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#39 あのあずき色、ボックスシートをもう一度。

北陸新幹線ができる1年前のことを書いた記事。
北陸では50年選手が頑張っていた。
先が無い路線への投資の姿勢と言えばいいのかわからないが、幸せなことに時代錯誤な環境がずっと残っていた。

母親が高校通学に使っていた車両に、その息子がまた乗るというのだから、母親がずっと若いか(笑)、車両がずっと残り続けたかのどちらかである。

こんなことを書くと、わざわざ言わんでいいとおかんに怒られそうだが、今の時代になって、共通のものを通して共感できるというのが何ともたまらなかったのを覚えている。

自分がその時代に行って、うん十年離れた人と同じことを体験したと言えるのだから、昭和が大好きな少年にとっては嬉しい以外の何物でもない。
強いて言えば、おかんと同じように友達がいて、その空間にもっと”演出”が付けばよかったのかもしれないが、それは贅沢なことかもしれないし、そこは”今の時代から持ち込めば”良いことだ。

ボックスシートの向かい側に靴下になった足を投げ、リュックは隣の席に。
飲み物を飲みながら、一駅一駅停まりながら進む時間を噛みしめる。
一度座ったら、そこはもう自分の部屋。
レールのつなぎ目のリズム感ある音にウトウト。
吹雪が吹き付けて窓の隙間から降ってきて目が覚めることもあれば(!)、章が変わってしおりを後ろにやりながら窓の景色を見て、もう一度本に目を戻す。
ボックスシートは不思議な空間なのだ。

◇◇◇

そんなボックスシートを自分の書斎にできたら、なんと嬉しいだろう。
朝上野8時。書斎が動き出す。
朝陽がまぶしくカーテンを半分閉め、戻ってきた通勤客に目をやりながら、胡坐をかいたり足を投げ出したり。

パソコンを広げて仕事のフリをしながら、コーヒーをすする。
流れていく景色を眺めながら、いつもよりもだいぶ長めの息抜きをする。
ああ、インスピレーションが降りてこない。今日はダメな日だ。
途中の駅で弁当を買おうか、はたまた駅で何か食べようか。

列車はもう国境を超えて、新潟県の越後湯沢。
温泉に手を突っ込んで、副交感神経を優位にしてゆったり過ごすスイッチを入れる。
ここでは30分停まるから、ちょっと降りて上でうどんでも食べるかな。
分厚いおあげのきつねうどんが美味いんだ。
関東よりちょっとヒヤッとする空気に”異国”を感じつつ、書斎に戻る。

気づけば列車は直江津で折り返し。
来た道を戻るが、もう日暮れが近い。資料を作ろうと思ったが、今日は降りてこない日だから仕方ない。
残りの時間はL字になってボックスシートで寝ようじゃないか。
昔はこうして夜行でスキーに行ったとか。
硬い座席はどうなのかと思ったが、やってみると意外と気持ちよく寝られそうだ。

気づけば戻ってきた始発駅。
12時間の長旅に思えるけど、会社で座るのとはわけが違う。
今日のテレワークはいい仕事だった。明日は会社に顔出すか。

こんなボックスシートで旅する書斎。
試しに作ってみようかな。

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