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忘れられない初恋〜再会はベタに成人式〜

なんとか養成所を卒業し、無事、芸人としてデビューした僕。

デビューといっても、事務所ライブが月に1,2回ある程度で他の時間はバイトばかりだった。

時間はあり、地元が千葉ということもあって、2ヶ月に1回くらいのペースで帰省していた。

地元に近づくにつれ、偶然同じ電車に乗ってたりしないかなとか、最寄駅で会えないかなとか、そんなことを思いながら電車に揺られる。
ツイッターにも帰省することをつぶやく。
ともみちゃんに向けた匂わせツイート的な。
気持ちが悪い。
それで会おうとはならなかったけど、たまにリプがきたりする。

「もう一本遅ければ会えたのにー!」
最寄駅についた僕のつぶやきに届いたともみちゃんからのリプライ。

会いたすぎて、一本でも早い電車に乗ってしまった自分を悔やんだ。

今まで約束をしてあったことのない、僕たちだったから、どういう理由で約束すればいいのかわからず、こうした偶然を願うしかなかった。

偶然では会えなかった僕たちに訪れた会うチャンスはベタに成人式だった。

月に1,2回の事務所ライブはランダムで日程が割り振られる。成人式に行きたい、ともみちゃんに会いたいという願いが叶ってか、ライブはかぶらず、成人式に行けることになった。

成人式当日。
久しぶりにスーツに袖を通し、免許のない僕は、今でも腐れ縁の長谷川こと、長谷の車で会場に向かう。
地元市内の4つの中学校の成人が会場に集まる。1000人近くいたと思う。
みんながみんな、誰かを探していた。
もちろん僕は、ともみちゃんを探していた。
ともみちゃんも僕を探してくれていたんだろう。
ともみちゃんが僕を見つけてくれて、話しかけてくれた。

中学校卒業し、その後、一度百円ショップで会って以来のともみちゃん。
久しぶりにともみちゃんの横に並ぶと、僕の方がわずかに身長が大きくなっていることを知る。あっていることが実感できる。
写真撮ろうと言ってくれて、一緒に写真を撮った。
ともみちゃんと一緒にいた女子グループも写真に写った。
ツーショットを撮りたかったけど、そんなことは言えない。

夜は中学校全体での飲み会あって、クラスごとにテーブルが分かれて、僕はともみちゃんの前に座ることができた。
2人で話したかったけど、もちろん周りには他の人もいて、なかなか込み入った話はできなかった。ちゃんとあの頃のダサいままの僕だった。

会もしばらく経つと、ともみちゃんはバスケ部グループに移動しまい、僕は僕で芸人やってることでちょっと人気でいろんな人に話しかけられ、そのまま会は終わってしまった。

2次会はそれぞれのクラスでとのことで、僕らのクラスもやることになったけど、ともみはバスケ部の会に行くことになった。
「えー、行かないのー?」
ちょっと酔ったふりして、甘えたような感じでともみちゃんに言った。
そんなキモすぎる口説き文句で来るわけもなく、僕もいく意味がないので、帰ることにした。

久しぶりに会って、写真も撮れた。嬉しいけど、もっと話したかった。このモヤモヤをどうにかしたく、コンビニでチューハイを買い、飲みながら、当時ともみちゃんのことを好きだったことを、帰りの車で長谷に話す。
恋愛の話を誰かに話すのははじめてのことだった。ちょっとだけ成長。今でも好きとは言えなかったのは、まだダサい証拠。

酒を飲んでいないから冷静に僕を見ていたのか
「だからすごく楽しそうだったのか」
と長谷は言う。
酔っていないとはいえ、僕よりも恋愛経験のない長谷にこの日の浮かれ具合がバレていたとは。
酔いもあってか、これでより吹っ切れる。
とっくのとうに家に着いているのに、家の前に車を停めて、想いの丈を長谷に話す。
いや、ともみちゃんに話さないと。

それでもちょっとスッキリして、すがすがしい気持ちになった。

次の日。
夜にライブがあったため、昼頃地元を離れ、東京に戻る。
「ライブあるから、明日にはもう東京戻らないと」
月1,2回のライブが、偶然にも成人式の次の日になっただけなのに、忙しいアピールみたいなことをして、人気者を気取っていた昨日を思い出す。
それで、チケット売れたりはしたけど、中学校の頃一言を話したことのない奴を相手に何してんだと思う。
なんで、もっともっと、ともみちゃんに話しかけに行かないんだよ。
「ちくしょー。もう会いたいなあ。」
ずっとそのことで頭の中はグルグルしていて、気づけば電車の外のは、田んぼばかりだった馴染みのある景色でなく、まだ慣れることない東京にすっかりとなっていた。

ライブ後、来てくれた同級生と話す。
成人式で小学校の同窓会をしようという話があったことを知る。

チャンスはすでに訪れていた。


#忘れられない恋物語

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