[ジョブ理論の実践] the JOBS TO BE DONE playbook
ジョブ理論。
実業務で活用するのはなんだか難しく、実践について書いた良い本はないかと探していました。
そんな中、ジョブ理論の実践をテーマにした本「the JOBS TO BE DONE playbook」と出会いました。
本記事では、この書籍から学んだ実践的なジョブ理論の枠組みと、ジョブ理論を活用したペルソナ作成の実践についてお伝えします。
(英語の書籍です。誤訳があったらご指摘ください。)
ジョブ理論の概要をある程度知っていると読みやすいかもです。
書籍: the JOBS TO BE DONE playbook
ジョブ理論の実践を主題とした本です。
著者は Jim Kalbach。マッピングエクスペリエンスを書いた方ですね。
Jimさんは、去年のプロダクトマネージャーカンファレンスにも登壇し、ジョブ理論についても話していました。
Amazon.com でも高評価な書籍です。
ジョブ理論とは
ジョブ理論(Jobs to be done:以下、JTBD)は、顧客が求めているものを明らかにする手法の一つです。
「顧客が欲しいものは1/4インチのドリルではなく、1/4の穴だ」をさらに煎じ詰めた感じです。
JTBDでは、性別や年齢といったデモグラフィック、いま使用しているサービス・プロダクトの情報で顧客を表現しません。
そういった情報を抜きにした上で、「顧客が成し遂げたいことは何か?」という観点で顧客を表現することで、容易に変容しない顧客の本質的な欲求を掴むことができます。
マクドナルドのミルクシェイクの事例が有名です。
JTBDを知り活用することで、より高い解像度で顧客を見ることができます。
JTBDの要素
この書籍では、JTBDの概念を5つの要素に分解し説明します。
- Job performer(who): ジョブを実行する人
- Jobs(what): ジョブ
- Process(how): ジョブを果たす手段
- Needs(why): Job performerの行動の理由
- Circumstances(when/where): 上記4つの要素が置かれた文脈・状況
5つに分けると、難解なJTBDの輪郭をなんだか掴めそうな気がします。
この記事ではJobs(what)(以下、Job)に軽く触れます。
Main Job と Related Job
JobはMain JobとRelated Jobに分けることができます。
さらにMain Jobに「感情的なジョブ」と「社会的なジョブ」が含まれるという整理です(「感情的なジョブ」と「社会的なジョブ」はクリステンセンのジョブ理論に登場するものと同様です)。
例えば「退職後の資産ポートフォリオを構築する」というMain Jobにおける感情的なジョブと社会的なジョブ、Related Jobは以下のとおりです。
- 感情的なジョブ:貯金が管理下にあると感じる。
- 社会的なジョブ:貯金できていると思われる。
- Related Job:住宅資金を調達する。キャッシュフローを保つ。
Jobの書式
Jobの書き方が定義されています。
JTBDの実践においては、この「書式」が非常に重要です。
書式に基づくと、Jobは次のように記述されます。
verb(動詞) + object(目的語) + clarifier(状況を表す例)
あくまで英語の表記ですので、日本語で記述する際は注意が必要です。
clarifierは必要に応じて付与するもので、今回は説明を割愛します。
他にも以下のような注意点があります。
書籍にある具体例を見てみましょう。
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間違いの例 1
データベースにあるドキュメントをキーワード検索で探す
(原文)Search by keyword for documents in the database
正しい書き方
コンテンツを検索する
(原文)Retrive content
間違っているところ
「キーワード検索」というソリューションが含まれています。
Jobは、特定のサービス・ソリューションを含まずに定義されます。
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間違いの例 2
人々は近くのミートアップやカンファレンスに出席したがる
(原文)People prefer to attend meet-ups and conferences that are nearby
正しい書き方
イベントに出席する
(原文)Attend an event
間違っているところ
「人々は〜したがる」という所見や好みが反映されています。
また「ミートアップ」「カンファレンス」という異なる概念が併記されています。
それらを排除しシンプルに記述する必要があります。
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厳密なルールですが、ここまで簡素に書き下せるからこそJobであり、書けるほどに顧客を理解することがJTBDの概念です。
Jobの階層
Jobには階層を定義することができます。
それぞれのレベルは「How?」「Why?」の関係でつながっています。
Big Jobに上述のMain Jobを当てはめることが多いようです。
実際には単一のBig / Main Jobだけが見出されることはないでしょう。
JTBDをベースとしたユーザーモデルの構築において、この階層構造は有用です。
JTBDの実践:JTBDをベースにしたペルソナ作成
書籍では、このようにJobを定義した上で、Jobを明らかにするためのインタビュー方法やJobからアイデアを生み出すためのJob Map(ジャーニーマップの一種)の作成、組織への導入方法などが詳しく記載されています。
この先はぜひ書籍をご覧ください。
さて、そもそもなぜこの本を手に取ったかというと、JTBDを実践するためです。
そこで、僕が携わっているプロジェクトでJTBDをベースにしたペルソナ作成に取り組みました。
プロセス
行動観察やインタビュー、ジャーニーマッピングで得た既存のリサーチデータを再解釈し、作成しています。
JTBDのメガネでデータを見直し、JTBDに則したフォーマットにまとめ直すだけで、十分に足る状況でした。
ペルソナのフォーマット
バリュープロポジションキャンバスのカスタマープロファイルをベースにしました。
Jobの記述を階層にし、Circumstances(状況)と最低限のプロフィールを付記しています。
そのほか特に真新しいものはありません。
--閑話休題--
ときどき「JTBD vs ペルソナ」という対立構造を耳にしますが、今回は両者の良いとこどりをしています。
実際にこの書籍でも「Goal-Based Personas」というJTBDとペルソナを融合した手法が紹介されています。
JTBDの実践:よかった点
- Jobの書式で記述できない時は、逆にユーザーの理解が浅いということが分かった。
- デモグラフィックな情報に左右されない分、本質的な議論に時間を費やすことができた。
- JTBDに則った情報分類と一貫した書式でペルソナを記述することで、ペルソナ作成に関わっていない関係者にも共有が容易となった。運用のしやすさにもつながっている。
JTBDの実践:難しかった点
ルールを厳密に守ることが難しいです。
特に、特定のソリューションを含めないという定義がなかなかに厄介でした。
例えば、エクセルは確かに特定のソリューションです。
しかしあまりにも業務に深く入り込んでおり、Jobからの切り離しが困難な場面がありました。
本ペルソナの作成にあたっては、Micro Jobの記述にエクセルの使用を含めています。
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JTBDは容易に変容しない顧客の本質を明らかにします。
ただ如何せん日本では目に見える実践例が少ないように感じています。
良い手法だと思うので、今後も様々な場面でJTBDの活用を模索していこうと思います。
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