忘れられない初恋〜夢を叶えた君とふたりで飲んだ夜〜

2017年、3月。

ともみちゃんがライブに来てくれてから、3年近くが経とうとしている。

僕はどうしようもない日々を過ごしていた。
コンビニの夜勤に週4で入り、残りの3日はただただ時間を持て余す、ほぼフリーター同然だった。芸人と名乗る資格なんてない毎日。
舞台にはもう1年半近く経っていない。

コンビを解散したのは、3年目の夏だった。
地道ながら手応えを感じつつも、中々結果が伴わない。コンビ仲がどんどん悪くなった。
限界を感じた相方に解散を切り出される。
引き止められなかった。
新しい相方を探すも結成までには至らず、時間だけが過ぎていった。

コンビも組めなければ、ともみちゃんをライブに誘えない。芸人として活動できていない、肩身の狭さに、地元に帰っても気軽に連絡なんてできなかった。

遠かった夢がさらに遠くなっていく。
好きな人に連絡することもできない。
23歳の僕は絶望していた。

そんな時、劇場で企画された相方探しのライブに出ることになった。
ラストチャンスだと思った。
でもどんな準備したらいいのかわからない。

芸人周りに相談する中で、あることを思いつく。芸人以外の意見も聞こう。

やっぱりともみちゃんだった。

小学校の先生になっていたともみちゃんに、教えてくださいとお酒の力を使ってLINEした。

思いの外、早く会えることになった。

当日、会うのは同窓会以来だし、2人で飲むのは初めてで、ソワソワしながら駅で待つ僕。

3年ぶりのともみちゃんは、出会った頃から変わらずショートカットで、僕の好きなタイプがショートカットになったのは、ともみちゃんの影響であることを思い出した。
反対に、いちおう芸人だからと、挨拶がわりに用意してボケは全部とんだ。

そのことを知っていたんじゃないかってくらい会うなり、
「思ったより小さいねと」
僕をいじるボケをするともみちゃん。

僕だってともみちゃんにそう思ってた。

場所は相談するだけだから、気合いの入った店ではなく普通のチェーン居酒屋。
混んでて店入れなかったり、待つものを気まずいから慣れない予約して。
気を張ってると思われるのもあれだからクーポンも使った。
自分ですらダサいのがわかりながらも嬉しさが勝ってあまり気にならなかった。


相方を見つけるために僕の今の状況を話した。
結局のところ答えは出なかった。
そんなことはわかっていた。
それで全然良かった。とにかくともみちゃんに話を聞いてほしかった。

自分の話をしてばかりの男は、モテないなんてどこかで聞いたことあるけど、そんなのどうでも良かった。

悩み以外にも僕の芸人なってからの話や相方との出会いとかもうほとんど話した。

たまに笑ってくれるその顔がみたくて。

興味のない話もしてただろうに止まらなかった。

ダサい痛いとわかっていながら僕が1番良かったライブのDVDまで渡した。
お笑い好きな子だから喜んでたけど、本当に喜んでたのかな?

僕の話ばかりしてたけど彼女の話も聞いた。
先生なんて魅力な職業興味あったし。
そんな中でもたまに僕の話を授業ですることがあるらしく内心舞い上がった。

先生の話から、自分たちの学生時代の話もして、あまり話せなかった中学校の空白も少し埋める。

懐かしい話から同級生の結婚の話にもなる。
でも彼女の結婚についてはやっぱり聞けない。

もし彼氏がいる事実なんて知ったらこの楽しい時間はどうなってしまうんだと。

ともみちゃんと過ごす時間はいつもあっという間で、終電の時間が近づく。
田舎の終電の早さが憎い。
でも、この日は最寄りより一つ前の駅に、お母さんに迎え来てもらうらしい。
これは僕といた時間がそこまで退屈じゃなかったってことなのかな?
今日のことはお母さんになんで話すんだろう?
そんな妄想をしながら、思ったより長く過ごせた時間を目一杯味わう。

なんだかんだ電車がギリギリで彼女は走ってホームに向かった。

その時、また会おうって言ってくれた気がしたけどあれは僕の思い込みじゃないかな?


同窓会の時のように、ともみちゃんとは反対の東京行きの電車に乗る僕。

結局、その日も思いを伝えられなかった。
今日なら伝えられた気がした。だから、伝えなかったという方がしっくりくるのかもしれない。
伝えられたところで今の中途半端な僕には何もできない。
やっぱり僕は売れてともみちゃんを幸せにしたい。
でもともみちゃんを幸せにできるなら僕は芸人じゃなくてもいいのかな?
あれだけ諦めきれずにいる夢が、ともみちゃんを幸せにできるなら割とすんなり辞めれそうな気がする。
でも芸人辞めた僕なんて魅力なんかないんだろうな。
でも芸人の僕が彼女と仲良しの親御さんを説得できるかな。
そんなこと考えても彼女の気持ちを僕は知らない。

今日の幸せを噛み締め、未来を妄想し、電車に揺られている僕は違う。

また会うきっかけを作るためにも舞台に戻らなきゃ。




#忘れられない恋物語

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