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【3分で読める】「ノーチラス/ヨルシカ」を聴いて小説のワンシーンを想像した。【歌詞解釈】

円形の窓にもどかしさを感じるのは私だけだろうか。
折角海の深部を見ることが出来る船の地下室なのに、見た目の可愛らしさを重視するあまり、可視領域を狭めてしまっている。これでは本末転倒ではないか。そんなことを考えながら、ぼんやりと船内の様子を眺めていた。

そんなことを考えているのは、きっとこの場で私ただ一人だろう。私と同世代くらいのワンピースを着た女性、海の底を眺めようと必死に窓に顔を擦り寄せる子供達。私以外の全員が皆、海の深世界に夢中の様子である。

美しいものを純粋に美しいと思える素直さ。
自分の知らない世界に興味を持つ無邪気さ。

私にはそれが足りないのだと思う。
いや、かつての私はそれを知っていた気がする。


「船 窓 丸い 理由」なんてワードをGoogleの検索欄に入力して、スマホのエンターキーを押す。船の地下でも電波が通じているらしく、私が欲している記事がずらっと一覧表示された。

なるほど。四角形の窓では波の力が均等にかからず、四隅から金属疲労を起こしやすくなるらしい。もっとわかりやすく言えば、「船の強度を保つため」である。少なくとも、おしゃれのためではなかったようだ。

スッキリした気分になって、ブラウザを閉じる。その時、先ほどまでかじりつくように外の様子を見ていた男の子が、船内に響き渡る大きな声で言った。
「あの魚、どうして頭にコブが出来ているの?」
あまりに大きな声だったので、近くにいた母親が恥ずかしそうに子供を嗜める。
「どこかの岩に頭をぶつけたんじゃないかしら。ほら、魚って人間の何倍も泳ぐのが早いでしょう?」
「間違えてぶつかっちゃったってこと?ははっ!魚っておバカさんだ」

恐らく子供が話題にしたのは、コブダイの頭上にあるコブのことだと思った。コブダイのコブは、「自分の優位性をアピールするため」に存在する。長く生きた方がコブが発達するため、コブが大きければ大きいほど、生存能力が高い証明になる。簡単に言えば、強い方がメスにモテるということだ。

自分の強さを主張するためにいちいち喧嘩していたらきりがないし、命の危険を脅かされてしまう。コブの大きさ勝負は、種としての繁栄に根ざした合理的な生存戦略なのだ。と、ネットの記事で読んだことがあった。

それは知っている。
それで?知っているから、なんだというのだろう。

知っているから偉いわけでもないし、知ることが誰かの為になるわけでもなかった。強いていうならちょっとした優越感があるけれど、それもすぐ波に流されて消えてしまう。

そんなくだらないことで考えこむ自分なんかよりも、あの男の子の方がよっぽど、聡明だと思う。知識がなくたって、海の景色を楽しむことは出来るのだから。

こんなことを思ってしまうのは、魚の泳ぐ姿を眺めているあの目に、かけがえのない輝きを見出してしまったからだろうか。

私は”かけがえのない物”という言葉が苦手だ。
知らないモノを怖がったり敬遠するのは人間の性であるし、ネットや本で調べてもそれを私は絶対に理解できないのである。

私とあの子との違いは、果たしてどこにあるのだろう。
「知っている」か「知らないか」なのか。
「魚を見ている」か「見ていない」か。
「長く生きている」か「生きていない」か。
「考えている」か「考えていない」か。

私は少年に習って、窓の外に目をやる。
それからゆらりと揺れる船の動きに体を委ねると、ほんの少しだけ心地の良い感じがした。

目の前を一匹のコブダイが、気持ちよさそうに泳いだ。


たみな涼介



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