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忘れえぬ 二人

 その夜もしたたかに酔った太郎は、二次会に行かず、独り〆のラーメン屋に入店しました。
 カウンターに座し、明日のことを考えない「にんにく味噌ラーメン 大盛」を注文した太郎の視界に、離れた席に座る、学生のように見える若い男女が目に入りました。何となく地元民では無いように見えました。
 二人はガイドブックを覗きこみながら話をしています。声は聞こえないものの
女の子 「これが良いんじゃない、オススメらしいよ」
男の子 「これは高いよ、普通のでいいじゃない」
女の子 「せっかく旅行に来たんだし、ちょっとぐらい贅沢しても」
男の子 「いや、明日もお金を遣うと思うし」
女の子 「いいから、いいから、せっかくだし」
というようなイチャイチャした会話が、太郎の脳内をキャッチボールしていました。

 2人が何を注文したのかもわからないまま、太郎はスープも含め完食し、レジに向かいました。
「お客さんの、お会計は......」
と、伝票を探す女性に、
「あの2人の分も一緒に会計してください」
と、太郎は告げました。酔った勢いではありますが、旅行者らしい若者2人に、「ちょっぴり嬉しいサプライズ」を体験して欲しい気持ちでした。
「お知り合いなのですか」
 気が利かない店員に対して、黙って首を横に振り、太郎は千円札を3枚置きました。
「領収書は要りますか?」
 本当に、気が利かない店員に対して
「領収書は要りません、お釣りはください」
と応え、上着のポケットに釣り銭を突っ込み、店の外に出ました。

 若い二人が、その後どうなったのか知る術はありません。
 学生の恋が幸せな家庭に続く確率を知りません。
 名も知らない二人ではありますが、幸せに暮らしていることを願っています
 そして、何かの機会に、郡山のことを思い出してくれたら、二人の忘れえぬ思い出の一場面になれていたら、生きた甲斐があると思うのです。

 この投稿と、全く関係ないように思うかも知れませんが、「若い方」へのエールという内容に溢れる本が、こちらです。



 

 

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