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慣れると成れる

 人間はなれる生き物である。
 才能も努力も環境もすべてが異なる。得られるものも、得たものをとっておける器の大きさも違う。
 神様はめんどくさがりだから、不条理を直そうとせず、手っ取り早く慣れさせるのだ。 
 繰り返して、繰り返して、繰り返して。
 そうしていくうちにきっと自分の居場所を見つけて満足する。
 そして、たまに上を見上げて、眩しさと悲しさをない交ぜにした視線をおくり、それをごまかすために下を見下ろし、安心と蔑みを含んだ視線を送る。

 私は何かに慣れ、成ろうとしている。
 何者でもない私が、何者にもならない私であるのに。
 何者かに成ったとき、私はどうなっているのだろうか。
 何かに成らねばならないのだけれど、それが恐ろしくてたまらない。
 ああ、頼むからなれるなんて恐ろしいことをいわないでくれ。
 そんなのあまりに残酷じゃないか。

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