忘れられない初恋〜君のいない学校〜

ともみちゃんは地元から少し離れた新学校へ、
僕は自転車で通える地元の商業高校に進学した。

裕福な家庭ではないから、電車賃すらかけたくなかったり、ブレザー着たかったりとか、いくつか理由はあったけど、いちばんは自分を変えるのにちょうどいいと思ったから。

環境を一変したいとは思っていたけど、人見知りの僕にとって、知り合いが1人もいない学校に行くと、スタートでつまずく恐れがあったし、かと言って知り合いの多い学校行けば、周りを意識しすぎて変われなそうな気がしてた。

この考えがうまくいき、心地良い高校生活を過ごすことができた。

普通科目よりも商業科目が自分に合っていて、たかが知れているのは分かっていても、クラスで勉強できるキャラになり、それが嬉しくて自信がついたり、話の合う人も多くて、中学校生活では味わえなかった感覚がそこにはあった。

そうなれたのは、ともみちゃんのおかげでもあった。
ともみちゃんが面白いと言ってくれたおかげで、面白いと言ってもらえるような人になりたかった。
でも、中学校ではそれがあまりできなかった。
それが高校ではできるようになって、自分の居場所が見つかった。
かと言って、クラスの人気者でもなければ、中心人物というわけでもない。

クラスには、女子の方が若干人数が多いということもあってか、団結力はすごく、昼休みの教室は女子たちに占拠されていた。
一部の一軍男子は、気にせず教室で昼休みをとっていたけど、その他の男子は肩身が狭く、ベランダで昼休みを過ごしていた。

夏は汗だくになりながら、冬は凍えながら弁当を食べる。
でもこの時間が心地良かった。
お笑い好きな友達と、昨日観たテレビの話をしたり、クラスメイトや教師をこそこそいじったりと、くだらないことで息ができなくなるくらい笑った。
最終的には自分たちでネタを作って漫才したり、100均で手持ちのホワイトボードを買って、フリップがわりにして大喜利もしてた。

誰かがこの空間をベランダ組なんて、ちょうどダサい名前をつける。
でもそれが最高と思えるような居場所だった。

結局、僕はこの時間をこの先も続けたくて、ベランダ組でいちばん面白かった奴に声をかけて、お笑い芸人を目指すことになる。

声をかけた時も、休み時間のベランダだった。

「おれとコンビ組まない?」
好きな子に告白すらしたことない奴のはじめての告白だった。
みんながイメージするような青春とは違うけれど、確かにこれも青春だった。

もちろん全く恋愛をしていなかったわけでもない。
少し気になる女子のアドレスをゲットして、メールを続け、メールで告白した。フラれた。
でも、告白したことによって、相手が意識してくれて、電話で告白された。付き合った。人生初の彼女だった。1ヶ月ちょっと付き合った。冬だったこともあって、デートはクリスマスにイルミネーション見に行って、1ヶ月記念日はプリクラ撮って、プリクラ機の中でキスした。もちろんファーストキス。でもその後、なんか気まずくなって2月の頭に別れた。だから、バレンタインのチョコはもらえなかった。でも、あまり失恋した感覚はなかった。経験がなかったことが、コンプレックスでいろいろ経験しておきたかっただけなのかもしれない。

そんなことよりも、僕の高校生活はお笑いだったんだ。

あの日も、お笑いのことを考えていた。
その日は、簿記かなんかの検定があって土曜日だけど、学校にいた。
試験を終えると、チャリを飛ばし、100均へ向かった。
昼休みにベランダで大喜利をするためにフリップを探す。
お目当てのものが見つかると、月曜日の昼休みがすでに楽しみで心が躍る。
店を出ようとすると、スキマスイッチの曲が店内に流れはじめたから、店内を1周することにした。

曲が終わり、店を出ようとすると、見覚えのある顔が通り過ぎる。
振り返ると、その人も振り返っていた。

ともみちゃんだった。

会話などはせず、お互いにお辞儀だけしてその場を後にした。
ともみちゃんは家族と来ていたらしく、少し気まずそうだったし、僕も店を出ようとしてたところだったから仕方ない。
それに、あまりにも突然だったから何を話したらいいのかもわからなかった。

帰り道は、ともみちゃんのことを考えていた。
スキマスイッチ好きじゃなければ、そのまま帰ってただろうから会えなかったなとか。
でも、その曲がスキマスイッチの「さいごのひ」っていう曲で、もう会うの最後なのかなって思っちゃったり。
芸人になること伝えれば良かったのかな。
でもそしたら、盛り上がっちゃってただろうな。
芸人になることを伝えようと思ったのは、ともみちゃんが目指すきっかけになってるからだと思う。
芸人やってれば、いつかまたともみちゃんが会ってくれるんじゃないかと、奥底に眠っていた気持ちに気づかされる。
ほんの一瞬会っただけなのに、頭がいっぱいになり、心が満たされた帰り道だった。

それから、僕は高校を卒業し、芸人になった。
そのおかげか、あの日がともみちゃんと会う「さいごのひ」にはならなかった。



#忘れられない恋物語

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