バーフライ〜酒とギャンブルと愛する女と執筆に生きた伝説の作家チャールズ・ブコウスキー
『バーフライ』(Barfly/1987年)
『町でいちばんの美女』『ありきたりの狂気の物語』といった短編集、『勝手に生きろ!』『くそったれ! 少年時代』などの長編小説、そして『指がちょっと血を流し始めるまでパーカッション楽器のように酔っぱらったピアノを弾け』をはじめとする詩集で知られる、作家/詩人のチャールズ・ブコウスキー。
1920年、ドイツに生まれたブコウスキーは、第一次世界大戦を機に家族でアメリカに移住してきた。
20代前半、LAの大学を中退した彼は、様々な職を転々としながら放浪へ出る。そして20代半ばの時、NYにやって来ると執筆活動を開始。同じ頃、ジェーンという女と出逢って長い同棲を始めた。
酒と賭事と女を愛した男は、破天荒な生き方と飢えの中で創作活動を続け、50歳手前でようやく専業作家としての生活を確立。伝説の作家として若い書き手のリスペクトを受けながら、1994年に73歳でこの世を去った。
「脚光を浴びるのは、死んでからだと思ってた」と言う、ブコウスキーの詳しい人生については、一連の自伝的著作で触れることができる。
『バーフライ』(Barfly/1987年)はブコウスキーが脚本を手掛けた映画で、20代半ばの彼の日々を彷彿とさせる物語だった。
バーフライとは、バーで酒をねだるアル中を揶揄した言葉。あるいはバーに入り浸る者。
監督のバルベッド・シュローダーは、ブコウスキーが描く悲しみとユーモアが溶け合った世界に魅せられていた。
監督も命懸けで、「資金を出さないと指を詰める」と映画会社の重役を脅し、ハリウッド映画としては異色の題材を扱った作品が誕生することになった。
主演はミッキー・ローク(本作は代表作の一つ)と名女優フェイ・ダナウェイ。撮影はヴィム・ヴェンダースやジム・ジャームッシュとの仕事で知られるロビー・ミュラー。
オープニングとエンディングで、ブッカー・T&ザ・MG'sのソウルフルなスタックスナンバー「Hip Hug-Her」が聴こえるのが印象的な映画でもある。
仕事もせずに酒浸りで、喧嘩ばかり繰り返すヘンリー(ミッキー・ローク)は、気が向いた時にだけモーツァルトやベートーヴェンを聴きながら、ペンを走らせる男。自分の部屋と行きつけのバーを往復する生活を送っている。
そんなある夜、バーの片隅で、同じように酒浸りのインテリ女・ワンダ(フェイ・ダナウェイ)と出逢ったことから、彼の人生は動き始める。酒瓶が取り持つ恋は、お互いの氷のような孤独を溶かしていく。
一方で、ヘンリーは何者かに付きまとわれる。それは私立探偵で、雇い主は出版会社の女社長だった。彼女はヘンリーの才能を買っていて、多額の待遇で囲い込もうとするのだが……。
ワンダのモデルは、ブコウスキーが愛したジェーンだと言われている。作家は死んだ彼女のために、こんな詩を綴った。
そして、朗読を終えたブコウスキーは言った。
「美しい女だった……忘れてくれ」
Charles Bukowski 1920.8.16 - 1994.3.9
文/中野充浩
参考/『バーフライ』DVD特典映像、パンフレット
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