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足し算の採用、掛け算の採用

こんにちは。走る経営者、トラックレコード芹川です。
暑い夏が終わりもうすぐマラソンシーズンが始まるので、最近は日々大会のエントリーの抽選に一喜一憂しています。
いつか当社にも陸上チームをつくりたいです。

採用は割り切れない

企業で組織が拡大していく過程では、「すごく強いメンバーを集めたはずなのに、なぜか思ったような出力が出ない」とか、逆に「たった一人が加わっただけで、組織全体が劇的に変わった」ということがよくあります。

採用の場面でも、求人票の要件を十分に満たしていて面接での評価が高いにもかかわらず、"不採用"と判断されるケースがあります。
これは採用を決めるために全力を尽くしている担当者からすると「なんでやねん」という気持ちになりますよね。

 そもそも採用の本来の目的は「人数を増やすこと」ではなく「組織の能力を拡張すること」です。人数を増やすことはそのための手段です。なので、人数を増やしても組織の能力がうまく最大化されないなと感じたときは、採用計画にかかわらず採用に慎重になる場面があります。

ここでは、組織能力を最大化するための採用を考えるための概念として、"足し算の採用"と"掛け算の採用"について解説します。

採用活動に携わる人事の方だけでなく、チーム全体の結果やそのための人員計画の立案に責任を負う管理職の方にも参考にしていただけると嬉しいです。


”足し算の採用”と”掛け算の採用”とは

“足し算の採用”、”掛け算の採用”というのは僕の造語ですが、採用においてそのメンバーが組織にもたらしてくれる価値を理解するための概念です。

採用における”足し算”の要素とは、採用するメンバー本人が直接もたらしてくれる労働力や付加価値のことを指します。営業の人であれば実際の営業活動やその成果としての受注などになります。

採用における”掛け算”の要素とは、採用によって加わったメンバーが他のメンバーに影響を与え、他のメンバーの生産性やチーム全体での出力を高めてくれる効果のことを指します。これは後述するように、実にいろんなパターンがあります。

一般的に、求人票に書かれるのは足し算の要素が中心です。「一人目◯◯」のような新規ポジションの場合、それを通じて組織全体の生産性が上がるような効果もありますが、それは足りなかったピースを埋めているという意味で足し算に近いです。

“掛け算”の効果の具体例

掛け算の採用によってもたらされる価値には、実にいろんなバリエーションがあります。

たとえば、「Aさんが入社して◯◯社流の営業手法を注入してくれたことで、営業生産性が劇的に改善した」などのケースが考えられます。”ノウハウによる掛け算”です。
このパターンは比較的わかりやすく、採用において意図的に取り入れていく場面も多いです。

ノウハウほどわかりやすくはないけれど、組織にとって重要なのは”組織文化への掛け算”です。これは例えば、

「Bさんが入社して誰よりも真剣に仕事をしている姿を見て、周囲のメンバーも気持ちが引き締まった」

「新人の若いCさんがぐんぐん成長している姿に刺激を受けて、停滞しかけていた中堅メンバーにも活気が戻ってきた」

「新しく入社したDさんの行動の徹底ぶりが凄まじく、社内での当たり前の水準が変わった」

といった経験はあるのではないでしょうか。

経営者は”組織文化への掛け算”で組織を作る必要があります。社内のおける当たり前の基準を決めるのは経営者の重要な仕事で、いつまでも自分の腕力(=足し算)や自分の経験(=ノウハウ)に頼っていては組織はスケールしません。
(※ 事業体によっては組織がスケールしなくて事業はスケールすることはあります)

チームスポーツのメンバー選定は、足し算ではなく掛け算を重視していることが多いはずです。別の個人が優秀でMVPを取っても、チームが勝てなければ意味がないです。なので、チーム全体でどう能力が最大化されるかがなにより優先されるべきです。これは”組み合わせ(相性)による掛け算”です。お金のあるサッカーチームや野球チームがスター選手だけを集めても優勝できないのは、そういうことです。

企業においては、上司との相性によってあるメンバーの力が全然発揮されていない場面などが多々ありますが、これは掛け算の係数が1以下になっている例です。
「AさんもBさんもめちゃくちゃ優秀だけど、得意なことがカニばっててどちらの実力も発揮されにくい」といったケースもよくありますね。

“足し算”と”掛け算”の特徴

採用の実務においては、足し算の要素は言語化しやすく、求人票に書かれる内容も大部分は足し算の要素になります。
また、足し算の要素は環境が変わっても発揮されやすいという特徴があるので、相対的に評価もしやすいです。

一方、掛け算の要素はその人の実績としてそもそも説明されにくいものです。たいていはその成果は「他人の成果」として現れるからです。客観的事実として説明するのも難しく、”一緒に働いた人だけがわかる感”がつきまといます。

こうした特徴を踏まえて、採用における見極め方法も変わってきます。

一般的に足し算の要素は、その求人票記載の業務を遂行する能力を見極めるために、スキル・経験・実績などを評価することになります。その方法は職務経歴書や筆記試験、面接など、見極めたい資質に合わせていろいろなやり方があります。クリエイティブ系ならポートフォリオを見るかもしれないし、最近ではリファレンスチェックなどもよく使われます。

一方、掛け算の要素を外部から評価するのは極めて難しいです。僕の場合、実質的にリファレンスチェック一択と考えています。
掛け算の要素が強く期待されるマネージャーの採用などにおいては、リファレンスチェックなしでの見極めは考えられません。(見極めを諦めてリスクを取る、という場面はあると思いますが)

“足し算”と”掛け算”の使い分け

このように掛け算要素の評価は難しいので、普通の採用においては足し算要素のみが評価されがちです。
掛け算要素の素養が高くても、足し算要素が不十分だと結果として活躍できず、組織内で信頼を得られずに掛け算的影響力も発揮されずに終わるので、足し算重視は原則正しいと個人的には考えています。

とはいえ、相対的に掛け算の採用が有効になりやすい場面もあります。
足し算要素だけでは差が生まれにくかったり、候補者の評価軸が多様で比較しにくいような場面では、掛け算要素を重視するとよい採用につながるケースがあります。

わかりやすい例が新卒採用です。実務経験のない学生は実績での判断がほぼできないので、誰を採用して誰を見送るかは難しい問題です。新卒採用において納得感の持てない形で志望企業を落とされた経験を持つ人も多いと思いますが、それも仕方ないくらい新卒採用での見極めは難しいのです。同じような学歴の候補者がたくさん集まってそこでは差がつきにくく、それ以外の要素を評価しようとすると多様すぎて評価軸を決めるのが難しくなります。

そういう場面で掛け算要素を考慮すると、他の候補者との違いが際立ってくることがあります。たとえば新卒採用で10人を採用しようとするとき、「採用基準に従って評価の高い学生を上から10人に内定を出そう」と考えるのではなく、「10人の中にこの一人が加わったらどんな化学反応が生まれるだろう」と考えます。
そういう視点から見ると、10人の新卒社員が「1+1+1+1+1+1+1+1+1+1=10」ではなくて、「10x1.1^10=25.9」のようにチームとして強くなるわけです。

僕の前職であるDeNAの新卒は、同じ年の同期内で何人も起業家が生まれています。それは単に個が強いというだけではなく、お互い刺激し合うことでみんながより活躍していくという掛け算効果が働き続ける稀有な環境なんだと思います。
実際僕が新卒採用にたずさわっていたときも、僕個人の採用基準は「この一人が同期にいたら、他の新卒社員にとって長期的によい刺激になるんじゃないか」という点を重視していました。結果としてその当時内定を出した学生は、今や起業家として大活躍しています。

そこまで至るにはまだ時間がかかりそうですが、当社のインターン卒業生たちもそういう感じで活躍してくれるといいなーと思ってます。

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当社トラックレコードでは、強力な足し算となってくれるだけでなく、掛け算でチームを強くしてくれる新しい仲間を募集中です!
久しぶりに学生インターンも募集中です(社長室ポジション!)


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