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選択肢が、多すぎる

とある休日、妻から「もうすぐ3歳になる息子のために『豆イスが欲しいんだけど、ちょっと調べて」とのお達しがありました。

さぁ、情報戦の始まりです。

私はおもむろにノートパソコンを開き、Googleの検索窓に「妻からの丸投げ 対策」とコッソリ打ち込みました。

Google検索の結果、「妻に家計管理を丸投げする無責任夫」「休日に妻から邪魔扱いされる3つの理由」「妻が夫にイライラする5つの理由と適切な7つの対処法」など、なんだかGoogleを通して、たくさんの人々から私が責められているような結果が表示され、私は暗い気持ちになり、そっと検索結果を閉じました。

Googleが信用できなくなった私は、すかさずYahoo!JAPANを開き、膨大なニュースの一覧を眺めながら、冷めたコーヒーを電子レンジで温めます。

ニュースの中には、どうでも良い芸能ニュースが河原の石のように散りばめられており、それぞれのニュースのヤフコメ欄に「どうでもいいことばかり記事にするな」という意見がぶら下がっています。

「今日も、日本は平和だ」

微妙にぬるいコーヒーをすすりながら、私は今の日本が戦時中ではないことに安堵し、今度はYouTubeを開きました。

YouTubeで軽快なダンスミュージックを聞いていると、隣の部屋から、微かな殺気を感じます。

「音楽がうるさいよ?豆イスはどうなったの?」

「あぁ、ごめんごめん」

私は瞬時にYouTubeを閉じ、今度はnoteのダッシュボードを開きました。

「あ、プレビュー数がちょっと増えてる」

二コリとしたのも束の間、気づくと妻が隣に立っていました。

多分、その時の妻に効果音をつけると「ゴゴゴゴゴゴゴ」というような音になると思います。

私は慌ててnoteを閉じ、心の中で妻に土下座しながら「今から調べるね!」と妻に明るく返事をしました。

スマホのLINEを見ると、妻がAmazonやメルカリで調査した豆イスへのリンクが何件か届いています。

妻の顔は曇っています。何とか挽回しないといけません。

私は生命への危機を感じながら、Google、Amazon、楽天、ヨドバシカメラ、メルカリに、それぞれ豆イスの種類と価格を訪ねてみました。

その結果を見続けているうちに、私はコーヒーを片手に白目をむきました。コーヒーを手にしていなければ、私はイスに座ったまま、後ろに転倒して後頭部を強打していたと思います。

出るわ出るわ、豆イスの情報。

新品から中古まで、ありとあらゆる豆イスの情報が、山のように検索結果として引っかかってきます。

「検索したら、めっちゃ豆イスあるんだけど、どんなのがいい?」

私は薄れゆく意識の中で、なんとか正気を保ちながら妻に質問を投げかけました。

「うーん、やっぱりアンパンマンかなぁ。中古よりは新品がいいかも。」

私は、水を得た魚のように、この妻の一言で正気を取り戻し、心の中で華麗にガッツポーズを決めました。

「新品のアンパンマンの豆イスやね!それなら、対象を絞り込める!」

私はルンルン気分で、今度はメルカリ以外のGoogle、Amazon、楽天、ヨドバシカメラに、それぞれアンパンマンの豆イスの種類と価格を訪ねてみました。

「あれ?Yahooショッピングを調べ忘れてる」

「Amazonは在庫切れかぁ。残念」

「えっと、楽天とヨドバシカメラ、どっちが安いんだっけ?」

「本体価格安いのに、なんじゃこの送料の高さは」

「価格ドットコムも調べてみよう」

「noteのプレビュー数は増えてるかな?」

「え?何?お腹が空いたから何か作ってくれ?」

儚い私の脳みそは、すでにパンクしそうです。

この時、妻から衝撃の一言が発せられました。

「あ、やっぱり豆イスは中古でもいいかも」

「お、おう、分かった。じゃあ、もう1回メルカリも調べてみるね!」

私はメルカリの検索結果を総ナメにした後、妻に懇願しました。

「ちょっと調べるのに疲れた。休んでいい?」

妻の回答は意外なものでした。

「いいよ。特に急いでないから。それより、お腹空いたんだけど」

私は、心の底から何かマグマのようなものが湧き出てくるのを感じながら、笑顔で「ありがとう」と返し、すかさずnoteのダッシュボードを開きました。

「あ、スキが1つ増えてる。うれしい」

私のヘドロのような文章にスキをつけてもらえるなんて、私は、なんて幸せな人間なんでしょう。

幸福感に包まれたのも束の間、私は妻のお腹が空いているという最重要事項を思い出し、慌ててキッチンに向かいます。

「さて、何を作ろうか」

恐竜の脳みそほどしかない私の脳内で、膨大なメニューと冷蔵庫の余りものを勘案し、選択肢を絞り込んでいると、もうすぐ3歳になる息子が私のシャツを引っ張りました。

「お腹空いた!ラムネ食べていい?」

「うーん、今からお昼ご飯作るから、あとにしようか」

「やだ!ラムネ食べる!一緒にラムネ、いーっぱい食べようねっ!」

息子が浮かべる満面の笑みに、私はすぐに白旗を上げ、仕方なく息子にラムネをあげることにしました。

「アンパンマンのラムネと、普通のラムネ、どっちがいい?」

「アンパンマンのラムネ!」

私は、息子にあげるラムネの選択肢が2つしかないことが嬉しくなり、少し多めに、5粒ほどラムネを息子にあげてしまいました。

「ご飯前にラムネあげたらダメでしょ?」

隣の部屋から、洗濯物を畳んでいる妻の声が聞こえますが、もはや私の心は「小島よしお」です。そんなの関係ねぇ。

息子にラムネを与え大人しくさせた後、私はちゃちゃっと昼食に「おじや」を作りました。

「いただきまーす」

みんなで美味しく「おじや」を頂いたあと、待ち受けるのは、情報戦の第2ラウンドです。

私は、足りない頭とノートパソコンを駆使し、妻にアンパンマンの豆イスに関する商品価格の相場と、ついに見つけた底値の商品価格を自慢げに伝えました。

妻からの回答は、私の予想の遥かナナメ上を行くものでした。

「近くにある西松屋の店舗に行ったら、もっと安く売ってるんじゃない?」

私は貧血を起こしたのか、目の前が真っ暗になりました。

「水の泡」

今日ほど、この言葉をかみしめた日はないと思います。

結局この日、私たちは、西松屋で最安値のアンパンマンの豆イスを手に入れることができました。

我が家のリビングでは、息子が誇らしげに豆イスに鎮座しています。

私は、長い戦いを終え、安堵の表情でノートパソコンを開きました。

ネットにへばりついているGoogleの広告欄を見ると、どこもかしこも「豆イス」の情報でいっぱいです。

「一体、Googleは、私たちにどれだけ豆イスを買わせたいのだろう」

そう思いながら、私はnoteのダッシュボードを開きました。

「あれ、フォロワーが増えてる」

嬉しくなって有頂天になっている私に、青天の霹靂のごとく、妻から新たな指令が下りました。

「押し入れを整理するために、棚が欲しいんだけど、調べてくれる?」

私に「調べない」という選択肢はありません。

さぁ、情報戦の第3ラウンドです。

早速、棚を検索すると、ノートパソコンの画面を通じて、星の数ほどの多種多様な棚の情報が目に入ってきました。

私は思わず、力なくぼそりとつぶやきました。

「選択肢が、多すぎる」

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数ある豆イスの中から、奇跡的に我が家にやってきた、アンパンマンの豆イスです。

換気扇にこびりついた油汚れのような私の記事を読んで頂き、本当にありがとうございます。サポートして頂けると、妻がニッコリします。