に営業する配

#9 先生

無事、佐渡から生還したT氏、そして、脚本の国へと渡り、いろいろあった私とN氏。そして、いよいよ人間の心を取り戻した、脚本の国のふじきさん。ようやく4人が揃い、今は、この小さな喫茶店で、せせこましくテーブルを囲み、コーヒーを飲んでいる。集まったのは他でもない、原作者の田島列島先生に会いにいくためである。集合時間よりかなり早めに待ち合わせした我々は、わずか10分で話すことは話し、ほとんど時間を持て余していた。約束の時間まで、まだ1時間近くある。今はただ、少しぬるめのコーヒーを

#10 親の小言と茄子の花には無駄がない

プロダクションノートとは、なんだろうか。実はよく知らないままに使っている。それも変なので、来週あたりから、もう少し、わかりやすい題名に変えようと思う。 『映画「子供はわかってあげない」ができるまで』にしようと思う。 映画ができるまでを書きます。 さて、田島先生との打ち合わせの帰り道、その出版社の最寄りの駅前に、私の母校があった。これは偶然である。その学校の横には、大きな寺があり、その更に横には、からあげメインの小さな弁当屋がある。高校生の頃は、よくここで、弁当を買い、学

#11 葬儀

沖田が燃えている。 葬儀は、都内の斎場にてしめやかに行われた。誰も彼もが、沖田の死を悼んだ。よほどの人だったのだろう、沖田という男は。全国各地からやってきた参列者は後を絶たず、彼を慕う若者たちや、付き合いのあった若い女たちが、いたるところで涙を流していたのである。さすがは沖田である。しかしながら、沖田を快く思わない者も少なくなかった。撮影現場での度重なる暴力、パワハラ、セクハラと、やりたい放題であった沖田を目の敵にする者は大勢いた。沖田に金をだまし取られた者もいる。また

#12 閻魔

閻魔が、まさか「横道世之介」を観ていたとは思わなかった。 映画が好きらしく、「テネット」も、2回観たという。IMAXレーザーがおすすめらしい。閻魔は、そういうと、私に天国か地獄か、どちらかを選んでいいと言った。普通は、閻魔の独断と偏見で決めるらしいのだが、たまたま「横道世之介」を観ていたらしく、好きに選んでいいと、情をかけてもらう形となった。いい閻魔だった。去り際に、「滝を見にいく」もいいよね。と閻魔は言った。武蔵野館でおばさんに囲まれて観たという。閻魔め。よほどのマニアらし

#15 もじくんのオーディション

さて、この映画に出てくる、もう一人の若者。それは門司(もじ)くんである。門司くんは、書道部で、絵も上手。繊細だが、内に秘めた力強さも持っている。さて、一体この役を誰がやればいいのか。美波と同じように、こちらもオーディションで選考することにした。美波と同じように、こちらもオーディションで選考することにした。 募集をかけたところ、まず、書類が2万通ほど届いた。そこから、だいたいざっと目を通して、軽く1万人くらいにふるい落とす。そして、その1万人に、今度は東京ドームまで自費で来て