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選んだ幸せはよい幸せ

 頭の中にある世界を一度粉々に砕く。
 理想だとか、幻想だとかいう綺麗なものを持っていては決して入ることの出来ない世界に私たちは向かうのだ。

 「ハローワールド 私は元気です。」

 門前で誰かが言った。
 別にそちら側に行きたいわけでも、綺麗なものを捨てたいわけでもない。でも、もう戻れない。レールから外れたら、二度と戻ってこれないから。
 何を言えばよいのかわからないが、私も同じことを言えばよいのだろうか

 「ハローワールド 私は元気です。」

 門番は聞きあきたような表情を見せながらも私を通してくれた。
 門をくぐり後ろを振り替える。
 その頃には綺麗なものを失ったことにはとうになれてしまっていた。
 門の外ではどんどんと世界がぼやけていく。
 取り残された人、あえて残った人、皆一様に私には見えなくなってしまった。
 彼らは何をしていくのだろうか。
 そんなことを考えると怖くなり、私は前を向くことにした。
 やっとの思いで潜り抜けた門の先は、大小含む無数の門がそびえ立っていた。
 これらを、くぐるたびにまた何か失っていき、そして忘れていくのだろうか。
 多くの門の先にひとつの大きな旗がたっていた。
 よく見ると無数の人がその旗に向かって駆け出している。なかには途中でこけてしまって立ち上がれなくなった人もいた。
 咄嗟に助けにいこうとしたけれど、気がつけばその人はそこで座りうごかなくなってしまった。
 私はいまだ立ち尽くす。
 もう時間はない。
 今すぐに走り出さないと、旗にはとどかない。

 「ハローワールド 私は元気です。」

 張りぼての笑顔を張り付け、私は走りだした。

 旗が風になびき、全容があらわになった。
 旗にはただ大きく一言
『幸せ』 
 と書かれていた。
 もう一度なびき、文字は見えなくなった。

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