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ミステリー・トレイン〜ジョー・ストラマーや工藤夕貴らが出演したジャームッシュ映画

『ミステリー・トレイン』(MYSTERY TRAIN/1989年)

『ストレンジャー・ザン・パラダイス』の後、日本から一通の奇妙な手紙がジム・ジャームッシュの手元に届いた。

そこには「あなたの映画が好きだ。一緒にビールを飲もう。私は東京に住んでいる」と書いてあった。もしNYに来られるならOKだよと返事すると、10日後、本当に本人がやって来た。

こうしてJVCの平田国二郎は、ジャームッシュの新作のためのプロデューサーになった。監督に映画創作のための自由を保証し、製作費もバックアップしたこの作品は、『ミステリー・トレイン』(MYSTERY TRAIN/1989年)と名付けられて、1989年のカンヌ映画祭で初披露された。

いつも一緒に仕事をしたいと思ってる俳優やミュージシャンたちのことを考え、脚本作りをするというジャームッシュは、今回も様々な顔ぶれを思い浮かべた。

ジョー・ストラマー、スクリーミン・ジェイ・ホーキンス、ニコレッタ・ブラスキ……その中には、日本人俳優の工藤夕貴もいた。

当初バラバラだったアイデアは一つにまとめられ、エルヴィス神話が生き続けるテネシー州メンフィスを舞台に、古びたホテルに泊まる3組のストレンジャーたちの、同時進行する3つの物語という形で仕上がった。

撮影は1988年の夏にオールロケ。ジャームッシュ初のカラー作品だが、カメラが人物をゆっくりと追うスタイルは不変。ハリウッドでのビジネスなどまったくもってウンザリだと、彼らしい美学を貫く秀作だ。

日本公開時の映画チラシ

「ファー・フロム・ヨコハマ」は、列車に揺られて憧れのメンフィスにやって来た日本人カップル、ミツコ(工藤夕貴)とジュン(永瀬正敏)の姿が描かれる。

サン・スタジオに行くか、グレースランドに行くかで迷う二人は、メンフィスが自分たちが住む横浜と似ているかどうかなど、他愛のない会話を繰り返し、ホテルでベッドインする。

「ザ・ゴースト」は、メンフィス空港から町に辿り着いた、イタリア人女性ルイーザ(ニコレッタ・ブラスキ)の奇妙な1日を追う。

雑誌を大量に買わされたり、馬鹿げたエルヴィスの作り話に金を払い、無一文の見知らぬ女とホテルの同じ部屋に泊まったり、何かと人は良さそうだが、明らかにマフィアの女であるところが面白い。ルイーザはその夜、ベッドでエルヴィスの幽霊を見る。

「ロスト・イン・スペース」は、女と仕事を同時に失って、人生に絶望しているイギリス人のジョニー(ジョー・ストラマー)と仲間たちの一夜。

酒場で銃を振り回すジョニーの姿に手を焼いて、工場仲間のウィル(リック・アーヴァイルス)と女の兄貴で床屋のチャーリー(スティーヴ・ブシェミ)が呼び出される。ジョニーが酒屋の店主を撃ったことにより、ホテルに身を隠すことになる酔っ払った男たち。ところが……。

ジョーは素晴らしい。信じられないくらい集中力のある情熱的な男だけれど、ちょっと無愛想で、お喋りはほとんどしないけれど、話すときはとても的確なんだ。(ジム・ジャームッシュ)

『ミステリー・トレイン』パンフレットより

『ミステリー・トレイン』における、ジョー・ストラマーの存在は大きい。酒場のワンシーン。ジュークボックスとじっくり向き合い、ルーファス・トーマスの「Memphis Train」を選ぶ姿(どこか微笑んでいる)には、演技を超えたミュージシャンとしての喜びのようなものが伝わってくる。

また、3つそれぞれの物語に絶妙に絡んでくるホテルのマネージャー役にスクリーミン・ジェイ・ホーキンス、ベルボーイ役にサンキー・リー(スパイク・リーの弟)というコミカルな設定も見逃せない。

選曲の本物さもジャームッシュ作品の楽しみの一つで、始まりと終わりにはエルヴィス版とジュニア・パーカー版の「Mystery Train」が流れ、傷心のジョニーを包むようにして聴こえるのはオーティス・レディングの「Pain in My Heart」。そして深夜のラジオDJ(トム・ウェイツ)が流すのは、ロイ・オービソンの「Domino」とエルヴィスの「Blue Moon」だ。

どうも、エンジニアがコーヒーを。ありがと。今の曲はロイ・オービソンがザ・ローゼスと共に歌ったロックの傑作「ドミノ」。番組はまだまだ続くよ。時刻は午前2時17分。キングがサン・スタジオで録音したこの曲。真夜中に聴くエルヴィスの曲なら、これだよ。「ブルー・ムーン」

映画『ミステリー・トレイン』より

文/中野充浩

参考/『ミステリー・トレイン』パンフレット

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