新しいこと
とにかく新しいことを求めていた。新しい自分になりたかった、変わりたかった。 いつしか、色んなものを目で見たいと思うようになり、日を追う事にその願望は強まっていく。そんな思いとは裏腹に、なかなか踏み出すことが出来ず燻っていた、そんな私の新しいこと1つ目の話。
2023が始まった時やってみたかったことを全てやろうと、積極的に動こう、そう決意した。もとより消極的で自信を持つことが出来ない私にとっては大きな決断である。面白そうだと感じたらそれに乗っかろう、気になってた店には入ろう、そんな事だが一大決心なのだ。
その1歩として、私は生まれて初めてゲリラ的に家に帰らない、という決断をした。テレビや広告業界の方のお話を聞くことの出来る機会があり、そのイベントに友人と参加していた。興味深い話が繰り広げられていく中、私の興味や探究心は留まることを知らずに溢れていく。寒空、東京のど真ん中、様々な肩書きを持つ大人たちがエンタメについて熱く語るその場は、私にとって世界で1番素敵なものに思えた。こんな世界があると知らなかった。こんなにも、素敵な夜が存在することを知らずに私は今まで眠っていた。そう思うと今までの夜が勿体なくて仕方なく感じた。そして、気がついた頃には終電はとうに過ぎていた。ふと、スマートフォンに視線を落とすと数件のメッセージと着信。家族には夜遅くに帰る、と伝えていた為、心配のLINEが数件入っていた。「始発で帰るね」とだけ伝えると、電話が何度かに分けてきたのだが、それがなんとも鬱陶しいものに感じ、そっとスマートフォンの電源を落とした。1時をすぎ、少しずつ皆、眠気に飲まれる。もうこんな時間だね、と1人が言うと、終電ないですね、タクシーで帰るわ、などと皆次々と帰宅経路について話し始め、お開きとなった。外を出るとビルとビルの隙間から1月の冷たい風が吹いた。風は皮膚に刺さるほど冷たかったが、高揚で火照った身体にはちょうど良い。「寒っ」、友人が言う。「寒いですね〜」と返す。いつも人で溢れかえる東京には人が一人もいなくて、ビルの電気も消えていた。通った1台の車にどこか安心を覚える。見上げると東京の空にも星が浮かんでいて、いつも見えないだけだったんだ、と思った。「どうしようか」と言いながら近くの漫画喫茶やカラオケの情報を調べる。近くのカラオケへと入り、5時までのコースを選択する。説明を受けている間、ロビーで酔っ払った大人達が新年に浮かれているのかうさぎの耳のようなカチューシャを付けて、喫煙所を探していた。二、三人入れる程度の小さな喫煙所がロビー内にあったのだがそこには既に女性二人がいた。うさぎの耳をつけたままの酔っ払い達は気が付かず、ハイテンションのままガチャリと喫煙所の扉を開ける。2組の目が合う。うさぎの耳をつけた方が真顔になる。静かに扉を閉め部屋へと戻って行く。滑稽なうさぎ達の酔いが覚める音がした。興奮からか、いつも多い口数がさらに多くなっていた。これからやりたいこと、どう生きたい、頭の中にあるもの、声にしたことがないものを全部吐き出す。後から、少し私が喋りすぎてしまったと申し訳なく思ったが、友人は嫌な顔ひとつせず聞いてくれた。それどころか、拙い言葉で話す足りないアイディアを「面白い」と言ってくれる。だから、話したくなってしまう。この人なら私のアイディアに色を付けてくれるかもしれないという期待からかもしれない。友人は私より少し年上で、慎重で石橋を叩きすぎて壊すような私とは反対に行動的でアクティブな人だ。だから、私は彼女のことを尊敬している。私が持っていないものを持っている。こんなにも人生で、話を聞きたい、と思える人は彼女が初めてだった。しばらく話したあと、ポテトをつまみながら歌う。意外と、眠くないものだな。大体は、0時までには寝てしまうから、オールとかできないものだと思ってたけど、まだ行けそうだ。歌う、こんな夜に。何を歌ったかはあまり覚えていないけど、朝と呼ばれる時間はすぐに来た。
4時50分頃、受付にて会計を済まし、外に出る。外はまだ暗くて、人はいない。「竹下通り通っていこうか」、友人の提案で私たちは人のいない竹下通りを歩いた。中学生の頃よく遊びに来たなぁ、と思い出す。店の系統はあの時のカラフルでポップなものとは違って、少し大人びたものが多いような気がした。日中、人の溢れる竹下通りには、誰もいなくて、私たち以外世界から消えてしまったかのようにも思えた。「楽しいです。」口からこぼれた。「ねっ。」と友人が振り返りながら言った。
みんな、みんな、寝静まった、まだ暗い早朝。竹下通りに友人と私。先程までの貴重な体験を思い返し、頑張ろう、と心に誓う。もしも私が、将来どこかで自分にとっての大切な場所を聞かれたら、ここ、と言うかもしれないな。竹下通りを抜け、原宿駅が見えた時さっきまでここに居なかったはずの眠気がやってきた。また、一日がやってくる。電車には朝帰りの人、これから出勤の人が入り交じる。電車から朝焼けを眺め欠伸をひとつ。おやすみなさい、朝。
2023.1.20
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